二章 隠せざる過去
シルヴの家に入ってから数日が経っていた。
テオから話されたのは、このまま王都に行くよりは小さな町に潜伏してから、ほとぼりが冷めてから入ったほうが良いと思ってこのまま滞在している、ということだった。
そんなある夜。
「せんぱーい」
隣の部屋から、そんなテオの声が聞こえた。
「お前、兄貴に言ったのか?」
シオンのげんなりとした声。
リノはベッドに入ったままそんな二人の会話に耳を済ませていた。
「いや、かぎつけてました」
「……燃やせといいたいが」
苦虫つぶしたような顔で言っているのがよくわかる苦々しい声。
なにかが送りつけられたのだろう。そう判断して、二人の会話に耳を澄ます。
「完全に誤解されてますね」
「早とちりだけは得意だもんな。あのバカ兄貴」
「特にこっちの方向では?」
にやりと笑ったのがわかるほどの笑みを含んだテオの声。
「うるさい。……で? お前はどう思う?」
そんな会話を一蹴するようにひそめられた声にテオがそっとため息をついた。
「俺はクロだと思います」
断言するテオの声に、少しだけ息を呑む気配。
そして、それを振り払うように深く息を吐いてけだるげにシオンが口を開く。
「グイードはなんでかかわっていると思う?」
その問いにリノは息を呑んでいた。その名前は、あの、ウェスナの町でさらわれかけたときに手を差し出した金色の髪を肩まで伸ばした男の名前だったからだ。
(あの男と、この人たちは知り合い……)
呑んでいた息をそっと吐いて動かない扉を穴が開くほど見つめていた。
「やっぱ、あれじゃないですか? あれを達成させるために協力している……」
「……やっぱり、そういうことか?」
「ええ。たぶん、ですけどね」
「……そうか」
憂いを秘めた声音で頷いたらしいシオンで、一度会話が途切れた。
「まあ、戦いにくい相手ではありますよね」
「……一番戦いやすくて戦いにくい相手だな」
「責任感の強くて、実直な方ですからねえ」
「バカ丁寧だからな。そこが穴だったりするんだが、あいつはそれに気付いていないと」
「作戦が長引く本当に疲れた顔しますよね」
「俺ぐらいいい加減だとそんなこともない」
そうですねえ、とテオの笑みを含んだ声と肩の力を抜いたようなシオンの声がテンポ良く会話をする。
「もう、五年、すぎようとしているんですね」
「……」
しみじみ呟いたテオの声に、シオンはなにも返さなかった。
「まだ、ですか?」
詰問するような口調に変わったテオの声に、シオンは詰まった声で呟いた。
「そうも、言ってられんよ」
「そうですね。もうそろそろ帰らなければ」
「……ああ」
急に低くなった声に、リノは唇をかみ締めた。
顔はいつもの無表情か、それに近い表情だろう。
だが。
(どうして……?)
どうして、こんなに声に感情があふれているのだろうか。
少なくても声だけならば、あの写真に映し出された男と彼が同一人物なのだと、わかる。
それぐらい、解けた声が聞こえる。
「このしがらみも、なにも取っ払って、あのふざけた男をどうにかしてくれよう。……俺も、上官殺しだからな。今こそその名前をとどろかせるべきときなんだろう」
「ムリは禁物ですよ、特に……」
「声が出なくなるのは俺もごめんだ。言い訳がめんどい」
「フィル中佐は見抜いてましたけどねー」
不機嫌そうな声と、笑みを含んだ声。
「なあ、テオ」
「はい?」
「なんでグイードは、俺たちを避けるようになったんだと思う?」
「え? それは……」
「……俺が思うにシオンが殺されたのは、俺に対する見せしめ、というよりはグイードに対する見せしめのような気がしてならないんだ」




