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フィーネ・クリスタル  作者: 青空ミナト
12/211

突破口


「行くぞ、サーシャ!」


「あれ、ぬれるからきらい」


「そう言うな。ぬん!」


 グアータは大きく飛び上がった。


「はあ…」


 サーシャは、けだるそうに両腕を前へと伸ばした。


「ザバアアッ!」


 水の柱が、形を保ったまま前へとかたむき始めた。太い水流が地面に近づき、水平になりながら、地面に接するギリギリで浮いた状態になった。長い水流の先が前方へと伸び、水でできた巨大な道のようになっていた。


「よし、突き進む!」


 グアータは空中から落下しながら、水の上に飛び乗った。金属のくつが、水面からわずかに浮き上がっていた。


「もう…」


 サーシャはまゆをしかめながら水の上に飛び移り、両手でグアータの肩をつかんでいた。


「よし、行くぞ!」


「バシャアアッ!」


 周囲に水しぶきを飛ばしながら、二人の体が前へと進み出した。水の上を波乗りでもするかのように、長く伸びた水の道を、勢いよく進んでいった。


「はえ~…なんだよ、あれ……」


 アルは口を大きく開き、二人の様子をじっと見つめていた。


「ハッハッハ!悪いが先に行かせてもらう!」


「グアータ、あまりしゃべっちゃだめ…」


「ハッハッハ!!」


 大きな笑い声と共に、二人は島の奥へとっていった。


「なんだったんだ…」


「にぎやかな連中じゃな」


「アル君、後ろ!」


 アルの後ろから、黒いサソリが近づいてきていた。


「やべっ、さっきのやつか!」


「わしにまかせろ!」


 ロンはねずみ色のローブをらしながら、大きくジャンプした。


「はああっ!」


 空中に高く飛び上がり、機械のサソリへと大きなりを入れた。


「ドガッ!」


 サソリの体が後ろにかたむいた。


「フンッ!」


 ロンは着地した瞬間に素早すばやけ出し、サソリの方へと近づいた。密着した状態で、サソリの頭に両手をあて、手のひらを広げていた。


「はああっ……白虎勁はっこけい!」


「ドゴオオッッ!!」


 サソリの体に大きな衝撃が走り、激しい音と共にバラバラになった。頭と胴体は完全に分離し、長い尻尾しっぽがちぎれていた。


「す、すげえな!」


「フッ。さすがロンさんだ」


 ルーナは目を輝かせ、ほこらしげな顔をしていた。


「よっと!まあ、こんなもんじゃ」


「今の、どうやったんですか?」


「ちょいと、中に衝撃を送ったのじゃよ」


「内側から破壊はかいしたという事ですか?」


「そんなところじゃ。うまくいったわい。だが、あの数は、少し厳しいかのう」


 ロンはするどい目つきで遠くを見つめていた。水流によって倒れたサソリの群れが起き上がり、黒いハサミをらしながら、ゆっくりと近づいてきていた。







「キュイーンッ!」


「うわっ!」


 黒いサソリ達が、次々に光線をってきた。


らばるぞ!」


 ルーナは後ろへと飛びのきながら、アル達に向かってさけんでいた。


「ボワッッ!」


 白い光線が地面にそそぎ、周りから火が立ちのぼっていた。


「ドゴッ!ガガッ!」


 二体のサソリが、横並びになりながら、連続でハサミを突き刺してきた。地面の至る所に、大きな穴があいていた。


「あ、危なっ!うわっ!」


「くっ、これでは逃げる事しか!」


 ルーナは空中へと飛び上がった。


「ブウウンッ!」


 金属のサソリが、尻尾しっぽを大きく振り回した。

 

「きゃあっ!」


 マリーは態勢を(くず)し、地面に仰向あおむけに倒れた。


「マリーさん!」


「キュイーン!」


 一体のサソリが、尻尾しっぽの先をマリーに向けていた。


「ほっ!はっ!むう、いかん!」


 ロンは三体のサソリと戦いながら、マリーの方に視線を移した。


に合わん!」


「ボワッ!」


「くっ!……え、アル君?」


 アルは、マリーをかばうように立ち、両腕を前へと伸ばしていた。アルの手のひらからあふれた水が、丸い円をえがくようにしてたてとなり、光線をふせいでいた。

 

「シューッ…」


「はあっ、はあっ」


「アル君、ありがとう!」


「へへっ。こ、これでも護衛なんで。無事ぶじでよかった」


「フン、あいつ……」


 ルーナは鳥のように高く滞空たいくうし、空中からアル達の姿を見つめていた。


「ほう!アルもやるのう!とりゃっ!」


 ロンは右足で大きなりを入れた。金属のサソリが、後ろに勢いよく吹き飛んだ。


(………)

 

 ルーナは腕を組んで下降しながら、全体の様子を観察していた。


(今のところ、まともに戦えるのはロンさんだけだ。このままでは……)


 ふと、後ろの方に目をやると、ロンがバラバラにしたサソリの破片が散らばっていた。


(ん…?)


 サソリの体のパーツは、金属のよろいのような形をしており、中が空洞(くうどう)になっていた。


(中に動力源はないのか?ばかな!いや、もしかして……)


 ルーナは右手をついて地面に着地すると、マリーのもとへけ寄った。


「マリー!ニブリーナは使えるか?」


きりの魔法ですか?はい、使えます!」


「よし!私と一緒いっしょに、ありったけの範囲を包んでくれ!」


「わかりました!」


 マリーは真剣な表情でうなずき、後方へと走り出した。サソリの群れの攻撃は激しさをし、ロン以外は、逃げ回るだけで精一杯せいいっぱいになっていた。


「はあっ!」


 黄色い髪を振り乱しながら、マリーは右手を上にかざした。しなやかな指先から黒いきりがあふれ、周囲を包み込んでいった。


「ドゴッ!」


 マリーから少し離れた所で、黒いハサミが地面にめりこんだ。ルーナは目の前の攻撃を避けながら、空へと高く飛び上がった。


「ふうっ。よし、この距離なら…!」


 ルーナはするどい目つきで、サソリの群れの上に滞空たいくうしていた。


「ルーナさん!」


「くらえ!」


 ちゅうに浮きながら、ルーナは両手を下に向けた。大量のきりが、地面へと噴き出した。


「これで!」


「シュオー…」


 金属でできたサソリ達の体が、黒いきりに包まれた。


「ギギギギッ!ピーッッ!!」


 サソリの群れは、大きな音を発しながら動きを止めた。


「はあっ、はあっ、よし!」


 ルーナは息を切らしながら着地し、地面に両膝(りょうひざ)をついた。


「と、止まった…すげえ」


「ようやったぞ、ルーナ!」


「いったい、何したんだ?」


 黒いきりが立ち込める中、アル達がルーナのもとへと集まってきた。


「はあっ、はっ、ザラを、遮断(しゃだん)した」


遮断(しゃだん)?」


「あのサソリ達は、ザラによってあやつられていたんだ。本来、ロボットならエンジンのようなものがあるはずだが、やつらの体は空洞(くうどう)だった」


「なるほど。それできりを使ったんですね」


きり?あ、確か、感知されにくくなるってやつ?」


「ああ。あのきりには、ザラを遮断(しゃだん)する力もある。しばらくは動けないはずだ」


「よく分析したのう」


「でも、あれだけの数、いったいだれが……」


 マリーはうつむきながらまゆをしかめた。


詮索(せんさく)は後だ。今は先に進もう。さっきの二人組も気になる」


 ルーナは静かに立ち上がり、島の奥へと伸びる水の道を見つめていた。







 ちゅうに浮かぶ水の道に沿って、アル達は前へと歩いていた。サソリ達と戦った場所はかなり遠くなり、黒いきりが雲のようになって浮かんでいた。


「いやあ、ほんと、死ぬかと思ったぜ」


「わしも、ひさしぶりにヒヤリとしたわい」


「アル君、さっきは本当にありがとう。助かったよ」


 マリーはアルの顔を見つめながら、優しく微笑ほほえんでいた。


「い、いやあ、そんな!ははっ!」


 アルの顔がほのかに赤くなった。


「で、でもあんな機械もあるんですね!おれ、びっくりしました!」


「ほんとに、おどろいたね」


「ロボット兵って言うんですかね?しゃべらないから、怖かったですよ」


「厳密には、少しちがうがな」


 ルーナが口を開いた。


「あれは、魔法をもとにした古代の兵器だろう。機械だけで作られたロボットの(たぐい)は、もうほとんど残っていないはずだ」


「メタル・シヴァ・ショック……」


 マリーは目を細め、真剣な表情になった。


「え?なんですか?」

 

「機械の歴史の事だよ。二百年ほど前に、高度な機械は全て、破壊はかいされてしまったと伝えられているの」


「ニ、ニヒャクネン?」


「うん。人間同士の争いを終わらせる為にね。機械の兵器やロボットは、そのほとんどがこわされてしまったという言い伝えがあるの」


「へえ!」


「当時を知る人はいないから、本当のところはわからないけどね」


「強い力を持てば、争いも激しくなる。ふくれあがった戦争を止める為の、最後の手段だったらしいがのう」


「へえ。お、あれは……」 


 アル達の前に、石でできた巨大な階段が現れた。灰色の石が段になって上へと続き、横幅はとても広く、一度に二十人は登れそうな余裕よゆうがあった。天へと伸びる階段の先には白いきりがかかっていて、頂上は見えなかった。


「なんとも大きな階段じゃな」


「うわあっ、たけえ!先が見えないぜ!」


「それよりも、これは…」


 ルーナは背中を丸めてふるえていた。


「ルーナ、どうしたのじゃ?」


「この先から、すさまじいザラを感じる。なんだこれは……」


「こ、これ、どういう事です?膨大(ぼうだい)なザラが」


 マリーは体を後ろにそらし、巨大な階段を見つめた。ひたいから、冷たい汗が流れていた。


「そ、そんなにすごいんですか?」


「うん。人間のものではないと思う。大きすぎる。こんな感じは初めて……」


「引き返すか?」


 ロンが後ろを振り返った。


「…いえ、危険ですが、行ってみましょう」


 マリーは静かに目を閉じ、両手を前にかざした。


「テレーベ!」


「あ、これって確か、体が軽くなるっていう」


「うん。風の魔法だね。皆さん、何かあったら、すぐに逃げるようにしましょう」


 マリーはゆっくりと目を開き、階段の先を見つめていた。


(おれが、マリーさんを守らないと……)


 アルはこぶしを強くにぎりしめた。

 


 

 







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