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第28話 Dane(退去料)

蓬莱の北端に位置する大きな島。これを照北地方と呼ぶ。

照北の最北端の街から更に北の海を40キロほど行くとツリザス諸島という島々が連なり、ここが蓬莱の領土の最北端となっていた。

ツリザス諸島の主な地場産業は豊富な海洋資源を背景とした漁業であり今日も多くの漁船が周囲の海を行き交っていた。


「そろそろ帰るべさ。日が暮れると大変だべな」


「おーう。ついつい行き過ぎてしもた。えっぺとれだがらな」


とある漁船の一つ。ツリザス諸島に住まう漁師の親子がいつも通りの何気ない会話を交わす。

季節は秋口。親子はサケやマスを今日も文字通り大漁に持ち帰ろうとしていた。

ここ数日海は凪いでいて絶好の釣り日和であった。

漁業というのは早朝から始めて昼前には帰港するのが通例だ。しかし今日はあまりの調子の良さにもう13時を回ってしまっている。日が暮れる前に帰港したいところであった。

愛船に帰路を急がせる2人だったが数十分後異様なものを発見する。


「親父ィ。あれはなにさ?」


先に異常に気付いたのは息子だった。目を凝らして船長である父親に警告する。

切羽詰まった息子の声に父親は船を減速させて甲板に出る。


「おぢづげ。何が見えたさ?」


息子が指差す方を見ると水平線の向こうに何やら黒い影らしきものが蠢いていた。まだ距離があるらしく小さくしか見えないが近づけば大きいものであることは明らかだった。


「鯨か?おっついのお」


「お、おいあれ北の船かあ?」


蓬莱は海を隔てた北部の大陸に北部連合国という敵国を持つ。しばしば北部連合はこの海域に侵犯してくるが漁船に危害を加えてくることはなかった。

今日もむしろ自分たちを見つけた相手の方が逃げていくか、無視して通り過ぎるかいずれかの行動をとるだろうとこの親子は思っていた。

しかしこの日は様相が違った――


「ただの船じゃねえ!ありゃあ軍の船だわ親父!しかも多いど!」


数分前には一つの黒点だった影がみるみるうちに大きくなりその数を増やし姿が露わになってきた。親子にとってはテレビでしか見たことのない艦砲やミサイルの発射筒のようなものをその背に乗せている。魚影だと思っていた影は軍船だった。しかも8つ。

漁師の親子は息を呑み顔を強張らせる。こんなことは初めてだった。











「オウ……マケマシタ……コレデ3連敗デース」


「うーむ最近のテレビゲームにはついていけんな」


「どれ、代わってくれたまえ。私の孫が得意なんだよこれ」


ここは蓬莱の首都皇都福宮にある現在ロワイエ軍が占拠中の首相官邸の一室。

官邸占拠から3日目の午後、ガタレンコは気晴らしにと大きな一室にゲーム機を持ち込み閣僚を集めゲーム大会を開いていた。

イカの宇宙人が2チームに分かれ水鉄砲で陣取り合戦をする、といった内容で老若男女に大人気のゲームである。

はじめは乗り気でなかった閣僚たちもコントローラーを握るうちにヒートアップして、いまやその一挙手一投足に歓声が上がっている。


「ガタレンコくん、ずるいぞ!そろそろ代わりたまえ。私の順番だぞ」


「ムー……コレハ私ノ自腹デカッタゲームデース……」


「君はホストだろう?我々を丁重にもてなしたまえ。さあそのコントローラーを渡すんだ!」


「そーだ!そーだ!」


当初は子どもの遊びとバカにしていた議員たちがあまりのこのゲームの面白さに小学生のようにコントローラーの取り合いをしている。数日軟禁されていた、というストレスもあるのだろう。

現在運悪く人質となっている閣僚は12名。このゲームは最大同時プレイ人数が4人なので飽和状態になるのは当然だった。

閣僚たちの抗議にガタレンコは渋々といった様子でコントローラーを手渡す。


「フー……シカタアリマセンネ……」


「やった!見とれよワシの射撃を!」


「よっしゃ!やったれやったれ!」


まるで小学生の集いのようなこの場を見て原口総理だけは1人離れたテーブルに着き呆れた声を出す。


「なあ、君たちそんなことやってる場合じゃ……」


「なんじゃなんじゃ、せっかくガタレンコさんが開いてくれたこの会にいちゃもんつけるんかい?流石総理ですなあ」


閣僚の1人が原口に冷ややかな目を向ける。


「いや、決してそういうわけでは……気持ちはありがたいが……」


原口は思わぬ抗議の声にたじろぐ。


「いますよね、盛り上がってる中1人空気を読まず水を差す人」


「総理って陰キャじゃからな。昔からこうなんじゃ。『いい人だけど面白みのない人』って奴じゃ」


「今だってみんながワイワイやってる中1人で離れた場所に座っちゃって陰気ですよねえ(ヒソヒソ)」


「これだから支持率一桁なんですよね。二桁いったことあります?」



――あれ?私が間違ってるのか?いや間違ってないよね。今イカのゲームをやってる場合じゃないよね?うん、この感じ何度も味わったことある……

そうだ、生徒会長をやっていた学生時代と嫁と息子が出て行く前の我が家だ。


過去のトラウマを刺激された原口のコーヒーカップを持つ手が震える。


「チョットチョット〜シュウチャンヲイジルノハヤメテアゲテクダサイ!ナミダメニナッテルジャナイデスカ!」


「あっ……ごめんなさい総理」


「ごめんね総理反省してまーす☆」


「すまんのうシュウちゃん」


ガタレンコの仲裁で閣僚たちが形ばかりの謝罪を口にする。

……くそう回復したら内閣改造してお前ら全員クビにしてやる‼︎

原口は心の中で強くそう誓った。


ゲーム大会が開かれ小一時間ほど経った頃、控えていた衛兵の通信機に連絡が入りそれを受けてガタレンコの方へ向かう。


「失礼します。中将、サケ少将からの緊急連絡です」


「ゴクロウサマデス」


何らかの緊急案件なのだろう。しかしガタレンコは落ち着いて取り継ぐ。


「コチラガタレンコ」


『失礼します、中将。サケ少将です。急ぎ幹部を集めお知らせしたいことが。通信機ではなんですので詳細は出来ればご同席を』


「ワカリマシタ。スグニソチラニムカイマス」


『ありがとうございます。3番会議室でお待ちしております』


ガタレンコは通信を終えると部屋の片隅に立っていた2人の兵士に後を託すと閣僚たちに挨拶をしてその部屋を後にした。











「デハ報告シテクダサイ」


「はい、ではヤム少佐頼む」


ガタレンコを含め会議室のテーブルには11名の軍幹部たちが着席している。

簡単な説明図をスクリーンに映しながら30前後くらいのヤムと呼ばれた男が壇上に立ち説明を始める。


「はっ。報告致します。本日1428、照北地方北方のツリザス諸島において武力侵攻が発生。何者かは8つの艦船により各島の主要行政府を占領。一部住民は拘束された模様。死傷者、重傷者は無し。軽傷者不明。複数の小競り合いはあったものと報告がありますが住宅に被害はありません。敵性は北部連合軍及びそれに与する外宇宙からの何かであると情報部からの報告が入っております」


「外宇宙からの敵性は何者だ?なぜそうと判断した?」


「敵性については現在分析中。数時間以内に詳細は分かるとのことです。情報部が外宇宙よりの敵と判断した理由は……こちらをご覧ください」


ヤム少佐がスクリーンを切り替え映像を流す。

複数の船団が海洋を奔る映像が流れるがその中の一つに幹部たちの目が釘付けになる。


「これは……」


「こちらは衛星によって撮影された映像で先ほどツリザス諸島を占拠した船団の一部です。その内の一つ、この艦種は地球には無いものです」


全体的に黒が基調の船団の一つ、その船舶に幹部たちは目を付けた。重厚なシルエットに地球にはない形状の武装が施された船舶は一見すると地球のものと見分けがつかない。しかし彼らにはそれが何であるか一目でわかった。

スクリーンにアップで映されたそれは彼らの言う『宙母くうぼ』と呼ばれるもので、海洋はもちろん、空を飛び宇宙を駆けることもできる地球にはないテクノロジーの艦船であった。


「まるでカッコウの巣の中の鷹だな。浅ましい」


幹部の1人が苦々しげに皮肉を言った。

これが外宇宙からの敵性のものだとすると厄介なことになる。


「我々と敵対する何者かが当作戦に横槍を入れてきたものと思われます」


幹部たちの一部は顔を見合わせ苦い顔をした。


「先年の条約を破って我々の後追いをしてきたということか?なんて非常識な奴らだ」


ロワイエは銀河連邦法に基づく各星との条約により、単独で地球との友好条約を結ぶ権利をつい2、3年前に手に入れた。これは彼らの悲願であり、長年の努力の結晶であった。横槍を入れることは決して許されない。


「何者か判明次第報告するように」


「はっ」


ヤム少佐が壇上を降り、会議室に一瞬の静寂が訪れる。皆の注目は総指揮官であるガタレンコに対してそれとなく注がれていた。誰もが次の指示を待っているのだ。

そしてガタレンコが立ち上がりブリーフィングが次のフェイズに移ろうとした時だった。

会議室のドアをノックして許可を得ると兵士が1人入ってきた。


「失礼します。私は情報部のタヌム准尉です。会議中申し訳ありません。先ほど敵性の情報の分析中、こちらの端末に敵性と思われるものからの通信が入ってきまして……幹部と話せるなら顔を晒すと言っています。無視することも出来ますが遮断しますか?偽情報ということも考えられます」


入ってきた兵士の手には小型の通信デバイスが握られており、空中に浮かんだ3D映像には何者かの影が映っている。大胆にも相手は顔を晒すと言う。


「デハ全員に見エルヨウニ大型スクリーンニツナイデクダサイ」


「了解しました」


情報部の兵士は取り急ぎ指示に従う。

やがてスクリーンには男の影が映し出され話し始めた。


『噂通りだなガタレンコ。乗ってくると思ったぜ』


通信機の先からクックッと嗤う声が聞こえる。


「アナタハ何者デスカ?約束ドオリ姿ヲミセテクダサイ」


『おっとそうだったな。失敬。何しろテンションが上がっちまってよ。地球の侵略に、伝説の男とギリギリの交渉をするっていう2つの大仕事を任されちまったもんだからなあ』


男は不敵に嗤うと何らかのジャミングを解き自ら姿を現した。

顎まで長い髭を生やした傷だらけのその異様な容貌は、銀河に所在する軍の幹部であれば誰もが知っている顔であった。


「貴様は……」


ロワイエ軍の幹部の1人が息を呑む。

男はその反応を見て嬉しそうに再び嗤う。


『そうだ。俺こそはイヒニパダヒュ・ボンキイギュフ。伝説の黒き海賊と言ったほうがわかりやすいか?』


傷だらけの顔を綻ばせ男は高笑いを始めた。


「貴様、そこで何をしている?いや誰の指示で動いているのだ?」


幹部の1人が問い詰めるが男はふざけたように笑みを返す。


『誰の指示かって?何の話だ?俺はお前らとビジネスの話をしに来ただけだぜ?』


「ボンキイギュフ……!貴様‼︎」


――Daneデーン

この男は侵略した星域や土地を立ち退く代わりに莫大な退去料を強奪するビジネスを生業としていた。

ついたあだ名は「黒髭イニパ」「黒き海賊」等々、残虐な海賊行為は半ば伝説となっていた。

つまりは宇宙規模で危険な男である。

ロワイエ軍としては一刻も早く島民の安全確保が必要な状況となった。

エッセイの反応ありがとうございます。

励みになります。

これからも頑張ります。

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