再会
「だ、大地?」
「どういう事じゃ?」
「おそらく、魔石の力の事を指しているのだろう」
ルーナは静かに下を向いた。
(風の次は、大地。やはり……)
「まさか、火山に……おもしろいぞ!ハハッ!」
「魔石の力って、どういう事だよ?わざわざ、こんな部屋に、いったいだれが……」
「フフッ。ここの壁の石は、かなりの年代物だよ。上の教会よりも」
アイナは古びた壁を見つめていた。
「なるほど。ここは、教会よりも先に作られたというわけか」
ルーナが顔を上げ、ゆっくりと口を開いた。
「ああ。おそらく、神聖な場所を守る為に、教会が建てられた…」
「ボボッ…」
ロウソクの灯りが小さくなっていた。
「暗くなってきたのう」
「空気も薄くなってきたか……よし、いったん上に戻ろう!ここでの事も、書き記しておきたい!」
アイナは息を吹きかけ、ロウソクの火を消した。右手の上には、まばゆい火の玉が浮かんでいた。
「ふう~やっと広いとこにでた」
アル達は教会の前に立っていた。
「なあ、そのエレグ山って、遠いのか?」
「そうだなあ。だいぶ遠いと思う。私の故郷よりも、さらに南でな」
アイナは小さな手帳に、教会の事を記していた。
「よしっと」
「火山の地下なんて、どうやって入るのじゃ?」
「いや~見当もつかない!一度戻って、本を調べてみよう。何か手がかりがあるかもしれない!」
アル達は飛行艇へと歩き出した。
「……アイナ、大地の力とは、自然魔法の事を指しているとは思わないか?」
ツインテールの髪を揺らしながら、ルーナがアイナに話しかけた。
「うん。そんな気はするよ」
「自然魔法って、たくさんあるのか?」
「ああ。アルには、まだくわしく言ってなかったな。自然魔法とは、火・水・風・雷・地という、五つの魔法の事を言う」
「へえ!」
「それぞれ、この世界を形づくる五つの要素と言われていてな」
ルーナは小さな笑みを浮かべた。
「書物によると、一番最初に作られた、根源的な魔法という事になっている」
「魔法の源、という事かのう」
「ああ」
「う~ん、大地の力か!いやあ、わくわくしてきた!」
アイナは前へと歩きながら、楽しそうに笑っていた。
「アイナ。石に関する本は、他に何かあるんだろうか?」
「いや、あまりないんだよ、これが。古代の伝説なら、少しはあったんだが」
「古代の?」
「ああ。メタル・シヴァ・ショックよりもかなり前に、巨大な文明が栄えていたという伝説だ」
アイナは、右手で細長い眼鏡の位置を直した。少し、角度がずれているようだった。
「たぶん、聞いた事はあるだろう。二百年前の機械文明よりも、さらに発達していた文明があったらしい」
「へ~!すげえな!」
「伝説では、古代の人々は魔法を自由に使っていたそうだ」
「そのときに、石が生まれたのだろうか?」
「う~ん、どうだろう。根源的な力だとしたら、もっと昔からあったのかも」
うっそうとした森を抜け、目の前には飛行艇が見えていた。
「もう昼を過ぎているな。飛行艇で食事をしてから、ヘウルーダに戻ろう!」
飛行艇の操縦席に、ルーナが真剣な表情で座っていた。無骨なレバーを動かしながら、左手に大きな地図を広げていた。
「じゃあ、この山か?」
「そうそう!ここだよ!いや~、やっぱり遠いな!」
「どちらかというと、ラフィーナに近いのう」
ロンは小さな瓶を手に取り、水を飲んでいた。
「火山か…熱いのかな」
「うむ。溶岩に触れると、一瞬で溶けてしまうからのお」
「げっ、ほんとかよ…」
「あっという間に終わりじゃよ」
「い、行きたくねえ……」
「別に、火口に行くわけではないだろ」
「そうだね。ただ、私もエレグ山には行った事がないんだ。バル大臣なら、くわしい道を知っているかもしれないな」
アイナは、ルーナの隣で腕を組んで座っていた。ふくよかな胸が、美しいラインを作っていた。
「そういや、ロンとバル大臣は知り合いだったっけ?」
「うむ。頭の切れる男じゃが、なかなかに強くてな。確か、魔法も使えるのじゃ」
「そうなのか?」
「ああ。若い頃は、兵士をしておったよ」
「へえ。意外だな。知らなかったよ」
人のいない荒野の中を、飛行艇がまっすぐに進んでいた。
「ん?」
アイナは目を細めた。乾いた大地の先から、白い煙が立ちのぼっていた。
「なんだ?」
ルーナは勢いよくペダルを踏み、飛行艇を止めた。煙の近くで、大勢の兵下達が血を流して倒れていた。
「警備兵がやられている!これは……」
アイナ達は、兵士の所に駆け寄った。
「おい、しっかりしろ!大丈夫か?」
「うう…」
「よし、意識はあるな!」
「は、早く、応援を…」
「ドゴオッ!!」
岩が砕けるような、大きな音が響いた。
「なんじゃ?」
ロンは拳を握りしめた。周囲には、大量の砂ぼこりが舞っていた。
「ザッ、ザッ、ザッ…」
砂ぼこりの奥から、アル達の方へと近づいてくる人影が見えていた。
「ボッ!」
突如、大きな炎が線となって伸びてきた。
「うわっ!」
アルは後ろに飛びのき、向かってくる炎をぎりぎりで避けた。
「増援か……」
砂ぼこりの中から、赤い髪の男が現れた。体は黒いマントに覆われ、模様のない面をつけていた。
「ロン!あいつは…!」
「むう!あの時の!」
「立ちはだかるなら、消すだけだ」
面をした男は、右手を前にかざした。
「いよいよだな」
薄暗い洞窟の中に、ガラードが背筋を伸ばして立っていた。天井の高い空間は鍾乳洞のようになっていて、地面から伸びた細い岩が、灰色の天井にくっついていた。ガラードの目の前には、街の中にある家と同じくらいの大きさをした巨大な鳥が、翼をたたんで眠っていた。
「はい」
ガラードの横に、黒いローブを着た男が立っていた。ゆったりとしたフードで顔を覆い、表情は見えなかった。
「細かい召喚のタイミングは、お前に任せる。ジャック」
「わかりました」
男はガラードの方に体を向けた。
「宮殿への突入は?」
「計画通り、おれが状況を見ながら判断する。マリーの護衛の老人には気をつけてくれ。かつて、ギル最強と言われた男だ」
「ロンですね。わかりました」
「魔法は使えないが、油断できない相手だ」
ガラードは静かに息を吐くと、巨大な鳥の顔を見つめた。鋭いくちばしを閉じたまま、深い眠りにつき、ぴくりとも動かなかった。
「こうしていると、かわいい小鳥のようだな」
「そうですね。もっと、眠っていたいのでしょうが……」
「古代の力、か……では、無事を祈る」
「はい。ガラード様も」
「ラウの未来の為に」
「ラウの未来の為に」
ガラードは静かにつぶやくと、体を反転させ、洞窟の外へと歩き出した。




