三章:決別の言葉
「一つ聞いて良いか?」
「俺らにこたえられることならばな」
毅然とにらむテオの顔には捕虜にされてもなお失われない、誇りのようなものが漂っている。
そんな雰囲気に気圧されたように一歩周りの人間が引く。
「貴様らを雇ったのはだれだ?」
「ほう、そこか……」
「ああ」
うなずいてかすかに笑ったテオは、かすかに眉を寄せてなにかをこらえるようだった。
「ほう……。それはどうしようかな」
「軍か貴族か?」
「どちらかと言えば貴族だろう」
「そうか。礼を言う」
テオはそういうとくたりと床に体を預けて目を閉じた。
「狸寝入りかよ?」
容赦なく蹴り上げる男達。
「ふふん。殺すなよ? 面倒だからな?」
「へーい」
楽しげに見ている、リノを捕まえた男はそう言って、リノにナイフを突きつけながら片手でリノの体をまさぐりはじめた。
「ちょ、どこ触ってるのよ!」
「威勢のいいお嬢様だなあ。まったく。そんな口、どこから出るのだか」
肩をすくめながら胸をしっかりもんでいる男はニヤニヤしながらテオを見る。
「お前が守ろうとしていたお嬢ちゃんは、いま、オレの手にかかっているぜぇ?」
テオに暴行を加えていた男の一人がテオの髪をつかんでリノのほうを向かせる。
うっすらと目を開いて悔しそうに顔をゆがめて唇をかみ締める。
「ほら?」
「いや、見ないで」
「見てろよ?」
ナイフをつかみなおして、リノの服をそのナイフで切り裂き、白い肌を露出させる。テオの目が見開かれる。
下卑た男の笑い声。
「いやっ」
叫ぶように言って顔を背けたリノに、男たちは欲望に熱く燃えた目でその白い裸体を見ている。
「きれーな肌してんなぁ? やっぱそこらの安女郎とは違うな?」
きめ細やかな肌はすけるように白く、うっすらと青い血管が見えている。
寒さのために全身に鳥肌が浮かんでいるが、滑らかな曲線を描くその肢体は女性としてとても恵まれたものだった。
「まあ、食べごろにはまだ早いかな?」
「いやぁっ!」
胸元をかき合わせようとリノが暴れだすが、男の手には適わない。
見事に押さえ込まれ、さらにはだけた彼女の肢体に餓えた男達の目が釘付けになる。
「なんつう……。なあ? かしら」
「だめだ。見てるだけにしろ」
「すこしぐらいやっても気づきやしませんぜ?」
「だめだ。あとで面倒なことになる。全員死にたくなければ指くわえて一人でやってろ」
男達はううっと名残惜しげな視線を暴れているリノに注ぎながら、鬱憤晴らしにテオの体を蹴り上げる。
「ぐっ」
テオはうめきを噛み殺しながら咳き込み、周りを囲んでいる男達の数を数えていた。
「……クソ」
つぶやいて、眉を寄せた。
頭を押さえつけられているのが腹立たしい。
そう思いながらテオはふと、焦った様子の戸口付近の男達の会話に耳を澄ました。
「迎えはまだなのか?」
「連絡はしたはずなんですが……」
いらだつ男の声に、尻すぼみな男の声。
そして、ちいさな足音が下から響いてくるのを聞いてテオが唇をかみ締めた。
さらに増えるのだろうか。それとも彼らの言う迎えだろうか。
「確認しろ」
「はい」
一人、男が外に出る。
どこかにかけていく音が遠くなり、下から来る足音が近づいてくる。
「……」
テオはその音を、息を止めて聞いていた。
だれも気づいていないその足音に聞き覚えがあった。
「暴れたって無駄だぜ? 嬢ちゃん? 余計めくれ上がるだけさ?」
ぐったりと頭を床に預ける。注意を引き寄せられればそれだけで事足りるだろう。
テオは、そう思いながら全身の力を抜いた。
「頭、おとなしくなっちまいましたぜ?」
そんなテオの様子を見て、黒い頭を押さえつけていた男が言う。
気がテオに行った瞬間。
「っ!」
リノが宙ぶらりんな足で勢いをつけて男の膝頭をかかとで蹴りつけていた。
思わずリノをとらえていた男の腕が緩んで、するりとリノが床に落ちた。




