父さんの性格
それが何か知っている。3人の個人データ。
この人は関わりを持つ人間のことをすべて事前に調べる。今回はその順序が逆になっただけ。
でも……何も、目の前でそんなことしなくてもいいのに。恥ずかしい……ただ怒られるだけの方がよっぽどマシ。
「ほう。成績全国トップか、大したものだ…」
「あ!」
鈴乃ちゃんがレポートの内容に気づいた。
「なるほど、君は磐拝美術の孫か。あそこは信用できる」
磐拝くんは気づいているのかどうか……いつもと変わらない表情でその言葉を聞いている。
そして3枚目、天凪くんのデータに目を通した途端、眉がピクッと跳ねた。
「君は、み……誰だ?」
明らかに動揺しながら天凪くんに問いかける。『み』って言いかけたのは何なんだろう?
「そこに書いてあるんだろ。そのままだぜ」
「なぜ君が私の娘に近づくのかと聞いている」
「近づくも何も、クラスメイトなんだからしょうかねぇだろ。それより、あんたそんな紙切れで自分の娘の友だち選んでるのか?」
父さんは眉をひそめ、じっと天凪くんをにらみ、天凪くんもにらみ返す。あれ? 父さんは天凪くんのこと知ってるんだろうか。
「話ではその机を君が1人で運んだそうだが?」
急に話題を変えるのは、父さんが何か企んでいる時。
「おう。この机が置いてあった部屋、殺されたくなかったやつらに囲まれて、すごく悲しいって騒いで大変だったからな」
そうか。私が落ち着かないと感じた他の部屋にも、必ず剥製があったんだっけ……幽霊なんて信じてないけど、殺されたくなかった生き物の毛皮に囲まれた部屋。そう考えると確かに落ち着かない。
だけど、どうして天凪くんは自分のことじゃないみたいな言い方をするんだろう?
「すまないが元に戻してくれないか」
「おう、ちょうど宿題も終わったところだし、そのつもりだぜ……鈴乃、またドア頼む」
「あ、う、うん」
心配そうに成り行きを見ていた鈴乃ちゃんに声がかかると、持ってきた時と同じように、扉が開けられた。
父さんが天凪くんの動きをじっと見つめる。他の人たちも、少し後ろから見ている。
さっきと同じくヒョイと肩に担いだ。
動きに重さが感じられない。父さんはほんの少しだけ顔色を変えただけで、それよりも、後ろにいた秘書……ボディーガードの小佐田さんが口を少し開けて驚いている。
父さんが天凪くんの後に続き、永瀧さんと2人の秘書、私たちもそれについていく。椅子は磐拝くんと小佐田さんが2個ずつ持っている。
「おうっと……ここでいいか?」
運び始めて数分で、机は元の客間におさまった。
「ふふふ……小佐田。やって見るか」
「……はい」
小佐田さんが前に進み出て、天凪くんと同じように机の下に手を入れた。
「ふん!」
みるみる顔がまっ赤になり、背広越しに筋肉が膨張しているのが見える。少しだけ持ち上がったところで汗だくになって床に座り込んだ。息がすごく荒い。
「おもしろい男だな、おまえも……」
父さんは笑いながら、天凪くんを見る。
「引っ越しの時はいつでもいってくれ。手伝うぜ」
「なぜ隠しているのかね?」
「見せびらかすと、どうなると思う?」
また無言で向き合う。
でも、今度はにらんでいない。
「天凪義雄は父親だな?」
「……2年前に事故で死んじまったけど。知っているのか?」
「勤めていた会社の仕事以外に、何か聞かされていないか?」
「何かって何だ? 仕事以外に何かやってたっていうのか?」
「聞かされていないのなら構わない。ビジネス上の話だ。断っておくが人にいえない裏の話ではなく、極秘プロジェクトだったんだが……。
これからはいつでも来るがいい、歓迎するぞ」
そういって踵をかえして部屋を出ていく。
永瀧さんともう1人の秘書、実務担当の劔持さんがそれに続く。小佐田さんもあわてて立ち上がってついていくけど、まだ足元がフラフラしていた。
「佳月、今度の学校は楽しいか?」
部屋を1歩出たところで、思い出したかのように父さんが振り返った。
「ええ、とても」
「そうか……」
そういうと振り返ることもなく足早に立ち去っていく。
劔持さんに何やら指示を出している声が遠くから聞こえた。
私たちも部屋から出た。
「ははは……久しぶりに緊張したぜ。おまえの親父すげぇ迫力だなぁ」
緊張感のカケラも感じさせない声で天凪くんが笑いだした。
「どうなるかと思ったよ仁狼ちゃん」
「本当に……」
改めて驚いた。
小佐田さんは選りすぐりのボディーガードのはず。変な筋肉肥りはなくスラッとしていて、見た目はカッコいいけど、少し恐い。
体格だけ見ると磐拝くんに似ている。
まだ話をしたことはないけど、弓香さんの話では色々な武術の段位をすべて合わせると何10段にもなり、どれもが師範クラスの強さで、その上軍隊での経験もあるという、とんでもない人らしい。
あの人を雇う前は、劔持さん以外に3人を連れていた。父さんの合理的な性格を考えると、その実力は容易に想像がつく。
「……本当に、どうなってるの? その力」
部屋に戻ってから、改めて尋ねてみた。
「なんだっけ? 火事場のクソ力ってやつだよな? 鈴乃」
「うん。仁狼ちゃんは基本的に力があるけど、脳から出るアドレナリンやエンドルフィンを自分でコントロールできるの…一般にいわれる火事場の馬鹿力を自由に使うことができるんだよ。
実際にふだんの7倍は力が出せるのが分かってるの。
仮にあの机が200キロだったとしても、仁狼ちゃんには30キロ以下にしか感じないってことなの」
「俺はふだんでもバカみてぇに力があるから30キロくらい、どうってことねぇよ」
「……それでも30キロっていったら。
父さんも尋ねてたけど、そんなことができるのをどうして隠してるの?」
「知らねぇ。鈴乃がそうしろっていったから」
「じゃあさっき、父さんにいったのは?」
「それも、鈴乃がそう答えろっていってたから」
平気な顔の天凪くんの言葉に、磐拝くんは小さく笑う。
「じゃあ鈴乃ちゃん、どうして?」




