五章:廻り始める歯車
「そーっすよ、中佐」
「いきなり無理難題言ってきて俺たちにやらせんのはお得意でしょー」
「んで、いっつもぎりぎりで成功させちゃうんだから、もー俺たちひやっひやですぜー?」
わいわいと好き勝手を言いはじめた部下と、不敵なフィルの表情を呆然と見ていた。
そして、シオンはぐっと唇をかみ締め、そして泣きそうに眉尻を下げうつむいた。
「サナン?」
フィルがしゃがんでシオンの顔を覗き込む。
シオンはふっとため息をつくと共に顔を上げておもいきりフィルの額に指弾をかましてそのまま後ろに押した。
コロンと転んだフィルを見下ろしてシオンは腰に手を当てて眉を寄せた。
「痛えじゃねえか。ぐっきり腰になったらどうすんだ」
一瞬凍りつく空気。
そして、棒読みなテオの言葉が入る。
「先輩、それを言うならぎっくり腰」
「……あ」
素で間違ったらしいシオンの顔が真っ赤に染まって、あっけにとられていた部下達がテオの冷静な突っ込みに大爆笑をはじめる。
「慣用句っていうか、国語に弱いのはいつものことですね」
「うるせーな。お前たちもいい加減に笑うのよさないか!」
いまだに大爆笑している部下の一人を軽く叩いて、気持ちを切り替えるようにため息をついてそして鋭く息を吸って顔を引き締めた。
「さ、仕事だ」
「はい」
切れの良い返事にシオンは心地よさげに目を細めて小さく笑う。
部隊員のほとんどが切り替え、姿勢を正している。
「一分隊密偵連中は総帥のこまい所。二分隊密偵は連絡役で各分隊に二人ずつ。そして……」
思い付きではないその采配にフィルが笑って、そして、テオを見てうなずく。
テオも飛び交う指示を聞きながら笑っている。
そんなテオはふっとため息をついて指示を出し終え、わいわいと部下達と戯れはじめた主の姿にほっと息を吐いた。
「よかった」
「本当にそうですねえ」
メガネをかけなおしたのんきなフィルのつぶやきにテオは笑ってうなずいた。
「つかの間の休息になるといいですね」
「ええ」
柔らかな傍観者の声ははしゃいでいる彼らには届くことはなく、お互いに疲れるまでそれは続いていた。
そして夜はサナンの復職祝いということで軽い宴会のように飲みに出かけていた――。




