表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フィーネ・クリスタル  作者: 青空ミナト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

215/215

未来をたくして


「ガキン!」


 金属同士がぶつかり合うようなにぶい音が響き、ソルシャインの肩の上で剣が止まっていた。


「あれは……」


 アルはこぶしにぎりながら目を見開いた。ソルシャインは体に虹色にじいろの光をまとわせ、レシオンの振り下ろした剣を動かずに受け止めていた。摩擦まさつにより白いけむりが立ちのぼり、光の中でレシオンの持った剣が床へと落ちた。


「これが、己の体を作り変える、創命魔法そうめいまほうだ。ラファロスとも呼ばれている」


「あの光は、ダイダルでわしと?」


「ああ、レギリアが!ヘウルーダでも!それに……」


 アルのひたいから細い汗が流れた。


「その力は絶大だ。強靱きょうじんな体は、魔法による攻撃を易々とね返し、深い傷も瞬時しゅんじなおしてしまう。魔法によって消費したザラすらも、強制的に回復する事が可能だ。まさに神の領域といえるだろう」


(そうか!それで、おれのザラも……)


「さらにきわめれば、自分だけでなく、他の生物の体を作り変える事も不可能ではない。命を作り変える、究極きゅうきょくの魔法だ。今、この魔法を使える人間は、世界でも数人しかいない」


「ええ。おれも、レギリア以外には知りません」


「そして、その中の一人に貴様きさまはなりかけた。ちがうか?アル」


「……」


「なんじゃと?アルが?」


「シュー…」


 ソルシャインの体から虹色にじいろの光が消え、普段ふだんと変わらぬ姿にもどっていった。 


「ラファロスを使った者の体には、微弱びじゃくなザラのうねりが残る。同じレベルの者でなければ、判別できないほど小さな」


「ああ……確かに、おれはその光を使った。いや、使えた。自分で使おうなんて思ってもなかったけど、レギリアとの戦いで、無意識に使えたんだ」


「やはり、そうか。その首飾くびかざりの石が、極限まで力を引き出したのだろう。だが強大な力を使いこなすには、それに見合うだけのうつわが必要だ」


うつわ……」


みなまで言わずとも、貴様きさまは気づいているはずだ。強すぎる力の反動が、どれほど大きく、どれほどほろぼすかを」


 ソルシャインは、射殺いころすような冷たいひとみでアルを見つめていた。


「アル。貴様きさまが、どうしても魔法への希望をてきれないのであれば、方法は一つだ。創命魔法そうめいまほうを習得しろ」


「えっ?」


「再びラファロスを使う事ができれば、体にきざまれた記憶をもとに、自らの肉体を作り変える事ができる。魔法を使えた時の自分を、感覚ごと取りもどす事ができるだろう」


「そんな事が?ですが、創命魔法そうめいまほうは……」


 レシオンは一瞬いっしゅんだけアルを見つめると、青い髪をらしながら、ソルシャインの方へと顔を向けた。


「習得できる可能性は、ほとんどぜろだろうがな。瞑想めいそうにより、自らの内側にあるザラのかくを知覚し、そこに眠るにじの光をつかむ必要がある。この百五十年、さいある人間達が挑戦ちょうせんし、ことごとくたどり着けなかった領域だ」


「そんな魔法を、おれが……だれか、だれかおぼえたやつはいないのか?レギリア以外に!」


しょくち、七日間、不眠不休で瞑想めいそうを続けた者。妻子さいして山にこもり、老人になるまで修行した者……名のある術士が、様々な方法でその習得をこころみたが、成功した人間はいなかった。私をのぞいてな」


 ソルシャインは腕を組みながら、口元に小さな笑みを浮かべた。


「このまま、自然魔法しぜんまほうを一からおぼえ直そうとしたところで、たいした力は手に入らない。修行が上手うまくいく可能性も低いだろう。どうせ可能性が低いなら、一番難しいほうにけてみろ」


「一番難しい……」


「全てを取りもどすか、何もにつかぬまま終わるか。馬鹿ばかには馬鹿ばかのやりかたがある。割り切れぬのなら、徹底的てっていてきに開き直れ!開き直って、その手につかんでみせろ!」


 ソルシャインは不機嫌ふきげんそうに目を閉じると、アルの横を通り過ぎ、部屋の外へと歩き出した。


「えっと、その……」

 

「私は畑の様子を見てくる!貴様きさまとちがって、いそがしいのでな!」


「あ……」


「行ってしまったね。おれも、もっと聞いてみたかったんだが」


「しかし、百五十年の間でほとんどおらんとはのう。難儀なんぎな事じゃ」


「で、どうするんだ?」


「え?」


 アルは目を大きく開きながら、ルーナの方に顔を向けた。


「マリーを助けるのに、何年もってられない。私でも、まだ召喚魔法しょうかんまほうすらきわめる事ができない。一足飛いっそくとびは不可能だ。それでもやるのか?」


「それは……そんなの、決まってるだろ!」


 アルはゆっくりとうなずきながら、自信に満ちた顔で笑った。







 冷たい空気が流れる夜の空に、青白あおじろい月が浮かんでいた。欠けた部分のない満月まんげつが、白い山肌やまはだを美しく照らしていた。空の上からはゆっくりと粉雪こなゆきが降り、月の光に照らされながら、一定の速度で地面へと落ち続けていた。


「サアー…」


 はだを刺すような冷たいが風が吹き、ソルシャインの髪が横へと浮き上がった。ソルシャインは腕を組みながら雪の上に立ち、青白あおじろ満月まんげつを見つめていた。すぐ前は深いがけになっており、一歩前にみ出せば、はるか下へとすべり落ちそうになっていた。


「いい月ですね。山の上で見ると、不思議と綺麗きれいに見える」


 後ろから、レシオンがうれしそうに笑いながら近づいてきた。体をおおうマントには雪の粒がつき、長い髪が左右にれ動いていた。レシオンは白い息をきながら、ソルシャインの隣で立ち止まった。


「色々な月を見てきましたが、ここの月が一番美しいですよ」


「そうか。なら、それだけ、今の貴様きさまの心がき通っているのだろう」


 ソルシャインは月を見上げたまま、冷静な表情で声を発した。


「これからの行動に迷いのない、んだ状態でな。月はいつも変わらない。変わるのは、見る者の心だ」


「それは……確かにそうかもしれませんね」


「変わらないものというのは貴重きちょうだ。長い時の中では」


「ええ。特に、人の心は……一つ、お聞きしてもいいですか?」


「ああ」


魔石ませきや聖剣について、あなたはだれかと情報を共有する事なく、この山で暮らしてこられた。あなたほどの力があれば、誠意ある研究者を引き入れ、古代の魔法学を完全にき明かす事もできたのではないでしょうか?」


「……」


「すみません。失礼とは承知していますが……」


 背中まで伸びた青い髪を、冷たい風が上へと浮き上がらせた。レシオンの周りには音もなく雪がり続け、分厚ぶあついマントについた粒が、水にけるようにゆっくりとかき消えた。


「気が遠くなるほど昔に、魔法の才能にあふれた、一人の男がいた。その男は、不治ふじやまいにおかされた恋人を助けるため、古代の魔法を研究していた」


 ソルシャインは月を見つめたまま、落ち着いた口調で話し始めた。


「世界中に残された石碑せきひ文献ぶんけんを調査しながら、男はある魔法を復活させようとしていた。人の体を作り変える、究極の魔法を。男は、その魔法があれば、恋人の病気をなおせるかもしれないと考えていた」 


「……」


「体の構造を作り変える事で。当時、世界は混乱の中にあり、高度な機械装置の数々を失った国々は、未来のない衰退すいたいを続けていた。男にとって、古代人の残した叡智えいちは最後の希望だった」


 ソルシャインは表情を変える事なく話し続けた。青白あおじろい月明かりが、グラデーションのように濃く変わる水色の髪を、美しく照らしていた。


「恋人を助けたいという強い想いと、天から与えられたたぐいまれな才能により、男は次々と魔法を習得していった。古代の賢人達に比べれば、遠くおよばなかったにちがいないが、だれにもたよらずに失われた魔法をにつけていった」


「失われた魔法…」


「自分なりに魔法の体系を手記にまとめ、その内容をもとに研究を進めていた。限りある時間の中で。目を閉じたまま、はりあなに糸を通すような、先の見えない旅だったが、少しずつ、確実に目的へと近づいていた」


「……」


「男を動かしていたのは、恋人への強い想い、ただそれだけだった。数え切れないほど失敗もしたが、それを上回る驚異的きょういてきな速度で、あらゆる魔法を習得していった。そして男はついに、体の構造を作り変える、究極の魔法へとたどり着いた」


 ソルシャインは空を見上げたまま白い息をいた。


「これで病気をなおす事ができる。男は心の底から喜んだ。だが、希望に満ちて故郷へと帰った男をっていたのは、冷たくなった恋人の遺体いたいだった。男は、あと一歩というところでに合わなかった」


「そんな…」


「もう少し早ければ。そんな願いはだれにも届かず、男は絶望に打ちひしがれた。人生の目的を見失った男は、恋人の後を追おうとしたが、皮肉にひくにも自ら習得した高度な魔法が、無意識にそれをこばんだ。男は死ぬ事も生きる事もできず、深い悲しみのてに、ある決断をした。自分が研究してきた魔法を、世界に広める事を」


「……」


すくいのない地獄じごくのような世界にも、だれかが光を見つけてくれるのではないか。男はいのるように本を書き、現代の魔法学として、世界中に広めた。ゲルニスだけでなく、全ての国々に。そして、男はち続ける事にした。人々が魔石ませきの秘密にたどり着いた時、どのような選択をするのかを」


 ソルシャインは月を見つめながら、目を細めた。


ほろびをもたらした古代の力に飲み込まれてしまうのか、それとも、新たな道を見つける事ができるのか……希望というものが本当にあるのなら、いつか、その答えをしめしてほしい。弱い自分には見つけられなかった、答えを。それが、男の願いだった」


「希望…」


「人としての寿命じゅみょうにあらがいながら、男は見届ける事にした。だれかが答えを見つけてくれると信じて……そして今はもう、その男もいない。貴様きさまの言ったように、人の心とはうつろいやすいものだ。長い時の中で、その男もまた、かつての自分を失ってしまった」


「ソルシャイン様……」


「フッ。ただ世界を傍観ぼうかんし、何も感じない、人形にんぎょうのような人間にててな。だが、人の想いというものは、時折ときおり何かの拍子ひょうしでよみがえる事がある。忘れていたほうが楽な事もあるのに」 


 ソルシャインは小さな笑みを浮かべながら振り返り、レシオンの肩に手をあてた。


「また忘れてしまうかもしれないが、心配は無用だろう。ゲルニスには、優秀な皇子おうじがいるようだからな」


「……ありがとうございます。そのかたの想いをつないでいけるよう、力をくします」 


 レシオンは背中を向けてっていくソルシャインに向かって、静かに語りかけた。り続ける白い雪を、月の光が優しく照らしていた。











最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


もし気に入って下さったら、ブックマークや評価をしていただけるとうれしいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ