三章:決別の言葉
肩をすくめたシオンがそっと目を閉じて顔を強張らせた。
「先輩」
「気にするな」
痛みをこらえるように深く息を吸い込んで目を閉じたシオンに、テオが呆れたようにため息をつく。
台所からは、着々と朝食の準備が進めているらしく、なにかをいためる音が聞こえた。
「脱いでください」
テオが、有無を言わせない口調で言った。リノが首をめぐらせてテオを見ると、見てられないと言うように目を閉じていた。
そんなテオを見てシオンはそっと眉を寄せるとあきらめたように上着を脱いで血のにじんだ包帯が巻かれた白い肩をさらした。
リノをかばって打ち抜かれた傷が膿んでいるようだった。
「ひっでえ」
思わず声を上げたテオにそっぽを向いたシオンは包帯を解いて、赤黒い組織を見せる生傷を朝の冷えた空気に触れさせて待っている。
「よくこんなんで立って歩けましたね?」
箱から消毒用の酒と、塗り薬が入っているらしい貝殻と、綿の布を取り出して手早く処置をはじめた。
「……っく」
痛みに顔をしかめながら、漏れそうになる声を噛み殺しているシオンを見るテオは、どこか悲しげだった。
そんなシオンから目をそらすこともできずにリノが、その場で立ち尽くしたまま見つめていた。
「あまり見るな」
シオンが痛みに強張った顔のままリノを見て、あごでしゃくって後ろを向かせようとしたが、容赦ないテオの処置に体をびくりとしならせて悲鳴を噛み殺しうつむいた。
「黙っててください。あと、お嬢様は見ないほうが、精神衛生上よろしいかと」
そういったテオは器用に手を動かして処置を進めている。
「まったく、フィル中佐の所じゃないんだからこんな傷放っておかないでください。まともにシャワーも浴びられない環境なんですからね」
そんなぐちと共にしなやかな白い肩に包帯がきれいに巻かれて処置が終わった。
「っ、はあ」
処置が終わって詰めていた息をついたシオンは息を切らしながらソファーに身体を預けて天井を仰いだ。
ぼろぼろの屋根板を見ながらシオンは深く息をついて、視線をそらすと怒っているらしいテオを見た。
「そんなんになるまで放っておいたあなたが悪いんです。これだって念のためってフィルさんが持たせてくれたもんですよ?」
「しらねえよ」
「これがなかったら、傷で死んでいたかもしれないんですよ?」
「それなら、それまでだったってことだ」
「……。昔っからあなたの行動パターンは変わってないんですね?」
テオのその言葉にピクリとシオンの眉が動く。微妙に空気が変わりはじめる。
「うるさい」
上着を着ずに立ち上がったシオンはよろめきながらも地下に帰っていった。
「……まったく」
あきれたテオの言葉に返す言葉もなく、なにも知らないふりをしているシルヴがほこほこと湯気を立てるパン粥を盛ってやってきた。
「飯っすよー」
のんきな声と共においしそうなミルクの匂いが部屋を満たす。
シルヴはニヤニヤと笑いながら、人数分のミルク粥をテーブルにおいていく。
「ミルク粥?」
「ええ、手抜きっすけど、その分具でがんばりました。……中佐にも持ってきますね?」
いわれたように具沢山なミルク粥を見せながら、シオンの分をシルヴが地下に持っていく。地下室に消えていく背中を見てテオは遠い目をしてため息をついた。
「テオ?」
「……いえ、なんでもないですよ。さ、食べましょう?」
穏やかな声にはどこか怒りがはらんでいるような気がした。冬の朝の空気とはまた違う冷えを覚えながらリノはこくんと頷いていた。
きちんとリノをエスコートし、席に着いたテオはパン粥に口をつけてふっと表情を緩めた。
「こんな引きこもり生活送っていても料理の腕はまともなんですねえ……」
そんなつぶやきに苦笑を漏らしてリノも一口、口をつけた。
「……そう、だね」
ここ最近のまともな食事はすべてシルヴが作ったものだった。それなりにテオも作れるが味はシルヴに適わない。




