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Da sein―待ち人お嬢とやさぐれ貴族―  作者: 霜月美由梨
五章:廻り始める歯車
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五章:廻り始める歯車

「すこし前、スウェリア令嬢がさらわれたということで手配がかかっていることは知っているな?」

 話がいきなり変わって何人かが首をかしげながらうなずいた。

 その反応にシオンはすっと目を細めてそして周りを見渡して笑みを消した。

 突然仕事途中のまじめな表情に変わった上司の表情に部下達の緊張の度合いが高まっていく。

「ついさっきスウェリア嬢の行方が消えた」

「え」

 ざわざわと部下達がなにかを話しては、シオンを見て口をつぐむ。

「それまでは、俺とそこにいるテオが保護していた。だが、この王都に入った時、何者かにさらわれた」

「何者かって……」

「もちろん、俺は知っている。あいつしか考えられない。あの派閥、軍の最大派閥であり、俺の命を狙う外道。アーバン・ハインツ・ベルローザだ」

 その言葉にしんと空気が動きを止めた。

 その名は、この国の軍の総帥にあたる者の名だ。

 そして、シオンたちやここにいる全員の総指揮官その人の名だった。

「中佐……」

「マジですか?」

「ああ。大マジだ。まあ、裏にいるだけだろうが、あれがいろいろたくらんじゃってるのは事実で、その尻尾をつかんで、そしてリノ、ああ、スウェリア嬢を救出するのが俺たちの役割だ」

 隠すこともなくむしろ堂々と最高権力者とも言える人物を表舞台から引き摺り下ろすと宣言したシオンに隊員の顔色が青ざめていく。

「あいつがなにをやらかしているかは周知のとおりだ。だが、あまりの権力の大きさと周到さで公安が動けずにいる」

「本当か?」

「ああ。一部のやつらもかぎまわっているようだが、さすがにネタをつかめない。まあ、シルが苦労してかき集めて横取りした分もあるんだが……」

「え?」

 最後の言葉に目をしばしばとさせるテオだったが、フィルは知っていたようで肩をすくめて笑っている。

「俺もあいつを摘発して、古だぬきを巣穴からたたき出してやりたいんだ」

「サナン。言葉がすぎます」

 笑ったままそう口を開いたフィルを見て、シオンはさあと首をかしげてにやりと笑った。

「つくろっても意味は同じだ。そろそろ決着をつけたい。お前たちも、俺の配下だったということでなんらかの障害を受けただろう。それを取っ払う意味でもこれは必要だ。……協力してくれるか?」

 しっかりとしたその声に部下の一人ひとりが顔を上げてシオンを見る。

 そして、不敵な笑みを消して、すっとまじめな表情に戻ったシオンはタバコを灰皿において姿勢をただし腰を折った。

「頼む」

 その行動にだれもが息を呑み、そして、しんと黙り込んだあと、ふっとその緊張の糸が緩んだ。

 だれもが顔を見合わせてうなずきあって、耐え切れずにだれかが吹き出した音が響いて笑いはじめた。

「な」

 テオが顔を引きつらせて口を開けていると、フィルもふんと鼻を鳴らして笑いはじめた。

「なんで」

「いまさらなにを言っているんですか? サナン」

 扉のところで控えていたフィルがそう言いながら、メガネをはずし胸ポケットに突っ込みながら歩み寄った。

「……サナン」

 むき出しの瞳でフィルは、頭を下げたままのシオンを見てふっと笑った。

 そして、なにを思ったのか片足を振り上げると、そのまま軽くシオンの腰を蹴り倒した。

「わっ」

 よろめき、しりもちをついたシオンが片手を腰に当てて立ったままのフィルを見上げる。

「いまさらなにいってるんだ? くだらないことを言うぐらいならさっさと指示出しな」

 ぞんざいな口調になってフィルが、腰を蹴られてしりもちをついたシオンを見下ろして不敵に笑う。

 それはいつもの穏やかな軍医の顔ではなく敵地に赴く戦士の顔をしていた。

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