表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された悪役令嬢ですが、国が回らなくなったので第二王子に引き取られました  作者: リリア・ノワール


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/52

第34話 離れることを想像する

 朝の空気は、澄んでいた。


 体調は、ほぼ元通りだ。

 熱もなく、頭も冴えている。


 それでも、レティシアの胸の奥には、

 昨日から消えない小さな違和感があった。


 ――離れたくない。


 その感情を、

 まだ自分の中でうまく扱えずにいる。


 *


 午前中、ロイドから一つの話が持ち込まれた。


「一応、共有だけしておきます」


 そう前置きして、書類を差し出す。


「第三研究院から、

 あなた個人宛に打診が来ています」


「……私、宛に?」


 研究院。

 王城直属ではない、独立機関だ。


「制度設計の助言役として、

 常駐ではなく、顧問契約です」


 条件は、悪くない。

 自由度が高く、責任も明確。

 何より――王城とも、第二王子とも距離がある。


「断る必要はありません。

 選択肢として、です」


 ロイドの言葉は、事務的だった。


 だが、その一言が、

 レティシアの胸に、思った以上の重さを残した。


 *


 一人になった執務室で、

 書類を眺める。


 ここを離れる。

 アレクシスの館を出る。

 別の場所で、別の役割を担う。


 ――できる。


 自分なら、問題なくやれる。

 むしろ、気楽かもしれない。


 守られすぎることもない。

 期待と距離が、ちょうどいい。


 なのに。


 想像した瞬間、

 胸の奥が、きゅっと縮んだ。


「……変ね」


 以前なら、

 “選択肢がある”ことは安心材料だった。


 今は、違う。


 離れることが、

 喪失のように感じられる。


 *


 午後。


 中庭でアレクシスとすれ違った。


「顔色は、問題なさそうだな」


「はい。もう大丈夫です」


 少しの沈黙。


 そして、レティシアは意を決した。


「……殿下」


「何だ」


「もし、

 私がここを離れる選択をしたら」


 言葉を選びながら、続ける。


「殿下は……

 引き止めますか?」


 一瞬、空気が止まった。


 アレクシスは、すぐには答えない。


 数秒後。


「引き止めない」


 静かな声。


 レティシアの胸が、ちくりと痛む。


「君が選んだなら、

 それが最善だ」


 淡々としている。

 だが、冷たくはない。


「……そう、ですか」


 それ以上、言葉が続かなかった。


 *


 夜。


 自室で、研究院の書類を机に置く。


 自由。

 合理性。

 安全な距離。


 どれも、かつての自分が求めていたものだ。


 それでも。


「……ここを、離れたくない」


 ようやく、正直な言葉が出た。


 理由は、まだ説明できない。

 恋、と呼ぶには早い。


 だが。


 引き止められなかったことが、

 少しだけ、寂しい。


 それ以上に。


 引き止められなくても、

 ここにいたいと思っている自分に、

 レティシアは気づいてしまった。


 選択肢があるからこそ、

 選ぶ意味が生まれる。


 次に迫られているのは、

 仕事の判断ではない。


 ――自分が、誰のそばにいたいか。


 その問いが、

 静かに、彼女の中で形を持ち始めていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ