七章 思い出すあの日、あの言葉
人々がまだ寝静まっている夜明け前。執務室には続々と人が集まりつつあった。
「サナン」
下の医務室で寝ていたサナンをおこそうとフィルがカーテンを開いてベッドに顔をのぞかせる。
「集まってるか?」
いつもどおりの低い声がそう問い、フィルは首肯した。
「そうか。いよいよだな」
変わらない声音がそう言ってベッドから立ち上がってフィルの肩に手をかけた。
「行くぞ」
「はい」
冷静な指揮官の声をしているサナンに力強い笑みを浮かべたフィルが頷いて窓に目を向ける。
「……雪が降ってんだよ」
忌々しくそう呟いたサナンの言葉にフィルが肩をすくめる。
「この時期だから仕方ないじゃないですか」
「……ああ。ただ」
「ただ?」
「シオンが死んだときもこんな天気だったなと思ってね」
その言葉に、フィルは呆れたように目を閉じ、そして深くため息をついた。
「仕方ないでしょう。今、私たちはグイードと対立をしている。それに昨日あなたは……」
「わかってる。そうじゃない。……そうじゃないんだ」
サナンはそういい残すと梯子を使って上の階、自分の執務室に戻っていった。
「先輩」
珍しくバンダナをつけていないテオが敬礼で出迎える。
「ご苦労。人数は?」
「全員集まっています。後は指令だけ」
はきはきとしたその受け答えにサナンはふっと笑ってテオの肩をたたく。
「よくやった。お前は奴らと合流して」
「しませんよ」
肩に置かれた手を振り払ってテオがにらむようにサナンを見る。
「オレはあなたの盾、剣。執事として側を離れる事は許されません」
「命令だ」
「一軍人の前に、オレはあなたの執事です。いくら主人とはいえ、その命令には従えません」
きっぱりというテオにサナンの右のこぶしがぐっと握られる。遅れて上がってきたフィルが、そんな二人を見て目を見開いて、ふっと笑った。
「本音を言ったらどうです? テオ」
穴に腰を降ろし梯子に足をかけながら足を組んだフィルがテオに助太刀をする。テオは、ちらりとフィルに目を向けて、一つ頷くとサナンをにらんだ。
「死ぬ気ですよね? サナンさま」
詰問口調のその言葉にサナンが首をかしげて肩をすくめる。
「だれが今日死ぬといった? バカ言うな」
「それを防ぐためにオレも行きます。必要があれば、グイード中佐も、総帥も殺します」
低く宣言されたその言葉にサナンが深くため息をつく。
「お前があれらを殺すことと、俺があれらを殺すって意味が違うのはわかってるのか?」
「承知してます。それを承知の上で言っています。この後、あなたから暇を出されようと、これだけは譲れません。ついて行きます」
曇ったサナンの表情に怖気づくこともなく強い光を宿した瞳で見つめるテオに、サナンが深くため息をつく。
「それは認められん」
「……っ」
テオのこぶしがぐっとにぎられて、すっと引かれる。繰り出されたテオのこぶしを目を閉じて受け止めたサナンが、ふっと笑った。
「痛いな」
「本気でやってますから。いい加減にしてください」
「テオ、いや、セオリア」
「聞けません。命令違反してまでついて行きます」
断固とした言葉にサナン眉を寄せる。
「いい加減にしねえと怒るぞ」
「オレはそれ以上に怒ります」
まるで子供のようなけんかに、フィルが苦笑をこぼして頭をかいた。
「良いじゃないですか。私とお前とテオで」
「だがな」
「もし、あなたがやられて僕もやられたらどうするんです? その時点でこの作戦は失敗します。伏兵を一人か二人をつけておいたほうが身のためです。というより、あなたさえ失敗しなければ良い話です。死んだ後のこと考えて判断を鈍らせるな」
厳しいフィルの言葉にサナンが嫌な顔をして、テオが目礼をする。フィルは立ち上がると思い切りサナンの頭をはたいて胸倉をつかみ上げた。




