二章 隠せざる過去
「……どういう、ことですか?」
あくまで普通な声の調子でつづられる、その言葉に、テオが引きつった声を出す。
「俺たちとかかわり続けたら、今度はシオンだけではなく、……たとえば、その次はフィル、次にお前、そして最後に俺を殺すぞ、と、脅されたんじゃないかなと思って」
「……っ! それは、…………ありえますね」
低い声の同意に、シオンがふんと鼻を鳴らす。
「俺があいつのことを責めてしまったということもあるだろうが、その要因もあるような気がしてならない」
予測というよりは断言に近い力強い声でそうつづられるその言葉に、テオが深くため息をついたようだった。
「だがな、テオ」
シオンが一人で語り、一度そこで言葉を切った。
辺りを不思議な静寂が支配しはじめる。
耳がしびれるような、どこか重たい静寂。
「俺は、許せないと思う」
低く呟かれた言葉に、リノが息を呑んでいた。
まるでそれは、いてつく炎がちらつくように、冷たく、そして激しくなったような口調。
「そうやって、人付き合いを限定させて、自分の手駒にしていくやり方。他人を害さないと人をひきつけられないと思っている頭の悪さ。そして、なによりも、俺のものに手を出した、いや、これから出そうとしている、その手癖の悪さ。言うならば、その存在全部、大嫌いだ」
静かで確かなその言葉に、その場にいるテオはもちろん、リノでさえも息を詰めていた。
「……まだ、当分戻らない予定だったが、そうも言っていられなくなった。派手にやってやるぜ。テオ」
「……はい」
静かな頷きにシオンは満足したように口をつぐんで、そして、席を立ったようだった。
慌てて扉に背中を向けて目をつぶると、静かに扉が開いた。
「……」
中をうかがうように少しだけ開いて、そして、何事もなく閉じて、足音が遠ざかっていった。
我知らず詰めていた息を吐いて、リノは淡いランプの明かりに照らされている古びた写真立てに手を伸ばして起こした。
透明なガラスの向こうにいるのは、まるで描かれたような美しさを持つ男女。
一目で想いあっているとわかる、二人。
これを撮った人もまた、二人を想う人間だったのだろう。
『元はこの写真の中の人のように温かい微笑を持って部下を、人を受け入れることのできる人だったっす』
そんなシルヴの声が聞こえた気がした。
それは、納得できた。声だけならば。
だが、どうしてもいまだにシオンの存在とこの中の男性が結び付けられなかった。
「……シルヴのやつ、捨ててなかったのか」
突然聞こえてきた、懐かしむようなシオンの声に文字通り飛び上がって、戸口付近を見ると、シオンが立っていた。
後ろ手で扉を閉めてゆっくりと近づいてくる。
「……」
リノの手にある写真立てをとって、すっと視線を落とした。
「……」
二人に訪れる静寂。口を開くのもためらわれるほどの静けさの中、最初に口を開いたのはシオンだった。
「聞かないのか?」
「え?」
「そのぶんじゃ、これと俺が同一人物で、この中で一緒に笑っている女性とどういった関係だったか、知っているんだろう?」
「シルヴ、に……」
「あれはおしゃべりだからな」
顔をまともに見れずにそう返すと、苦笑交じりの声が聞こえた。
掛け布団の隙間から恐る恐るシオンの顔を見ると、ランプの明かりを背負って表情まで見えなかった。




