七章 思い出すあの日、あの言葉
「いるんだろう」
穏やかなグイードの声にこたえるように壁が開いて、銀色の髪を持った一人の青年がひょっこりと顔をのぞかせた。
「おう、元気そうでなによりだ」
軽く笑いながらサナンが入ってきてグイードの顔を見てそういった。
そして、辺りを見回して、ベッドで眠っているリノと、机に置かれている食べかけの朝食を見て状況を把握したらしい。
「盛ったのか」
「むごい場面を見せないようにする配慮だ」
「それはありがとう、というべきか? まあ、これから俺たちはむごいことになるんだもんな」
肩をすくめ、そして、胸ポケットからタバコを取りだしてくわえると手馴れた動作で火をつけた。
「それでこそ俺の知っているサナンだ」
「そうか。……じゃあ、お互いにはまったところで、やるか?」
普段は佩きもしない軍剣をすらりと抜いてサナンは小さく笑う。
姿だけは立派だと思いながらグイードも同じように抜いて構える。
「死んだら勝ちか? 血を流したら勝ちか?」
「どうせだ。死ぬまでやろう」
「……お前はそういうんだな」
サナンの言葉にグイードは口の中でなにかをいったようだった。
それを読み取ろうとしても無理だろうとサナンはため息をついて慣れない構えをとった。
「見たことのない構え方だな」
「家の爺やがこうやれってうるさくてな」
「いい爺やだな」
そう軽く笑ってグイードがサナンをまっすぐと見る。
ゆるぎない構えをしたグイードにサナンは顔を引き締めて見つめ返す。
視線と視線が交差した瞬間。
石畳を蹴る音と共に二人の姿がかすむ。
金属がこすり合わさる耳障りな音と打ち鳴らされる高く鋭い音が部屋中に駆け巡る。
「見抜くとはな」
「まあ、ものの見極めは得意だし? じゃなきゃ狙撃なんてまねできねえよ」
「それもそうだな」
手をしびれさせたグイードが、剣を左手に持ち替えて右手を握ったり開いたりしている。サナンも同じように左手に持って、右手を振っている。
「まともに受けるとこんなに痛むもんなんだな」
「当たり前だ。所詮金属。衝撃がもろにくるのは仕方あるまい」
そう言ってグイードは右手に持ち替えてまた、構える。
「そうかい。……親父にはあんまりやるななんて言われたが、もとの利き手が違うんじゃやっぱり感覚は違ってくるよな?」
「……なにをいっているんだ?」
サナンはにやりと笑って左手のまま構えをとる。
「……お前、まさか?」
「残念だったな。そのまさかだ。俺は、元は左利き。左手には悪魔が宿っているなんて思想が昔からあっただろう? まあ、俺の戦績なんて本当に悪魔がついているとしかいいようがないものだろうがな」
笑ったまま、妖しく目を光らせたサナンは笑みを消して、狂気を帯びた瞳でグイードを見る。
「さあ、やり合おうぜ、グイード。もう俺たちを止めるものはない」
低い声につむがれるその言葉にグイードはうつむいて微笑み、そして、笑みを消してサナンの夏空の色をした瞳を見据える。
「勝負」
その言葉が契機になった。




