魔力欠乏
「その、アシュレイ殿下は他にもご不安なことがおありなのではないですか…?」
「っ…」
私が投げかけた言葉に、アシュレイ殿下が今にも泣き出しそうなお顔で固まる。
しまった…!!
どうして…どうして私は毎回直球で聞いてしまうんだろう!?
「あの、言いたくない事でしたら、無理に言う必要はなくて、その…ただ人に言ってみたらお心が軽くなることもあるかなと…えっと」
言ってしまってから後悔しても遅いのだ。
何かと回りくどい言い方をするのが美徳の貴族令嬢としてあるまじき短所ではないだろうか。
なぜこう、ユーリス先生みたいにもっと自然に寄り添うみたいに聞くことができないのか…。
私が底のない自己嫌悪に陥りそうになっていた時、アシュレイ殿下がゆっくりと口を開く。
「すみません。そうですね、フィリリアさんにも知る権利があると僕は思います」
そう言って、何も無い空間に向かって手で壁を擦るように動かす。
もしかして…あれ?
少し音が遠のくような感じがしたものの、一瞬で元に戻ってしまう。
多分、遮音魔法を掛けようとしているのだと思う。
「あの、良ければ私が…」
「いえ、大丈夫です」
アシュレイ殿下はへにゃっと落ち込んだ表情で弱々しくそう言って、深い深呼吸をする。
深呼吸を終えたアシュレイ殿下は上手く気持ちを切り替えられたのか、キリッとしたお顔だ。
もう一度空間を擦ると、今度はしっかりと遮音魔法が張られた気配がした。
「その、僕も先程聞いたばかりのことで動揺してしまっていて。情けないところをお見せしてしまい、申し訳ありませんでした」
アシュレイ殿下は魔法の上達が早く、最近はあまり失敗らしい失敗をされなくなっていた。
それに、あんな風に魔法を霧散させたのを見るのは初めてだったので続きを尋ねるのに少し緊張する。
「いえ、その…何を聞かれたかお伺いしても…?」
「はい。…ユーリス先生が魔力欠乏で倒れられたと」
「え…?」
アシュレイ殿下の言葉を聞いて、今度は私が固まる。
ユーリス先生が魔力欠乏…?
ありえない。
だって、魔力量の高い人が魔力欠乏に陥ったなんて聞いた事がない。
一体、何がどうなればそんな事に…?
「陛下が仰るには、先生は現在昏睡状態で…その、先生の立場を狙う者も多いので、安全の為限られた者にしか伝わっていないようです」
「な、なんで」
「原因までは…教えていただけなくて」
動揺で頭も口も上手く回らない。
それでも、アシュレイ殿下は私の疑問を的確に汲み取ってくれたようだ。
だけど、アシュレイ殿下も全てを聞いているわけではないらしい。
「先生はお邸で療養されていて、面会謝絶だと聞きました。今は第一師団の治癒魔法を得意とされる方が身体機能の維持をされていると」
アシュレイ殿下が聞いた事を懸命に伝えてくれる。
昏睡状態に陥り目覚めなければ、そのまま身体が弱り死んでしまう。
治癒魔法があれば、ある程度は延命もできるだろう。
けれど…。
魔力欠乏が起きやすい庶民の方達はそれさえできない。
それ故に、治癒魔法でどの程度保たせられるのか…記録がない。
「そうやって魔力が回復し、目覚めるのを待つしかないそうです」
「そんな…」
分かっている。治療魔法は万能ではない。
怪我や病は治せても、魔力は増やせない。
どんなに卓越した技術を持った治癒師でも、そこは同じだ。
そう頭では…知識では分かっていても、気持ちはついていかない。
「面会謝絶の状態だとは言われましたが、陛下に「可能ならばお見舞いに行かせていただきたい」と先生のお邸の方に伝えてもらえるよう頼みました」
その言葉に、パッとアシュレイ殿下を見る。
私達は先生が目覚めるのを、信じて待つ事しかできない。
それでも…先生の姿を見たい。
まだ生きていると確認したい。
「また何かそちらから連絡があれば、フィリリアさんにもお伝えします」
「はい。お願いします…!」
アシュレイ殿下の行動は意味のないことかもしれない。
それはアシュレイ殿下自身が1番分かっているだろう。
それでもと、そう思うのは私も同じだ。




