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Da sein―待ち人お嬢とやさぐれ貴族―  作者: 霜月美由梨
二章 隠せざる過去
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二章 隠せざる過去

「……なんでシオンが死んだのか」

 視線を写真立てに落としながら、あくまで軽い口調で言われた言葉に、逆にリノが息を呑んでしまっていた。

 それについては、思っていた。

 だが、それだけは詳しいことを聞いてはならないと思っていたことだった。

 切なさににも似た衝撃が胸を突く。

「でも……」

 起き上がりながらリノがそう言うとシオンが自嘲気味な笑みを浮かべて、机に備え付けられている椅子に腰掛けて、写真立てを机の上においた。

「戦争で死んだんじゃない」

「え?」

「戦争に便乗して殺されたんだ」

 淡々としたその言葉に首をかしげると、シオンは、リノのほうを向かずに言った。

「俺を疎ましく思っていた連中が、俺をけん制するために彼女を殺した」

 はっと息を吸うと、シオンが背もたれに背を預けながら、ランプの光に目を細めてふっとまぶたを落とした。

「俺のせいで、……彼女は逝った」

 ランプに照らされる横顔は、いつもの無表情に近い。

「違う!」

 机の上に投げ出された腕をつかんでそういうと、シオンの表情が少しだけ変わった。

 どこか困ったような、そんな表情と苦笑。

 ぱっと浮かんだその表情に目を奪われていると、低い彼の声が耳に届いた。

「違くない。俺は、…………俺はそれを知りながらその時、あいつの側にいた友人をなじった」

 ふっと目を開いて、自分の腕をつかんでいるリノのちいさな手に視線を落としたようだった。

「ただの八つ当たりだとわかっていながら、俺は奴をなじって、……あいつはそんな俺を受け止めて、俺の下を去った」

 すとんと、元のように表情のない顔に戻ったシオンを見ながら、リノはきゅっと腕をつかむ手に力を込めていた。

 細くしなやかな、それなりにたくましさを感じさせる腕は、いまや細く頼りない腕に成り下がっている。

 それを感じているのか否か。

 シオンは、そんなリノの手を無視して、語りだす。

「どんなに残酷か。彼が自分を責めていたことを俺は知っていた。俺は許すべきだった。でもできずになじった」

 沈んだ声のまま、語られる言葉にリノは首を横に振っていた。

 それきりシオンは黙りこくったままだったが、気持ちを切り替えるように深くため息をついて、リノの手に、手をかけた。

「だから、この中の俺と、今の俺、一緒くたにしてくれるな」

 そういうとリノの手を振り払って出て行ってしまった。

「あ……」

 遠くに背中が行ってしまうような気がして手を伸ばしたが、届くはずもない。

 ぱたんと、軽い音を立てて閉じられた扉にリノは手を伸ばすことをやめてぐっと手を握り締めた。

 なにをしたかったのか。と聞けば、彼はこたえられないだろう。

 なぜ今そんなことを言うのだろうか。と聞けば、彼はこたえられないだろう。

 だが、彼はリノに口を開いた。

 リノは、振り払われた手に残る、彼の冷たい指の感触とその中に秘めた血の熱さを感じながら、それを抱きしめるようにしてベッドにもぐる。

「……そんなこと、ないと、思う」

 ポツリと呟いて、目を閉じたリノはまぶたの裏に、無表情の中に暗さをにじませた、声には後悔をにじませたシオンを思い浮かべた。

「……」

 ぐっとこぶしを握って、強く目をつぶる。

 言いたいことがたくさんある。

 だが、それをぶつけたい人間はここにいない。

 高ぶる感情をなだめながら、いつしかリノは眠ってしまっていた。

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