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四章:約束

 シオンはそんなリノを見てため息混じりに笑って宿の方向へとリノの手を引っ張っていった。

 宿に戻るとテオがさびしげに遅めの昼食を食べているところだった。なぜだろうか。開けられていたカーテンが閉められて中は薄暗かった。

「やっと帰ってきましたか?」

「ああ。そろそろくるから、準備しておけ」

「了解です」

 食べていた白パンを平らげてテオは立ち上がってうなずいた。カーテンの隙間から漏れる光がテオの力強い瞳をきらめかせる。

「そろそろ来るって?」

「国軍です。通報されちゃったみたいです」

「嘘」

「で、前に話していたように俺がおとりになる」

「そんな、やよ」

 すがろうとするリノをひょいとかわしてシオンがリノを見下ろした。テオがすぐさまリノの傍らに着く。

「いやじゃない。今回狙われたのは俺だ。俺がいることで危害が加えられるのであればさっさと離れたほうが良い。テオ、表はもうだめだから、女将さんに言って裏から出さしてもらえ。馬は手配した」

「先輩が?」

「ああ。昔使ってたやつだ。伯爵にあとで菓子折り持参で礼をいいに行くぞ」

 テオがうなずくのを見てシオンはかすかに笑ってカーテンをすこしめくり、ちらりと窓から表通りをのぞいた。

「……ずいぶん集まっているな。そろそろ出ろ」

 下の階からなにやら怒号のようなものが聞こえる。びくりと体をすくませたリノの肩をテオが優しく包む。

「大丈夫です。行きますよ」

「でも」

「四の五の言わない。先輩」

「ああ。あとは頼む」

 その言葉は最期の言葉のように聞こえた。

 思わず一歩踏み込んでリノはシオンの袖をつかんで引っ張っていた。

「お嬢様」

「いや、いやよ!」

「リノ」

 袖を引っ張ったまま頭を振るリノの頭にそっとシオンの手が当てられる。

「え?」

「大丈夫。帰ってくるから」

 いつぞやのだれかの言葉。

 はっとシオンを見上げると、その人と同じ表情を浮かべて、やわらかく、そして力強い瞳をしたシオンが笑っていた。

「絶対?」

 リノのか細い声にテオが目を瞠る。

 シオンは笑ったままうなずいた。

「絶対だ。お前の前に、再び見えよう」

 その言葉につかんだ袖を離すとぐっと引き寄せられた。あっけにとられていると彼の声が耳元で聞こえた。

「だから、大丈夫だ。絶対会いに行く」

 リノはそんなシオンに、一番近くにあるぬくもりに甘えるようにそっと体を預け、目を閉じた。

「もし、こなかったらサナンさまに言って連れてきてもらうからね」

「お前ならやりかねないな。このじゃじゃ馬娘」

 そう言って軽く笑い声を立てたシオンは体を離して先ほど買ったネックレスが入っている紙袋をリノに押し付けた。

「忘れると困る。行け」

 シオンの声にテオが力強くうなずきリノの肩に手を伸ばす。

「はい」

 リノはそのテオの手を感じながら部屋を出ていった。

「こちらです」

 混乱の一階部分を抜けて裏口から外に出ると、御者に化けたシルヴがいた。

「中佐からの命令で手配しました。かなりおとなしい馬っすね」

 そういったシルヴにうなずいて、テオは手早く乗り込み、リノを抱え上げ相乗りさせた。

「シルヴ」

「ハーイ?」

「自宅は大丈夫か?」

「あー、いや、平気っつーか、実況見分からして、爆心地がオレの家なんすよねー。だから、妖しい実験してんじゃねえかって疑われたんすけど、いくら実験たって、あそこまでむちゃくちゃになるもんはオレの家にあった器具じゃ作れねえしろもんで……」

「そんなにひどいのか?」

「完璧な状態で残った家は、シオンの家ぐらいっすよ」

「っ」

 目を瞠って馬上からシルヴを見たテオは、ふっとため息をついて手綱を握りなおして目を伏せた。

「そうですか」

「ま、オレは危険察知っていうか、仕掛けられたの気づいたから近くの住人逃がしたんですけどねえ。さすがにあそこまでひどいと思わなかったっすよ」

 遠い目をしたシルヴは、かすかに笑って御者服の下に着た服をちらりと見せ、にやりと笑った。見えた服はまぎれもない軍服だった。

「っつーことで、今はフィル中佐の配下としてかくまわれてるんすよ」

「だからか」

「ええ。ということでいい旅を」

 シルヴはそう言って手に持ったむちで馬の尻を叩いていきなり走らせ始めた。

「ちょ、お前っ!」

 バランスを崩しかけたテオは、うまく立て直してリノを抱きかかえなおすと、後ろを振り返った。

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