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Da sein―待ち人お嬢とやさぐれ貴族―  作者: 霜月美由梨
七章 思い出すあの日、あの言葉
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七章 思い出すあの日、あの言葉

「てめえの感情で任務の最善の作戦を却下するな。俺たちは軍人だ。ここで死ぬ覚悟など、入隊したときから固めてある。……今回の作戦で優先するべき事は?」

「……っ! 総帥及び、主犯格グイードの逮捕」

「そうだ。もし、お前と俺、どちらも死んだらだれが遂行するんだ?」

「……だがな」

「だがもなにもない。全てを理解して、動けるのは、テオとあとシルだけだろう。この二人のうち一人を連れて行くべきだ」

「……」

 至近距離でにらみ合う二人にテオがサナンをにらむ。その二つの瞳を受け止めて、サナンはそっと目を閉じて肩の力を抜いた。それを合図にフィルが胸倉をつかむのをやめた。

「わかっていただけましたね?」

 元の丁寧な口調に戻ったフィルが念を押す。その言葉に二人に顔を背けて小さく頷いた。

「……わかった」

 観念したといいたげに肩をすくめたサナンにフィルはにっこりと笑ってサナンとテオを見た。

「ということでテオの穴を埋めるために、僕のパシリを入れておきます」

「ちゅーさー」

 医務室につながる穴からひょっこり顔を出したのは、サナンが久しぶりに軍部を訪れたときにフィルの代わりに書類の提出に行っていた新人だった。

「こっちに来て、若いうちに現場を見ておかないとね」

「え?」

「若いどころか幼いだろ、それ」

 あっけにとられているテオと顔を引きつらせているサナンにフィルが毒を含んだ顔をして笑う。

「そんなもんですって。この子、授業は密偵のほうを選択したようですから」

「……お前、それ狙って密偵部から取ったんじゃねえのか?」

「そうとも言えますねー。シルヴの存在をちらつかせて」

「中佐? なんのお話で?」

 きょとんとしている彼に、サナンとテオが同情を含んだ目を向けた。

「今日は、サナン中佐のお手伝い、ということで……」

「え。またぼく……」

「医務室の仕事はまた後でですねー。シルヴ」

「中佐、それ、ないっすよ」

 顔をのぞかせたのは髪をひとつに束ねてぴっちりと軍服を着こなしているシルヴだった。

「で、これに仕事を教えれば良いんですね」

「ええ。頼みます。この子筋は良いですから」

「ヘタレてるだけね。大丈夫。最初のうちは俺もションベン垂らしてたこともあったっすから」

「お前が?」

「ええ。だから、こんな綱渡り的な展開でも動けなくなるって事はないっすよ」

 タフな笑みを浮かべるシルヴにサナンが呆れた顔をしてテオはシルヴと新人の初々しい顔を見比べて額を押さえた。

「アウトだな」

「ですね。これは……、いっぱい悪いことを教える感じですね」

「ま、そんな上官もいるな」

「あなたは率先してそうなってますけどね」

 皮肉るテオにサナンは肩をすくめて、その場を離れ、部下達が待つ場所に向かった。

「これで一件落着ですね」

「助かりました。というより、相変わらずの二重人格ぶりで」

「ええ、久しぶりに出てきましたねえ」

 穏やかに笑うフィルを新人が見上げて首をかしげる。

「にじゅうじんかく?」

「このお医者さん、怒らせるととんでもないサディストにかわるっすからねー。気をつけるっすよー」

 まだ大の大人の肩まで届いていない低い頭を軽く叩きながらシルヴが笑う。

 ふと、フィルが懐から懐中時計を取り出して文字盤を見る。ちょうど、五十九分。すっと目を細めてサナンが消えた方向へ目を向ける。


「作戦開始!」


 鋭い掛け声に返事をするように敬礼が返されたらしい。かつとそろえられたその足音がすぐに乱れ、扉が開かれぞろぞろと人がはけていく。

「始まっちゃいましたっすねえ」

 シルヴの言葉に、フィルがそっと目を伏せて小さく、頷いた――。

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