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Da sein―待ち人お嬢とやさぐれ貴族―  作者: 霜月美由梨
五章:廻り始める歯車
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五章:廻り始める歯車

「お疲れのようですね」

「だれのせいだと思っているんです?」

 そう言いながらメガネをはずして目頭をつまむようにもむ。

 そんな恨めしそうなフィルの声にテオがくすりと笑って肩をすくめた。

「すぐに落ち着きますよ」

「まあ、そうですね……」

 しみじみと語る二人を不思議そうに、あるいは、目を見開いて横目で見て立ち去る軍人達。

 よく見れば皆、あわただしく、また、その表情にはやつれたものが見えた。

「大変そうですね」

「……最近、爆発があったでしょう?」

「ああ、あのウェスナのですね。シルヴを狙ったものだと」

 うなずいたテオにフィルがメガネをかけなおして肩をすくめる。

 その顔にはあきれに似た表情がある。

「爆心地があれじゃ、だれを狙ったのかがわからないんですよ。一応、あれの話で、仕掛けられたのはあれの家だったってだけで、犯人がわからない限りなんともいえません」

「そうですね。……まだ、収束しそうにも?」

「ええ。私だって、昨日やっと寝られたんですからね? 遺体の判別と、死因の判定と……。さすがに数が多いから死亡書は書かなくとも名前だけで国が照合してくれるといったから部下に名前を書き取らせていますが……」

「それでもわからないんですね」

 うなずくフィルに、ようやくテオはその爆発のひどさがわかったような気がした。

 夕刻、もうすぐ仕事が終わり、飲みに出かけていく人々がぼちぼち出てくるようなこの時間帯にも忙しそうに出かけていくのだ。

「テオ大尉?」

 疑問系の声に顔を上げて傍らに立った人物を見上げると、そこには見慣れた顔があった。

「リエン! おま……」

 目の前で見下ろしてくる傭兵上がりのたくましさをにじませる、テオと同年代の後輩、リエンがうれしそうに笑っている。

「おま……って俺の台詞だい! どうしたんだ?」

「どうしたって、うちの悪がきが帰ってきたんだよ」

 立ち上がってリエンを見ると、リエンも言葉こそ汚いものの、かつての上官に背筋を伸ばした。

 そして、聴いた言葉に首をかしげた。

「悪がきって……。まさか?」

 リエンが目を見開き、そして、だんだん口が笑みの形に引きつっていく。

 テオはそっぽを向いて肩をすくめる。

「マジか? なあ、マジか??」

 うれしそうにテオをがくがくとゆするリエンにフィルが苦笑を返す。

「ええ、残念ながら」

 そんな穏やかな声にぱっと手を離して両こぶしを握って前に持ってきた。

「マジかあ! おっしゃ、じゃ、連中に話してきてやるよ」

「おい、ちょ、待て!」

 頭を押さえながらテオが飛び出していこうとしたリエンの袖をつかんで引き止めた。

「んだよー」

「んだよーじゃねえ! いいか、聞け。今先輩、大佐にお呼び出し食らってんだ。やめとけ」

 首を振るテオに納得したようにリエンがこくこくと何度もうなずいた。

「そか、お呼び出しならやばいかもな」

「絶対そうだ。オレがここにいるのがその理由だ」

 自分を指して言うテオにリエンは顔色を失せさせながら何度もうなずく。

 テオはシオン付きの補佐官としてこまごまとしたスケジュールの管理のため、よほどのことがなければ上官などの会議に同席を許されているのだ。それがここにいるということは、単にしかられに行ったということだ。

 その様子を見てフィルは苦笑し、また周りに目を向けて額を押さえた。

「と、バカ騒ぎを聞きつけていろいろ集まってきちゃいましたよ」

「え?」

 テオが周りを見ると見知ったメンバーがそこを囲って、テオを見て、目をきらきらさせていた。

「オレだけじゃないんだよー、待ってたのは!」

 えばるように分厚い胸板を張るリエンにテオは気色悪そうな目を向け、そして、見回して目を閉じた。

「先輩がどんな機嫌でも耐えられるやつは残れ。あとは仕事があるんじゃないか?」

 すっかりと軍人に戻ったテオの口調にフィルはくすくすと笑いながら足を組みなおした。そして、もうしばらく傍観者を決め込んだ。

「仕事なんてすっぽかしても大丈夫ですよ」

「中佐の部下はめんどくさいからって細切れにされたんです!」

「なあ? いまさら抜けても俺たちにゃ他の場所は居場所じゃねえ!」

 がやがやとしだした彼らに困った表情をしてテオがフィルに目を向ける。

 フィルは、知らん顔でタバコに火をつけてふかしている。

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