旅立ちと始まりの予感
更新が亀並ですみません。
更新を待っていてくださった方(いらっしゃるか自信はありませんが…)、ありがとうございます。
誤字ご指摘、いつもありがとうございます。
あれから王妃は、療養と称して王都から馬車で2週間はかかる遠い辺境へと移された。
そして王妃には、嫁ぐ前から王妃に付いていた侍従が志願して共に行くことになった。
ひっそりと王宮を去る王妃と侍従を、王宮の一室からこっそりと見送る私の目に、まるで憑き物が落ちたかのようにすっきりした顔をした王妃と、彼女を眩しそうに見つめる侍従の姿が映った。
その光景に、私の脳裏に一つの仮説が浮かんだ。
あくまでも仮説であり、真実とは限らないそれは言葉にはせず、ずっと私の胸の中に仕舞っておこう。
これまで彼女がカルマ様やルー様にしてきたことは、簡単に許せることではない。
だけど、政や身分に振り回された2人の行く末が、穏やかで温かいものになるといいという願いだけ、口にすることは許されるだろうか。
そう思えるのは、カルマ様の奇跡があったから。
これは断言できる。
カルマ様を失ったままであったら、王妃の境遇に同情はしても、こんな穏やかな気持ちで見送ることなんて到底できたはずもない。
あの奇跡を起こしてくれたリーゼ様には、本当に感謝してもしきれない。
ーーーいつか、恩返しができたらいいな。
そうやって、時空を超えて出会えた美しいあの人に想いを馳せているうちに、2人を乗せた馬車がゆっくりと走り出す。
煌びやかさはないかもしれない。
贅沢だってできないだろう。
王都と違って、いろいろ不便さを感じるかもしれない。
だけど、王都では感じられない自然の長閑さと素朴な温かさが、きっと王妃の心を癒やしてくれる。
「どうか、2人のこれからが優しさで溢れていますように…ーーー」
そう囁くように言葉にする私を、優しく引き寄せる力強い腕が一つ。
甘えるようにルー様に体を寄せると、私を抱き寄せる腕により力が籠る。
その温かさにホッとする気持ちを感じながら、もう一つの願いを願わずにはいられない。
ーーーどうか、これからもルー様と一緒にいられますように。
なぜなら、学園への入学がすぐそこに迫っているから。
破滅を回避するために頑張ってきただけあって、ゲームの内容とは違うことがたくさんあるし、勿論これは現実だっていうことも分かってる。
万が一のことを考えて、自分の身を守ることだってできる。
だけど、もしルー様がヒロインに心を奪われたら?
そうなったら、私は王妃のようになってしまうのだろうか。
否、とは自信を持って言えるはずもない。
だって、ルー様が大好きなんだもの。
ヒタヒタと私を追いかけてくる不安から逃れるように、ルー様にギュッとしがみ付く。
頭上でくすりと笑って、同じように両腕で私を囲い込んでくれるルー様。
その腕に、不安が少しずつ和らいでいく。
そうよ。
愛想を尽かされないように、ヒロインに奪われないように、私は私ができることをするまでよ!
指咥えて流されるなんて、してやらないんだから!
鼻息荒く決意を込めて、ルー様の胸元にグリグリ額を押し付けると、おかしそうにルー様が笑う。
ああもう、大好き。
ーーーもうすぐ、ゲームが始まる。




