第29話 バトルロイヤル
アッシュは、今考えても仕方がないので夢のことは、一旦考えないようにする。そして、二度と考えなくていいように願う。少し仲良くなったシャーロットが不幸になることは望まないからだ。
寮から通っているという最大の利点を活かし、アッシュは、登校する時間がだんだんと遅くなっていた。
教室に入ると、いつもアッシュの座っている席にレオヘルトが座っていた。
「やっと来たかアッシュ、待ってたぞ」
(何でこいついるんだよ。こんなことなら真面目に早く登校するんだったな)
「あの、何でここにいるんですか。レオヘルトさん」
「つれないこと言うなよ、実技では仲良くやってるじゃないか」
悪びれる様子もなく、人の良さそうな笑みを浮かべ、当たり前のように話す。
(お前が勝手にペア組んでくるだけだけどね。他に誰も組んでくれないし)
アッシュは、シャーロットが来るかもしれないのでレオヘルトの隣の席に座る。
「待ってたと言ってましたけど何か用事があるんですか?」
「ないと言えば嘘になるな」
「どんな用ですか?」
「こんなところでする話じゃないからな。今日の放課後、少し出かけないか?」
「....はい、分かりました」
(教室じゃできない話って何だ...面倒ごとは嫌だぞ)
「おはよう、アッシュ。えっ!?レオヘルトさん...」
シャーロットはいつものように挨拶するが、俺の隣の席に座っている人物に驚く。
「おはよう、シャーロット」
シャーロットは、いつも座っている席に座る。
「あの、レオヘルトさん。今日は、どうしてこの机に?」
「用がないときたらダメなのかな?それともお邪魔だったかい?」
「いえ、何も問題ないです」
シャーロットは、一瞬ビクッとしてすぐに否定する。
「なら良かった」
レオヘルトがニコッと笑う。
(レオヘルト王子...私がいずれ仕える相手。この人なにをしたいのかがわからないわ。楽にしていいとは言っているけど、言葉の節々に圧を感じるのよね...それにやけにアッシュにこだわってるようにも感じるわ。私と同じようにアッシュに目をつけたのかしら)
ーー
それからは授業の合間に少し喋る程度だった。そして約束の放課後、アッシュはレオヘルトに連れられて王都にあるカフェに入った。
(王子がこんな勝手に動いていいのかよ。護衛は、いると思うけどよ)
カフェの窓から見える外の様子をチラッと見る。そこには、騎士らしき男たちがいる。
「ついてきてくれて感謝するよ。単刀直入に聞くよ、さすがに俺が誰かぐらい気づいたんだろ?」
探るようにレオヘルトは質問する。
「はい、この国の王子ですよね」
「すでに知っていたか、じゃあ話は早い。俺の下に仕えないか?」
「それって俺に拒否権はあるんですか?」
「もちろんあるぞ」
レオヘルトは、あくまでも人の良さそうな笑みは崩さない。
(こいつの考えが全くわからないな)
アッシュは、レオヘルトの真意を知りたいが腹の探り合いなんてしたこともないアッシュには不可能なことだった。
「それなら断ってもいいですか」
「へぇ、理由を聞いてもいいかい?」
レオヘルトは、将来の地位や暮らしを保障される王族からの「家臣にならないか」と言う誘いは、むしろ欲しがるものでありそれを断ったアッシュのことを面白いと感じる。
「理由は、あんまり国に関わりたくないからです。一般人として平穏に暮らしたいからです」
「そうか...でも、俺の家臣となればそれ相当の暮らしもできるぞ」
「平穏に暮らせればいいので。それに権力争いみたいなものに巻き込まれたくないんですよね」
アッシュは、前世からのイメージで、中世の歴史や貴族社会のイメージは権力争いが酷く巻き込まれたら殺されるかもしれないことと、その環境に身を置いておくと再び自分自身が人間不信になりそうという二つの恐怖心を持っていた。
「権力争いか...確かにめんどくさいね。なら仕方ないか、諦めるよ。だったら友にならないか?」
「友って急にどうしてですか?」
「俺は、気負わなくていい話し相手が欲しいんだよ。貴族相手だと家柄とか色々と面倒なこともあるし、お前みたいに地位に興味がない奴なんて他にいないからな」
「俺を試したってことですか?」
「いいや、お前を家臣にしたいって言ったのは本心だ」
「わかりました、友人になりましょう」
アッシュは、家臣となるよりかはマシだし、王族相手なんて在籍中の三年間の関係だと思い、断らずに了承する。
「そうか良かったよ。じゃあ敬語は無しだからな」
今までの表面上の笑顔ではない、初めて友達ができて喜ぶような無垢な笑顔を見せる。
「え?」
思わず驚きの声を上げる。
「当たり前だろ、普通友達同士なら敬語は使わないだろ?」
「そうですけど」
「なら、使ったらダメだからな」
「これでいいか?レオヘルト」
仕方がないと思い敬語をやめる。
「ああ、これからよろしくな。アッシュ」
やはり、嬉しそうな顔をする。アッシュも1回目は気のせいかと思ったが、2回目はさすがに気づいた。
(レオヘルトは、王族っていう最強の身分のせいで、本当の友達ってのが作れなかったんだろうな。まぁ、3年間だけだが仲良くするか)
ーー
アッシュと別れて、王族が学校に通う際に滞在するための屋敷へと帰宅すると、そこには父であるルシアスがいた。
「レオヘルト、学校の方はどうだ?」
「問題ありません。あと今日、友達ができました」
「そうか...良かったな」
ルシアスは、久しぶりに見た年相応の無邪気な息子の顔に自然と頬が緩む。
「どんな子なんだ?」
「アッシュフォードって言う平民の同級生です」
ルシアスはその名前を聞いて一瞬驚くが、表には出さなかった。
「友人は大切にしろよ」
レオヘルトの頭をポンポンっと優しく撫でる。
「すでにわかっていると思うが、王族ってだけで人との付き合いは大変だ。学校だと長い時間一緒に過ごすことになるから尚更な。その中で友人は大きな支えとなる。俺もそうだったからな。これからも頑張れよ。今日は顔を見れて良かった」
ルシアスはそう言うと、城に戻るべく屋敷を後にする。レオヘルトは父親からのアドバイスにこれからも頑張ろうと決意を固める。
-馬車の中-
ルシアスは、豪華な座席に深く座りながら馬車に揺られていた。そして、嬉しそうな顔を浮かべていた。
「ハハッ、エレノア...どうやら俺たちの子供たちは仲良くやってるみたいだぞ」
手紙の中で知っていたエレノアの子供の名前が、レオヘルトの口から、友としての名として出てきたことで、妹との懐かしい記憶が蘇った。
ーー
翌日、教室に入ると昨日と同じくアッシュの定位置にレオヘルトは座っていた。
「おはよう、アッシュ」
「...ああ、おはよう」
敬語を使うか一瞬戸惑ったが友達ってことになったためタメ口で挨拶を返す。アッシュが敬語を使わなかったことに嬉しそうな顔をする。アッシュは、そのままレオヘルトの隣の席に腰を下ろす。
少し雑談をしている間にシャーロットがやってくる。
「おはようアッシュ、ッ!?おはようございますレオヘルトさん」
まさか2日連続でレオヘルトがいるとは思わなかったシャーロットは、いつものように挨拶したが、レオヘルトの姿を見つけるとすぐに敬語を使う。
シャーロットは、その後もレオヘルトと親しげに話すアッシュに困惑する。
1時間目が終わり、レオヘルトが席を外した直後にシャーロットから質問攻めをされる。
「アッシュ、あのお方が誰かわかってるの?」
「ああ、知ってるぞ。王子様だろ?」
あっけらかんに言うアッシュにシャーロットは、驚きを通り越してもはや呆れてしまう。
「あんた、よく誰なのか知ってるのにあんな風に接することができるわね」
「レオヘルトも、シャーロットと同じように敬語とか使わないこと望んだんだよ...それに吹っ切れなきゃできないこともあるんだよ」
実際にアッシュは、ヤケクソだった。そうじゃないとタメ口なんて言えないからだ。
「あんたも大変なのね。何でこんなことになったのかしら?」
シャーロットは当然の質問を投げかける。昨日まで敬語を使っていた相手が急にタメ口で話すようになったからだ。
「昨日の放課後、レオヘルトとカフェに行ってそこで色々あって友達になった」
「その色々が気になるのだけれど、まあ隠したいこともあるだろうし聞かないであげるわ」
アッシュは説明がめんどくさいからありがたいと思った。
「てか、これからもあのお方はアッシュと一緒に行動するのかしら?」
「さぁな、レオヘルト次第だろ。何か困るのか?」
「私はあんたみたいにタメ口で話すなんてできないわ。だから、あのお方がずっとあんたの近くにいたら気を遣わないといけなくて疲れるのよ」
シャーロット自身も王家に対する忠誠心は強いが、ずっとその相手が近くにいるのは疲れると感じていた。そして、シャーロット自身も気付いてはいないが、アッシュと一緒に学校生活を過ごすことが当然と思っていることを自白しているような発言だった。
「何の話をしてるんだ?」
レオヘルトが席に戻ってきた。シャーロットは、さっきの会話が聞かれてないか焦りを覚える。
「別にただの雑談だよ」
アッシュは、すぐにレオヘルトの質問に答える。
「そうか」
何事もなかったようにレオヘルトは席に座る。シャーロットは、ほっと安心する。
ーー
クラス内で奇妙な組み合わせが完成する。
王族のレオヘルト、貴族の中でも王からの信頼が厚いイグニス子爵家のシャーロットここまではおかしくはないがもう一人、平民のアッシュフォードの3人組だ。
王族のレオヘルトと平民であるアッシュフォードが、二人にタメ口で話し、シャーロットは、レオヘルトにだけ敬語を使っていた。
「シャーロット、そろそろ俺にもタメ口で話してくれよ」
レオヘルトがシャーロットに対してそう話す。
「それは流石にできません」
「うーん...あんまりこういうことしたくないんだけどな。命令だよ、シャーロット」
「...ッ!」
シャーロットは、自分がアッシュにした方法で敬語をやめさせられる。
「わかったわ」
うんうんと満足そうにレオヘルトは頷く。
(皮肉だな...俺に命令した内容が命令した自分自身にも降りかかってくるなんて。権力って怖ぇ)
アッシュは、二人のやりとりを見ながらそんなことを思う。
実技の授業は基本的に二人組もしくは教師が指定したグループに分けられる。二人組の時は、アッシュは変わらずレオヘルトとペアを組んだ。
今日の実技は、三人組を組むこととなった。レオヘルトが声をかけ、レオヘルト、シャーロット、アッシュの三人組となった。
授業内容は、チーム戦だ。アッシュにとっては、グランツの初等学校の際に何度か経験があるのでチームメイト以外は特に問題がない。生徒たちには1時間の作戦会議の時間が与えられ、その後バトルロイヤル戦をするそうだ。
「まずは、リーダーを決めようと思う」
チームごとに集まり開口一番レオヘルトがそう言う。
「レオヘルトでいいだろ」
アッシュは、チームを集めた本人がリーダーをするべきと考える。後、このメンツでリーダーなんてしたくないので適任の人物に押し付ける。
「私もレオヘルトでいいと思うわ」
シャーロットも、地位の高いレオヘルトにしてもらった方が他の生徒たちの目もあるのでその方がいいと考える。
「そうか...俺はアッシュにしてもらおうと思ったんだがな二人がそう言うなら俺がやろう」
こいつとんでもないこと言いやがってと内心文句を言い、先にレオヘルトと指名しておいて良かったとアッシュは思った。
「作戦会議と言っても何を決めようか。3人1組の10チームがバトルロイヤル形式で戦うんだろ。みんな固まって動くことになるから決めることもそんなにないと思うけどな」
レオヘルトはルールを確認しながら呟く。
「前衛と後衛どっちにするか決めないかしら」
「そうだな...二人はどっちがいいんだ?」
「俺はどっちでも」
「私もどっちでもいいわ」
アッシュとシャーロットの二人は、剣と魔法どっちも使えるため特に希望はなかった。
「困ったな。俺もどっちでもいいんだよな」
レオヘルトも王族に相応しい一流の教育を受けてきたため剣と魔法どちらでも良かった。
「私、後衛するわ」
シャーロットはまだ、実戦形式において無詠唱を使ったことがないため練習のため魔法が中心となる後衛を希望する。
「俺とアッシュをどう分けるかだな。もう一緒に前衛やるか?」
「俺はそれでいいよ」
「よし、じゃあ決まりだな。前衛は俺とアッシュ。後衛はシャーロットで...結構時間余ってるけどここからどうする?」
レオヘルトは困ったように言う。
しかし、3人とも何もすることは思いつかないので雑談が始まる。話題は、もうすぐ訪れる夏休みの話題となった。
「アッシュは、どうするのよ?故郷はルミィの町だったかしら。そこに帰るの?」
「そうだね、多分帰ると思うよ妹もいるし」
「そうだったわね。もし良かったらだけど私の家に来ないかしら?以前話していた『エクスプロージョン』についての書物もあるのだけど」
「シャーロットの家か...嬉しいけどやっぱり妹がいるからな」
『エクスプロージョン』の本は興味があるが久しぶりに会える家族との時間を大切にしたいと考えているアッシュは断る。
「だったらご家族も一緒でいいわ」
「そこまで言うなら...手紙出してみて家族が行くっていったらお言葉に甘えようかな。だから返事はちょっと待っててくれ」
「わかったわ。夏休み前までに教えてもらえればいいわ」
「ありがとう」
二人のやりとりを見ながらニマニマした顔でレオヘルトは見守る。
「随分と二人は仲がいいんだね」
「何が言いたいんだよ、たまたまだよ」
アッシュは、めんどくさそうにそう答える。
「二人は楽しそうでいいなって思って」
「レオヘルトも来る?」
「いいや、遠慮しておくよ。俺は、しなきゃいけないことあるから」
レオヘルトは、夏休みの間は王族としての役目を果たさないといけないためあまり自由に過ごす時間がないのだ。それに、学友とはいえ貴族の領土に王族が向かうと言うのはハードルが高い。
シャーロットもレオヘルトの返事を聞いて、今まで親しく話しているせいでそのことを失念しており、申し訳なさそうにする。
アッシュは、そんな事情なんて知らないので王族って大変なんだなと言う感想しか思い浮かばない。
その後も適当に雑談しているうちに時間となる。10分休憩の後試合開始になる。レオヘルトがトイレのために離席する。
「アッシュ、無詠唱って使っていいんだよね?」
「うん、使っていいよ。隠すのも限界があるってシャーロットとの試合で感じたし。俺も『エクスプロージョン』使っていいのか?」
「いいわよ。たぶんイグニス家の秘術だって気づく人はそんなにいないと思うわ。でも、レオヘルトは絶対に気づくと思うわ。その時は正直に話しましょう」
「ああ、そうだな。一緒にいるのに隠すのは限界があるし」
ーー
休憩時間を終えて、演習場が眩い光に照らされるとそこは大きな森林のような場所に変化する。
「すごいな」
アッシュは、周りにある木に触れることができることはできただの見た目倒しじゃないことに驚く。
「今からこちらで指定したスタート地点に転送する」
チーム毎に固まっていた生徒たちが次々に消えていく。
(転移ってやつか...すげぇ。どうやってるんだ。他の人たちはあんまり驚いてないし普通なのか?)
アッシュ達3人も場所が移動する。
教師の説明では、ここにも練習用の結界が展開されており、チームが全滅したら負けのシンプルなルールだ。
「それでは開始!」
スタートの合図が演習場全体に響き渡る。
「まず俺たちがいる場所を確認したいけど、これだけ木があったら無理だよな」
レオヘルトがボヤきながら、先導して歩いていく。
「それならいい方法があるぞ」
アッシュは、自分が高く飛べることを思い出した。
「いい方法?」
「ああ、シャーロット覚えてるか?俺が岩の壁の上から降ってきたこと。どうやったか気になるだろ?」
レオヘルトは、何の話をしてるんだと思いながらも口を挟まずに黙って聞く。
「そういえばそうだったわね。それをここでもやって上から見下ろすってこと?」
「そう言うこと。質問なんだけど、上の枝も触れるのか?」
「ああ、本物と同じように触れるぞ」
「じゃあ大丈夫だ、待っててくれ」
アッシュは、木のなるべく太い枝を足場にしながら『ウインド』を使ってぴょんぴょんと上がっていく。
「は?...あいつ飛んだぞ。シャーロット知ってたのか?」
レオヘルトは、アッシュの予想外の行動に驚きシャーロットに聞く。
「私も詳しくは知らないけど初めて戦った時アッシュは、いつの間にか『城壁』で自ら作った土の壁の上に立ってたの。それがまさか飛べるなんて」
シャーロットもまさかこんな方法だったとはと驚く。
そして、アッシュの次の行動にさらに驚く。
少し上がった段階で足場がなくなるのでアッシュは、威力を上げて一気に飛ぶ。上空から自分たちの位置を確認する。
「えっと確かあっちが北側だから俺たちは西側の端っこか。改めてすごいなこの技術は」
アッシュの眼前には、そこがさっきまで演習場だったと言われても分からないほどの森林が広がっていた。
アッシュは、そのまま降下して二人の前に降り立つ。
「俺たちの位置がわかったぞ。ここは、西側の端っこだ」
「ああ、それはいいけどどうやってやったんだ?」
レオヘルトとシャーロットは、方角のことよりもアッシュが飛んだことに対して興味を持っていた。
「『ウインド』の応用だ」
レオヘルトの質問に対し正直に答える。
「今度私にも教えてくれない?」
「いいよ」
「俺にも教えてくれ」
「ああ、でもその前にこの戦いに勝たないとな。レオヘルトどうする?」
アッシュは、リーダーであるレオヘルトに対して指示を仰ぐ。
「そうだな...今俺たちは東に向かっているのか?」
レオヘルトの質問に頷く。
「よし、じゃあこのまま進もう。周囲を警戒しながらな」
「わかったわ」
レオヘルトの指示に従い周囲を警戒しながら東に向かって歩き続ける。
「ヘンリーチーム全滅。残り9チーム」
東に向かって歩いている最中、教師の声が響き渡る。
「接敵してるチームはすでにあるっぽいな。俺たちも気を引き締めていこう」
「ああ」
ーシュッ
そう話していた瞬間3人に向けて魔法が飛んでくる。
各々魔法を発動したり、回避したりして攻撃を防ぐ。
「シャーロットを囲むようにして固まれ!」
レオヘルトが咄嗟に指示を出す。指示に従い、シャーロットを中心に前方レオヘルト、後方にアッシュが木剣を構える。体制を整えた3人に対して次の攻撃が飛んでくることはなかった。
「アッシュ、敵の位置がわかるとか便利な魔法はないのか?」
「そんなのなぇよ」
位置のわからない敵に警戒しながらレオヘルトが軽口を叩く。
しばらくしても一向に敵が出てくる気配がない。
「埒が明かないな。シャーロット、ここら辺一帯に魔法を一気に飛ばすことできるか?」
「できるわよ」
「アッシュ、炙り出すってことか?」
「ああ、そうだ」
レオヘルトはアッシュの派手な作戦を面白がる。シャーロットは、魔法を放つため集中力を高める。
「いつでもいいわよ、アッシュ」
「やっていいぞ」
一方、森の中に隠れている生徒たちは息を潜めながら会話していた。
「このままずっと隠れてるのか?」
「あのチーム...レオヘルトさんシャーロットは言わずもがな強いが、アッシュフォードはシャーロットに勝った男だ。油断できない」
「だからこのまま相手が警戒を解くまで潜んでおくってことだな」
「そういうことだ」
3人は、相手の実力を分析して正面から戦わずに油断したところを突く作戦を立てていた。
ードカァァァン!
シャーロットは、自分たちの周りに生い茂る木々に『エクスプロージョン』一気に放ち、周辺を一気に爆発させた。一帯の木々は燃え朽ちた。
「ッ!」
3人は声を上げる暇もなく結界の効果により退場させられる。
「ジェンチーム全滅。残り8チーム」
「ナイスだ、シャーロット」
3人は警戒を解き、レオヘルトがシャーロットに労いの言葉をかける。
「当然だわ、何たって『エクスプロージョン』を使ったんだから」
無事に無詠唱を使え、敵を倒すことができ安心したように、自信を持って発言する。
「さすがイグニス家の秘術だな...詠唱してない件については後で教えてもらおうか。アッシュもね」
アッシュとシャーロットは顔を見合わせてやっぱりバレたかと苦笑いする。
その後あまり接敵しないうちにどんどんとチーム数が減っていき、残り3チームとなる。
「今からフィールドの範囲を狭める」
その声が響き渡ると同時に今まで森林の外を覆っていた壁が一気に内側まで狭まっていく。
「レオヘルト、ここからどうする。このまま動き続けるか隠れて漁夫の利を狙うか?」
「うーん...やっぱりこのメンツなら堂々としていないとね」
(そうか、王族と貴族の中でも実力の高いイグニス家の令嬢がいる以上変に隠れて行動するのはまわりの目もあってやりずらいのか。大変だな)
「アッシュだけ別行動にするのはどうかしら?」
「俺だけ?」
「ええ、アッシュは木の上を自由に動き回れるでしょ?それに万が一接敵したとしても私たちのところまで戻ってこようと思ったら来れるんだし」
「...確かに、いい作戦だね」
レオヘルトは、少し考えるそぶりを見せた後シャーロットの提案に乗る。
「じゃあアッシュ、俺たちが囮になるから別行動で頑張ってね」
アッシュの肩にポンッと手を置いて指示を出す。
「はぁ、わかったよ。じゃあ行ってくる。二人も気をつけろよ」
アッシュはため息をつきながらもシャーロットの作戦も一理あるため従い、丈夫そうな木の枝を足場にしながら森の中に消えていく。
「じゃあ私たちも移動するわよ」
「ああ、そうだな」
ーー
木を伝いながら森の中を移動するアッシュは、敵チームを見つけた。
(えっと...あいつは確かセリアだったっけ。初日の戦いで魔道具使ってた人だよな。周りに味方っぽい奴は居なそうだけど俺と同じで別行動なのか?とりあえず様子見るか)
セリアから少し距離をとった位置で移動しながら周りも警戒する。
(仲間はいなそうだな。最初に戦った感じ負けはしたが、魔力が足りてさえいれば勝てた相手だ。杖の魔道具さえ警戒していれば問題ない)
アッシュは、『ウインドカッター』で攻撃を仕掛け、セリアの背後に向けて風の刃を飛ばす。
セリアは咄嗟に振り向き、あらかじめ杖に込めていた防御魔法『フレイムガード』を展開する。その展開するスピードは、アッシュが慣れた魔法の無詠唱を使う速度と変わらないくらい速い。
攻撃を防がれたことでアッシュは居場所が特定されないように木の枝を飛びながら場所を変える。
(前は、『ファイアーボール』だったよな。使う魔法を選べるのか?いや、それなら前回も他の魔法を使ってたはずだ。おそらく一種類だけ選んで出せるんだろう)
セリアは周りを警戒しながら、アッシュが移動しているせいで木々がガサガサと揺れ動いているのを不気味に感じる。獣人ならまだしもただの人間が木を伝って移動しているなんて思わないから当然の反応だ。
セリアは、木が動いた場所を闇雲に攻撃する。セリアの攻撃によってボンッ、ボンッと音が響く。
一方、アッシュと別行動をしているレオヘルトとシャーロットの2人は、範囲が狭くなったことで他で起きている戦闘中の音がより聞きやすくなったため当然セリアとアッシュの戦闘音も聞こえていた。
「これってアッシュが行った方向よね。大丈夫かしら」
「たぶん、あいつなら問題ないだろ...俺たちもアッシュの心配してる暇じゃなさそうだよ」
レオヘルトがそう言って横を向くとそこには3人の敵チームがいた。
レオヘルトが前に出てシャーロットが後ろに下がる形で戦闘体制を整えて気を引き締める。
「サポート頼むぞ」
レオヘルトは、そう言い残すと敵めがけて突撃する。シャーロットはレオヘルトの突飛な行動に困惑しながらも敵目掛けて魔法を放つ。
敵もただ立っているだけではないので突撃してきたレオヘルトに1人が剣で応戦し2人が魔法を使う。
ードォンドォン
シャーロットの魔法は的確に、相手の魔法と相殺され『エクスプロージョン』を使っている影響で、魔法がぶつかり合うたびに爆発が起こる。
爆発の煙によってレオヘルトと、対峙している相手の剣使いの二人の視界が悪くなる。敵は、視界不良に困惑するが、レオヘルトは、シャーロットの魔法が爆発することは知っているため動揺を見せずに煙の中、相手へ一気に近づき攻撃する。
魔法がぶつかり合う音と視界の悪さにより気づいた時には、直撃寸前の頭上からの一振りに対応などできるはずもなく倒される。
「あと2人、シャーロットは大丈夫か?」
レオヘルトはそう呟いて、煙の中を、敵がいた方向に進んで行く。
シャーロットは、2人を相手していることもあり物量では勝てず苦戦していた。
「きついわね...それになんか魔道具使ってるわ。2人でこの量の魔法を短時間で出せるなんてありえないもの」
シャーロットの予想は的中していた。2人の内1人、光属性の攻撃をしている方は魔力消費は変わらず数を2倍にする魔道具を使っていた。
もし、シャーロットが無詠唱を覚えていなかったら絶対に勝てない相手だ。
敵側は、煙の中で味方の剣士がどうなっているのか分からないため、シャーロットとの戦いに集中していた。
油断している二人の背後をレオヘルトは難なく取ることができ、まず魔道具のような腕輪をしていた方から倒す。
「はぁ!?」
もう一人は驚きの声をあげるがすぐにレオヘルトの一撃を浴びる。
「ディットチーム全滅。残り2チーム」
そのアナウンスを聞いてシャーロットが魔法を止める。
「はぁはぁ...倒したの?」
「お疲れ、シャーロット。よく耐えてくれたよ」
敵がいた方からすまし顔をしてレオヘルトが歩いてくる。
「レオヘルト、何で勝手に敵に突っ込んで行ったりしたのよ!」
シャーロットは、日々敬語を使わずに接してきた弊害もあり、戦闘で興奮している結果相手が王族だということも忘れて抗議する。
「シャーロットなら大丈夫って思ったんだよ」
悪びれることもなく、むしろシャーロットが素で怒っていることを珍しく感じてむしろ嬉しそうにしていた。
「なにニヤニヤしてるのよ」
そんな態度のレオヘルトをシャーロットは気味が悪いと感じる。
「いや、君がそんなに俺の前で感情出すなんて珍しいと思って」
「あっ....すみませんでした」
シャーロットは、ようやく相手が誰なのか思い出しハッとした。
「いいよ、謝らないで。俺に遠慮しなくていいから。むしろ嬉しかったよ。アッシュの方に行こうか。まだ終わってないみたいだし」
ーー
アッシュは、変わらずセリアからの攻撃を避けていた。
(音が止まった。向こうの戦闘は終わったみたいだな。あとは、コイツだけか。でもどうやって攻略する?)
アッシュは、逃げに徹底しながらもたまに魔法を放っているがやはり、魔道具から発動される炎の盾のせいで攻めあぐねていた。
(あの盾を破りさえすれば勝てると思うけどな......ハハッ、あるじゃないか。最近、初級魔法ばっかり使っているせいで忘れていたけど初級魔法の防御じゃ防ぎきれない中級魔法が)
アッシュは、少し森の中に入って距離を取る。
ーヒュゥゥゥゥゥゥッ
アッシュが、魔力を集中させると風が一点に集まり風の槍へと変化していく。
「...『風空槍』」
そう言い放つと、風を纏った槍がセリアめがけて空間を切り裂くように木々の間をすり抜けながら飛んでいく。
異変に気づいたセリアが、炎の盾を展開するが防ぐことなどできずに盾が貫かれた瞬間、結界の効果で場外へと退場する。
「セリアチーム全滅。勝者レオヘルトチーム」
その宣言によって演習場を森林に変えた魔法の効果が切れ、元の周りを遮るものがない場所へと変わる。
「っ......いってぇ」
アッシュは、木の枝に立っていたため、急に足場がなくなり地面へと落下する。
そんなアッシュにレオヘルトとシャーロットが近づき、レオヘルトが手を差し伸べる。
「大丈夫か?」
「ああ、ありがと」
レオヘルトの手を取って立ち上がる。
「お疲れ、勝ったな俺たち」
「ああ、そうだな。でも、結構アッシュに助けられたな」
「何でだ?全員活躍しただろ?」
「そうだけど、現在地の特定や単独行動できるってのはこのルールだと結構重要なプラス要素だと感じたからな」
アッシュ1人に負担を強いたことを思い悩むようにレオヘルトは言葉を発する。
「たまたま俺に向いている状況だっただけだよ」
「それよりアッシュ、私たちにも飛ぶ方法教えなさいよ」
「ああ、そうだったな。俺には無詠唱も教えてくれよ」
シャーロットの言葉で、レオヘルトは思い出したかのようにシャーロットの話に乗っかり切り替える。




