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四章:約束

「あれが」

「そう。あれがフィル。一度お会いしたことがあるはずです」

「……お兄様の就任祝いの時、サナンさまと一緒にいた人?」

「ええ。貴女が屋根から落ちた時一緒にいた人物ですよ」

「おもいださせるな」

 そういってテオのわき腹を突こうとテオに向き直った。

「え?」

「……お嬢様」

 はっと後ろにある気配に気づいてテオがリノの手を引いて走りだろうとするが、それより早くその背中に痛烈な肘鉄が入った。

「ぐ」

 息を詰まらせ、体を反らして膝をついたテオを一蹴して、白金の髪を持った青年が、リノの腕をとる。

「お迎えご苦労様。さあ、着いてきてもらいましょうかね」

 グイードは冷たく言い放つと、屋敷から駆け寄ろうとするフィルに目を向けて、片手に銃をとってテオに突きつけた。

「動くな。動いたら、こいつを撃つ」

 銃口の先にはぴたりと頭がある。

 その狙いを見てフィルが足を止めて両手を挙げる。

「さあ、お嬢様? あなたも、これを助けたければおとなしく着いてきてください」

 リノをその色の薄い瞳にある感情を見て、唇をかみ締め、そして、遠くにいるフィルに目を向けた。

 空いた手を腰に回してグイードの顔をにらむ。

「腰にある刃物を置いてもらいましょうか。置かなければ」

 すばやく撃鉄をおこしたグイードが引き金を引く。弾はテオの耳元を掠めて石畳に突き刺さる。

「今度はあてます。置け」

 静かな宣言にリノが唇をかみ締める。その様子をみてテオが苦しみに顔をゆがませながら、あえぎながらかすれた声で言う。

「お嬢……さま。気にせずにその手を切りつけて走って……」

 ふと、ベルグの町で見た、テオを心配するシオンの表情がちらつく。

 リノはそっとため息をつきながらグイードの指示にしたがって腰に取り付けられた銀色の短剣をグイードの目の前に突き出した。

「気にするなって事はできないわ」

 そういう彼女にテオがぐっと唇をかみ締め、そして、グイードがすっと目を細めた。

「俺の足元に置いてください」

 静かな指示にしたがうとリノはグイードをじっと見つめた。

「お嬢様……っ!」

 背中をかばうように向き直ったテオの必死な顔に、リノは強張った顔で笑ってみせる。

「あいつは、私の前に再び見えると言ったのだもの。……それにサナンさまを信じて待てといっていた。……私は、待っていたい」

 きっぱりとしたその言葉に、額に脂汗を浮かべて、あえぐように呼吸をするテオが顔を上げた。

「ですが」

「……信じてる」

 まっすぐなリノの言葉にテオが息を呑む。

 さっきまで頼りなげな少女だったリノの表情が、したたかな女の表情に変わっていたからだ。

「……話はつきましたね? では、こちらに」

 銃をおろして、足元におかれた短剣を拾ったグイードの丁寧なエスコートについていき、すこし離れたところまで移動して美しく飾られた馬車に一歩踏み出す。

「……」

 フィルがテオの隣まで走ってくるのが見えた。テオは悔しそうに見つめている。

 それぞれの顔を見ながら、リノはそっと目を閉じて、馬車に乗り込んだ。グイードはじっと、その様を見つめている。

「どこに連れていくの?」

 リノの言葉にそっとため息をついたグイードは、一度、フィルに目線を合わせてから、リノと一緒に馬車に乗り込んで扉を閉めた。

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