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三章:決別の言葉

 翌朝、ぼんやりとした頭を抱えながらリノが上の階に行くと、険しい顔をして黙り込むテオと眉を寄せて肩をすくめているシルヴがいた。

「あ、起きました?」

 リノに気づくとすぐに柔らかな笑みを浮かべたテオに、首をかしげてみせるとテオは肩をすくめて困ったように頬を掻いた。

「大丈夫です。朝にしますかね?」

「へーい」

 視線を送られたシルヴは肩を落としてキッチンへ向かい、テオはその背中をすこし申し訳なさそうに見ていた。

「なにがあったの?」

「たいしたことはないです。まあ、また面倒になったという感じですね」

「面倒に?」

「ええ。正式に貴族令嬢をさらった下賎な男ってことで手配されてます」

「前のは?」

「内内での極秘指令、立ったようです。要は指名手配がかかっているので、俺たちが見つかればシルヴがつかまります」

 あっさりと伝えられた言葉に、きょとんとしながらリノは次の瞬間には、ぱっと顔を輝かせた。

「じゃあ、軍に行けば私は家に帰れるの?」

「いや、その可能性は低いでしょう。というより、帰れなくなります」

「なんで? だって軍は私を……」

「違う。お前を守る俺を始末したいからだ」

 地下室から、シオンが出てきた。その顔にはくっきりとした隈が浮かんでいる。

「先輩!」

「気にするな。……軍は、お前を保護するという名目で屋敷に連れ去りたいんだ」

 腰を浮かしかけたテオを一蹴してシオンがリノをちらりと見て言葉を続ける。

「どこに……」

「聞いただろ? ミルフォード男爵だ」

「男爵って」

「グイード、あいつはミルフォード男爵の息子だといったが、本当は、ベルローザ侯爵の養子だ。侯爵の養子だとかぎつけられたら面倒だから男爵家に一時的に身をゆだねているにすぎない」

「ベルローザ侯爵って」

「そう。軍の総帥だ」

 ゆっくりうなずいて重たい息をついたシオンはソファーに移動して座り込んで一度口を閉じた。

 乾いたまきがぱちぱちと暖炉の中で爆ぜる音が聞こえる。

「総帥が、なぜ私を?」

「簡単だ。侯爵家同士を結んで公爵家に対抗するためだ」

 静かな声に息を呑みながらリノが一歩シオンに近づく。

「お兄様はそんな」

「だからお前なんだよ」

 あきれた言葉にリノはうっと黙って、うつむいて胸に両手を当てた。

 手のひらにあたるのはあの人が送ってくれたペンダント。

 冷たい感触にそっとため息をついてつま先を見た。

「だが、お前は公爵家次男坊との結婚が決まっている。……あいつからは黙っていろと言われていたが、サナン、あいつに抹殺指令が出ている」

 え、と顔を上げたリノにシオンは顔を背けてわざとらしく目を背けた。

「それは……」

「軍全体にだ」

「なんでっ!」

 跳ね上がったリノの声にうるさそうに顔をしかめてシオンが手をパタパタと振る。

 まだ言葉は続くらしい。

「だが、大半はそれにしたがっていない。あいつを見かけても見てみぬふり、もしくは、施しをしてくれている」

「え」

 自嘲気味な笑みを浮かべながらシオンはそれだけ部下に恵まれていたのだといった。

「じゃあ、サナンさまは」

「逃げ回っている。部下に恵まれているとはいえ全員が部下じゃないからな。特に、総帥直下の連中は容赦なく弾幕を張るからあいつは王都や、公爵家領には行かない」

 詳しい言葉に、リノはぽかんとしながら、いつになく口を開いているシオンの言葉を聞いていた。

「話に戻るが、総帥はお前の結婚がうざったいわけで公爵家次男坊を消そうとしたが、うまく行かずに、でも王都や領には近づけなくなったため今のうちにことを進めちまおうっていうことだ」

 一度そこで言葉を切ったシオンがちらりとリノを見て遠い目をする。

「お前と侯爵が結ばれれば、いくら公爵でもその勢力を無視できなくなる。俺はそこらへんの機微は知らんが、面倒事が多くなるんだろうな」

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