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Da sein―待ち人お嬢とやさぐれ貴族―  作者: 霜月美由梨
七章 思い出すあの日、あの言葉
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七章 思い出すあの日、あの言葉

「昨日はどうしたの?」

 そんなリノの声が地下室内に響く。

「すこし体調を崩してしまって……。すいませんね」

 朝食を持ってきたグイードがそうこたえて肩をすくめる。

 昨日の朝、食料を持ってきたきり今まで丸々二日、やってこなかったのだった。その間食事は事務的な表情をした四十代ぐらいの女がもってきたのだった。

 グイードの受け答えする声にどこか軽いものがあるのは気のせいだろうか。

「なにかあったの?」

 リノの言葉にピクリと肩を震わせて、少しだけ顔を紅くしてそっぽを向いたグイードに、エナとなにかがあったのだなと、深く追求をするのをやめた。

「なんでもないですよ。さ、今日の朝食です」

 そういいながら差し出されたのはさらに盛り付けられたバターの塗られたパンと、ほこほこと湯気が立つミルクだった。

「どうぞ。簡単なもので申し訳ございません」

 リノが座っているベッドの隣にあるサイドテーブルにそれを置いて、自身は椅子を持ち上げ少し離れた場所にある暖炉の近くで座った。

「寒いの?」

「大丈夫ですよ。外は寒いですけど、ここは暖かいんですよ」

「なんで?」

 パンをちぎりながらそう尋ねるリノに、グイードは炎に目を向けながら肩をすくめた。

「この隣は、軍の技術開発部の持ち物でして、蒸気機関のパイプがこの壁に張り巡らされているのです。夏場は蒸し風呂になってしまいますがその分冬場は過ごしやすいばしょになるんです」

 グイードは胸ポケットからちいさな包みを出してふっと表情を和らげて目を伏せた。

「どうしたの?」

「大丈夫ですよ。早く食べないと冷めますよ」

 グイードの手にあったのは、ちいさな焼き菓子。寂しそうな瞳を隠そうともせずにそういうグイードにそれ以上なにもいえずに、無言で頷いたリノはおとなしく朝食をとった。

「ねえ」

「なんですか?」

 包みの中身を食べ終えたらしいグイードに、ミルクを飲みながら話しかけたリノは、ふと部屋に目を滑らせた。

「ここって一体どこのなの?」

 その問いに、グイードが目を瞬かせて、納得したように頷いた。

「まあ、しいて言うならば書庫の下、ですね」

「書庫の下?」

「ええ。軍の施設には大体こういう風に隠し部屋があります。書庫は総帥や、それの準ずる者の身を隠すための部屋として……」

「なんで身を隠すの?」

 きょとんとした問いにグイードが小さく苦笑をした。

「それは、あれです。もし、敵に攻められても指揮官を守るためです。王城にも同じような仕掛けがあると聞いたことがあるので、それと同じですよ」

「へえ。でも、兵士がいないと意味ないんじゃない?」

 ミルクを飲みながらそういうリノの言葉に、グイードが軽く笑い声を立てた。

「そうですねえ。兵士あってこその指揮官ですからね」

 肩をすくめて椅子に背中を預けるグイードの様子がおかしいことに気付いて首をかしげたリノがはっと、ある言葉を思い出した。

「そうだ、一昨日後二日で終わるって言ってたよね。どういうことなの?」

 その問いにグイードが振り返る。暖炉とランプに照らされた部屋の光ではその表情はあまり見えなかった。

「……よく覚えてましたね」

「バカにしてた?」

「少しだけ」

「あんたね……」

 しれっというグイードに片眉を吊り上げたリノは呆れてなにも言う気をなくした。

 しれっというグイードに片眉を吊り上げたリノは呆れてなにも言う気をなくした。

「まあ、すぐにわかりますよ。しいて言うならば、今までの俺の罪が裁かれるときが来る。でしょうかね」

「罪?」

「ええ。……シオンが俺の代わりに死んだ、あのときから始まった俺の罪。それが裁かれる」

「シオンが……って?」

「五年前の戦争のとき、俺を狙った暗殺者の弾を、シオンが俺をかばって受けたんです。それでシオンは死んで、俺はあいつらと別れた。それから、俺はいろいろなことに手を染めてきた。麻薬売買から、要人暗殺。償いきれない罪を犯してきました」

 静かに語るグイードの言葉に耳を傾けながらリノは、眉を寄せた。

「最低ね」

「ええ、この通り最低な男ですよ。まあ、元の身分が人じゃないから出来たことなんでしょうけど」

「元の身分が人じゃないって、平民はそうじゃ……?」

「貴族の皆さんからしたらそうですね。平民はさしずめ紙くず。だが、奴隷はどうでしょうか? おそらくはただのクソ溜めに溜まっている汚物って所でしょうか」

 自虐的に語るグイードの顔をまじまじと見ながらリノは口を開いて、また閉じた。

「ね? 平民からも忌み嫌われる奴隷。ただの物。俺は元はそこの出身。そこにいたところ、総帥に拾われて今に至るのです。あのままあそこにいたら、この年まで生きてこられたかも微妙なところですね」

 肩をすくめて笑う彼にかける言葉をなくしたリノが黙りこくる。その様子を見てグイードは立ち上がってリノの前に立つと、その頭に手をやって軽く叩いた。

「あなたがそんな顔をしないでください。……もうすぐ、迎えが来るはずですから、しばらくお休みになってください」

「え……」

 ふらりと力が抜けてベッドに座ったまま、前のめりに倒れこむ。そっとグイードがそれを受け止めて耳元で優しくささやいた。

「お目覚めになられたとき、どちらが傍らについているか、楽しみにしていてくださいね」

 それだけを聞くとリノの意識は消えてしまった。

 かくんと力なく崩れ落ちたその肢体はとても細かった。

 グイードはぐったりと眠るリノを、粗末なベッドに寝かせて乱れた髪を直してやる。

「願わくば……な」

 小さくつぶやいて、そして、グイードはため息をついて、ある一面の壁に向き直った。

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