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婚約破棄された悪役令嬢ですが、国が回らなくなったので第二王子に引き取られました  作者: 桐谷ルナ


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第17話 意見が、遮られない

 翌朝、レティシアはいつもより遅く目を覚ました。

 鐘の音で飛び起きることも、時間を気にして焦ることもない。


 それだけで、奇妙な罪悪感が胸に浮かぶ。


 ――もう、城の時計に縛られていない。


 身支度を整え、執務室へ向かうと、すでに一人の男性が机に向かっていた。


「おはようございます」


 声をかけられ、レティシアは一瞬だけ身構える。


「ロイドと申します。

 本日から、殿下の政務補佐を務めています」


 年齢は三十前後。

 姿勢がよく、視線は真っ直ぐだが、威圧感はない。


「レティシアです。よろしくお願いします」


「こちらこそ」


 簡潔な挨拶のあと、ロイドは机の上の書類を指した。


「早速ですが、この案件についてご意見を伺えますか」


 それは、形式的なものではなかった。

 “確認”でも、“同意”でもない。


 意見を、求められている。


 レティシアは、書類に目を通した。


 地方間の魔力融通計画。

 一見、問題はない。


「……この配分ですと、南部で過剰が出ます」


 自然に、口から言葉が出た。


「ですが、試算では――」


「数値上は、そうですね」


 ロイドの言葉を遮らず、続きを聞く。


 それだけで、少し驚いた。


「ただ、実際の消費は、ここ数年で変わっています。

 気温と作物の関係で」


 説明は、淡々と続いた。


 ロイドは、途中で口を挟まなかった。

 眉をひそめることもない。


 最後まで聞き終えてから、言った。


「……なるほど。

 その視点は、こちらにはありませんでした」


 否定ではなかった。

 評価でもない。


 ただ、事実として受け取られた。


「修正案を出します」


 そう言って、彼はペンを取る。


 レティシアは、思わず瞬きをした。


「……私の案で?」


「ええ」


 当然のように。


「合理的ですから」


 その一言が、胸の奥に落ちる。


 “殿下の意向に反するかどうか”ではない。

 “誰が言ったか”でもない。


 ただ、合理的かどうか。


 それだけで、判断されている。


 *


 昼前、アレクシスが執務室を訪れた。


「進捗は」


「問題ありません」


 ロイドが即答する。


「レティシアの指摘を反映し、再計算しています」


 名を、当たり前のように出される。


 アレクシスは、軽く頷いた。


「そうか」


 それだけだった。


 確認も、賞賛もない。

 だが、疑いもない。


 それが、この場所の“基準”なのだと、

 レティシアは理解し始めていた。


 *


 午後。


 外部から届いた問い合わせに、三人で対応する。


 ロイドが説明し、

 レティシアが補足し、

 アレクシスが最終判断を下す。


 流れは、驚くほど滑らかだった。


 誰も、誰かの発言を遮らない。

 感情論も、忖度もない。


 ただ、最善を探す。


「……こういうやり方も、あるのですね」


 思わず、口をついて出た言葉。


 ロイドは、不思議そうに首を傾げた。


「普通だと思いますが」


 アレクシスも、淡々と言う。


「意見を出さない方が、異常だ」


 その“普通”が、

 これまでの彼女には存在しなかった。


 *


 夕方。


 仕事を終え、執務室を出ようとした時、

 ロイドが声をかけてきた。


「レティシア」


 呼び捨てだったが、失礼さは感じない。


「今日の指摘、助かりました」


 それだけ言って、彼は書類に戻る。


 過剰な感謝も、遠慮もない。


 それが、妙に心地よかった。


 部屋を出ると、廊下でエマとすれ違う。


「お疲れさまでした」


「……ええ」


 短く返事をしながら、レティシアは思った。


 ここでは、

 言葉を飲み込む必要がない。


 意見は、

 出していいものとして扱われる。


 それだけで、

 胸の奥にあった緊張が、

 少しずつ解けていくのを感じていた。


 まだ、安心とは言えない。


 だが――。


 少なくとも、

 この場所では、

 彼女の声は、

 最初から“聞かれる前提”なのだ。



本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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