第23話 戦乙女たちは帰投する
月明かりに照らされた広大な庭に秋の虫の音が鳴り響く。
先ほどの戦闘は時間にして1分足らず。短い時間とはいえ真夜中の住宅街で激闘が繰り広げられた後だというのに誰も起き出す様子が無い。バックアップチームの使用したロワイエ軍の兵器により、ここ周辺の音声は吸収され拡散されないように調整されているのだ。
草むらに倒れこむ五つの男たちの身体はまるで骸のように動かないが全員息はある。この月明かりの中で動く者はロワイエ軍少尉マフユとメオ2名のみ。この地球の同年齢の女の子と見た目は変わらない女性たちが強靭な男たちを一瞬でねじ伏せたばかりである。
特殊戦闘部隊ゼスァキナ――
女性兵士のエリート中のエリート87名のみから構成されるこの部隊は機動部隊、砲兵部隊、通信部隊、医療部隊、工兵部隊などによって編成されている。
マフユとメオは花形である機動部隊所属の中でも天才と謳われ士官学校時代からのコンビである。今回も要人警護という重要なミッションを任され、なんと「素手で」全ての敵性を排除した。2人が使用したデバイスは銃弾を防ぐフィールドを展開する防御用デバイスのみだった。
「状況終了しました。我々マフユとメオには負傷なし。敵性には負傷者多数。至急医療班の派遣を要請します」
「了解しました。医療班至急現場に急行します」
「それと彼らの車の撤去もお願いします。朝まであると目立ちますから」
「了解です。車両撤去の準備もします」
小型の通信機にむけて状況報告するブロンドの美女はマフユピュ・イェネン少尉。メオとは同階級ではあるがこのデュオの中ではマフユがリーダーとなっている。
「こっちに来るとは思わなかったですね。本当下衆な奴らです」
メオが撃破したばかりの敵を見下ろしている。彼女が感じる嫌悪感は無理もない。目の前のボロ雑巾どもは何の罪もない鈴木家の人々を危害に晒そうとしたのだ。ただ自分たちにとって都合の悪い情報を知っている「かもしれない」という理由だけで。
「にしてもちょっとやり過ぎですね、メオ。変形してるじゃないですかこれ」
マフユがメオの手加減について嗜める。メオの蹴りを受けた外村の顔面はまるでハンマーで殴られた後のようだった。
「手加減はできませんでした。相手が長物持ってたんで」
メオがマフユから視線を逸らしながらしれっと嘘を言う。彼女たちにとって地球人が武器を持ってようが持ってまいが問題にはならなかった。そんなことはマフユもわかっている。
「しょうがない子ですね。かくいう私も勢いあまりましたが」
マフユは目を回し伸びている鮫島に一瞥をくれる。
「私もあなたもまだまだ鍛錬が足りませんね。特に精神面の。少し逆上してしまいました。それにこれでは師の足元にも及びません」
彼女たちの師であれば無傷でこの場を一瞬で収めただろう。マフユは辺りを見回しながら少し思案に囚われた。
メオはマフユさん真面目過ぎるなあ、と思いながらも体裁だけは実直に返答する。
「以降善処いたします」
薄暗闇の空が歪み今までそこになかったヘリのようなものが浮かび上がる。
ステルスヘリSDWAデヴォーイ――
ロワイエ軍の攻撃用ステルスヘリコプターで、特殊光学迷彩を纏い極めて無音に近い状態で飛行可能な最新鋭機である。地球の現在の技術では捕捉することは不可能だ。
ヘリは静かに鈴木家の庭に着陸すると青い軍服の女性たちが数名降りてきた。
「医療班到着しました」
ゼスァキナ医療班αチーム8名が敵性の治療のためにやってきたのだった。
「ご苦労様です。怪我人が出たので治療をお願いします」
「了解しました」
「ついでに悪いところ全部治してやってください。顔とか頭とか」
毒突いたのはメオ。本来なら優しい子なのだが彼女は相当この男たちが気に入らないらしい。
「こらメオ。ダメですよ、後で反省文ですからね」
マフユに叱られたメオは不服そうに頬を膨らませる。
「しかし彼らの今後の為にも治療の他にもおそらく入っている体内の薬物とタトゥーは消しといてあげてください。更生できるかもしれませんから」
「そうですね。後は我々にお任せください。前以上に健康にしますので」
ロワイエの医療は地球のテクノロジーを遥かに上回っており様々な怪我や病理の治療技術の他にも薬物依存を解消する施術なんていうものまである。
この程度の怪我なら2、3時間で完全に治療してしまうだろう。
医療班はタンカに怪我人を詰めるとあっという間にヘリに乗り込む。
「では失礼します」
医療班が敬礼をするとマフユとメオも返礼を持って応え見送った。
ヘリは飛び立つと見る間にその姿を消し何処かへ去っていった。
「さて、我々も帰りますか」
「マフユさん、ラーメン食べていきません?私寄りたいとこあるんですよ〜」
「まだ任務中ですよメオ。本拠に戻るまでが任務です」
「はあ・・・・ほんと真面目ですねえ、マフユさんは。了解しました。帰投しましょうか」
マフユとメオは鈴木家の庭を後にする。
門の前に止まっていた趣味の悪いワゴンはすでにない。撤去チームがすでに片付けたのだ。
マフユとメオは鈴木家の門をくぐる前に邸宅のほうをちらっと振り向く。明かり一つ灯っていない。今晩の激闘には気づいてもいないだろう。安心すると同時に少し名残惜しい気分になる。しかし2人はまた鈴木さんには会える気がしていた。
「さようなら鈴木さん。またね」
迎えの車に乗り込み2人は帰投する。
辺りには何事も無かったかのように静寂が広がった。




