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第22話 ふたりはプリキュア

半グレ集団ブラックスカルズ――

ここ数年都内で台頭してきた犯罪集団で殺しから拉致、麻薬密売などもはや手を染めていない犯罪はないと言われる50名ほどからなる凶悪なチームである。

彼らは金田らの構築したネットワークの末端組織の一つであり、彼ら自身はその上位のパトロンの存在については詳しく知らされていないが一部の政治家や官僚にとって都合の悪い人物や物事を片付ける汚れ仕事を請け負い力を付けてきた。例え彼らが一斉検挙されようと金田や犯罪を犯した政治家が逮捕されることはないだろう。


都内の片隅にある小さなビル。

ここはブラックスカルズの本拠地の一つ。そろそろ12時を回ろうかという夜更けにその幹部や主力たちが集っている。今晩はいつものパトロンから急なオーダーが入ったようだ。


「ったくよお、今日は女とあう予定だったんだぜえ?本当に金は出るんだよなあ?」

不満を隠そうともせず幹部と思しき男に詰め寄る男は外村貞三。髪を真っ黄色に染めあげ顔のそこここにピアスを開けた筋肉質の巨体の男は総合格闘技のプロくずれで、スカルズ随一の武闘派である。

「ガタガタ抜かすな。いつもの宇藤木さんだよ。わかんだろ。あの人のオーダーは絶対だ」

巨体の男の手を払いのけ傲然と言い放つ男はスカルズリーダーの鮫島義隆。

外村ほどではないが彼も長身であり喧嘩無敗を誇るこの男は外村よりも強かった。

「ハハッ!しかし一人頭100万とは本当太っ腹すねあの人」

「いやーケツ持ち変えて正解だったわ」

声を合わせて嗤うのは兵頭兄弟。彼らは兄弟ならではのコンビネーションを得意とする。

「手早く済ませようぜかったりい」

長髪を伸ばした色黒の男は栖原。主に麻薬密売を取り仕切り自身もジャンキーである。殺人を犯すことに躊躇がない。


今日はスカルズの親元である暴力団五条組の構成員宇藤木という男から緊急のオーダーが入った。金田の孫請けの孫請けくらいの末端である。

命令の内容は「黒羽と鈴木環境大臣の子どもを拉致しろ」だった。

「まずは鈴木カンキョーダイジン?つったっけ?なにそれよわそうっすね」

兄弟の片割れが不気味に嗤いながら嘲る。

黒羽の子どもを押さえるのは彼を証言台に立たせないため。

鈴木大臣の娘を押さえるのは万が一鈴木が例の犯罪記録を見ていた場合の保険である。

度し難い巨悪は無辜の人々を踏みつけることを何とも思わない。


「まずは鈴木宅だ。娘が1人と家政婦1人。トチんじゃねえぞ」

鮫島が釘を刺すが聞いているのかいないのか兄弟たちはまだヘラヘラと嗤っている。

「わかってますって。年頃の女ですかね?楽しみっすわ」

この兄弟たちは女癖が悪く鮫島も手を焼いてきた。

しかし今回の人質は粗末に扱う訳にはいかない。この兄弟たちにはそれがわかっていないようだ。

「おい今回のは超VIP扱いだ。妙な気おこすなよ」

鋭い眼光で脅しをかける。場合によっては焼きをいれなければならない。

「怖い顔で睨まないでくださいよー。わかりましたって。鮫島さんは真面目だなあ」

鮫島は少しは畏まった兄弟を確認して幹部たちの顔を見渡す。

「よし行くぞお前ら。まずは鈴木大臣からだ。泣き叫ぶオバサンの目の前から娘を連れ去るだけのちょろい仕事だ」









都内の鈴木宅まで5人はワゴン車で移動する。

彼らは2件のオーダーを今晩中に一度で済ませるつもりである。

彼らにとって深夜の家宅に侵入し拉致するなんて犯罪は何度も行ってきたことであり朝飯前であった。

「ヒュー!金ってあるとこにはあるんすねー。俺んちの10倍くらいあるんじゃね?ぶっ殺したくなりますわ」

鈴木宅前に到着すると兵頭兄弟の片割れが大きな家宅を見て悪態を吐く。

「おい !今日はぶっ殺すとかは無しだ。わかってんだろな?俺がお前をぶっ殺すぞ!?」

殺しをされては困るので、鮫島はまた兄弟に脅しをかける。

「わかってますよー。冗談ですってば怖いなあ鮫島さんは」

くっくと兄弟の片割れが不敵に嗤った。

この兄弟は仕事はできるから今はいい。そう思い直し鮫島は号令をかける。

「得物を持てお前ら。おりるぞ」


鈴木宅のフェンスを乗り越え5人の凶悪な男たちが玄関へと向かう。鍵のコピーは既に宇藤木から受け取っている。

「3分だ。3分で終わらせるぞ。できるだけ音を立てるなよ」

侵入前に鮫島ができるだけ早く静かに、という注意喚起をした時だった。


「どこへ行くんですか?」

秋風のような涼やかな声が後ろから聞こえてきたので鮫島たちは思わず振り返る。

薄桃色のブラウスに黒いジャケットを着たブロンドの女性とグレーのカットソーに黒いライダージャケットをきた黒髪ショートの女性が2人。

動きやすいパンツルックで鈴木宅の庭石に腰掛けていた。

暗闇でも月明かりで一目で美女とわかる2人が無表情で男たちに冷たい視線を向ける。


「なんだお前らは?この家のモンか?」

声の主が年頃の女性とわかり鮫島は安心して声をかける。

しかし見られた以上彼女たちも「同行」してもらうしかない。

鮫島は部下たちに目で合図する。


「我々は鈴木さんの友人です」

「ここは鈴木環境大臣のお宅ですよね。あなた達は鈴木さんのお友達には見えませんが」

咎めるような口調で女たちは質問する。鮫島たちは真面目に答えるつもりはない。

「お友達だぁ?ああ、そうそう俺たちはこの家の大事な大事な客だよ」

そう舐めきった調子で答えたのは外村だった。

「俺たちはなあ、迎えに来たんだよ。鈴木カンキョーダイジンの娘さんを」

「お前らも来いよ。歓迎するぜお嬢ちゃんたち」

兄弟たちが舌舐めずりをしながら不敵に答える。

いつの間にか男たちは彼女たちの周囲を塞ぐように立ちはだかっていた。手慣れたものである。


「なるほど。私たちはあなた達を知ってますよ」

金髪の女性と黒髪の女性がゆっくりと立ち上がる。彼女たちに全く慌てた様子はなかった。

「これまでにどれだけの非道を為してきたかをね」


女性たちの返事が終わると同時に、彼女たちの後ろに回り込んでいた栖原が無言で特殊警棒を振り下ろす。

しかしその攻撃は何者も傷つけることなく何も無い空を切り栖原は前に仰け反る。女たちはどこへ?


目にも止まらぬ早さで栖原の攻撃を躱した彼女たちは臨戦態勢へと移ろうとしていた。

ブロンドの女性は鋭く手短に命令を発する。

交戦開始エンゲージ

了解ラジャー

彼女たちが構えると同時に冷たい風が吹き抜けていったのは気のせいだろうか。

ブロンドセミロングの鼻梁の通った長身女性の名はマフユピュ・イェネン少尉。

黒髪ショートの可愛い顔をした女性の名はメオ・ブノフ少尉。

彼女たちは鈴木大臣宅に危機が迫っているとの情報を受け、この周囲の偵察と大臣を密かに護衛することを命じられていた。

2人にとって地球人初の友人である鈴木大臣の家族に危害を加えようとする輩に対し、彼女たちはその怒りを密かに胸中に収め任務の遂行を始める。

気がつくと栖原の体が宙を舞っていた。栖原の体は一回転すると頭から地面に叩きつけられる。

白目を剥き泡を吹いて昏倒する栖原の姿を見て、流石に残りの4人も警戒を強め所持した武器を構える。

「来なさい。少し稽古つけてあげますよ」

「その腐った根性叩き直してやります」

女たちはゆっくりと前進する。

しかし思わぬ反撃をくらったが男たちも動じない。彼らは何度も修羅場をくぐり抜けている。反攻を受けるということはたまにあることだ。最もこんな見るからに荒事に縁のなさそうな美女に反撃を受けたのは初めてであったが。

「オラァァァァァ!!」

兵頭兄弟が角棒を構え走り出す。

兄弟だけあり2人のコンビネーションは完璧だ。

しかしそれは地球の片隅の薄汚れた世界だけでの話。

ロワイエ軍の中でも天才と言われる目の前の女戦士たちの前では彼らの暴力は児戯に等しかった。

振り下ろしたはずの角棒は手から離れ地面へと落ちる。

と同時に景色が反転し兄弟はぐるんと目を剥き前倒しに倒れる。

彼女たちの掌底が同時に兄弟の顎にクリーンヒットしたのだった。

鮫島たちにはもはや目の前で何が起こっているのか分からなかった。しかしそれでも怯む訳にはいかない。オーダーの失敗は実質「死」を意味する。

どんな今後が待っているかわかったものではない。

「ブロンドがリーダーのようだ。俺がそっちをやる」

鮫島の指示に外村は頷く。もはや彼らの顔に油断の色は無い。しかしそんな意気込みなど彼女たちの前では無駄なことだった。


金属バットを持つ外村がジリジリとメオとの距離を詰める。リーチ差を活かしバットでの打撃を喰らわせるシンプルな作戦だ。

射程距離――

「ハァァァァ!」

外村が躊躇なく金属バットを振り下ろす。

その打撃は虚しく空を切り、更に何らかの衝撃が加えられたのか外村はバットを取り落とす。

メオを視界から見失いバットを取り落とした外村が周囲を見回し落とした得物を拾うために屈んだ時だった。

「こっちです」

声のほうを振り向くと同時にメオの踵が外村の顔面に突き刺さった。見事なソバットである。

完全に気を失ったその愚かな顔は鼻が完全に潰れ、上の歯が全て折れていた。


長いドスを振り回し鮫島はマフユを追い回す。

何度も修羅場をくぐり抜けたブラックスカルズのリーダーを名乗るだけありその太刀筋は鋭い。

しかしマフユは表情一つ変えることなくその全てを躱し、息一つ切らしていなかった。こんなものはマフユにとっては小学生の拙いダンス同然であった。

幾度目かの切り込みでマフユは鮫島の武器を蹴り上げ袖と襟を掴むと素早く投げを放った。

背負い投げ――

鮫島は得物を取り落としもんどり打って倒れる。もはや勝負ありだった。

背中を押さえながらも鮫島はマフユを睨みつける。

「もうやめませんか?私は弱いものいじめは嫌いです」

マフユは目の前の外道にも慈悲をかけるが男の腸は煮えくり返っていた。俺が弱い、だと?

鮫島は懐に隠していた拳銃を構えるとマフユに向かって銃口を向ける。

「本当は使いたくなかったんだがなあ!バカどもが!ぶっ殺してやるぜ!!」

そう叫ぶと躊躇せずに引き金を引いた。

しかし銃弾は発射されない。慌てた鮫島は何度も何度も引き金を引くがそれでも銃弾は発射されなかった。

「使えませんよそれ。私たちに当たってもどうってことはないですが流れ弾が危ないですから」

マフユが冷然とした声で彼の切り札が使えないことを告げる。

ロワイエ軍の兵器の一つ「BAFブロークンアローフィールド」によりここ周辺の地球の銃器類は使用不可となっていた。

「見下げ果てた下衆ですね。こんな街中でそんなもの使おうとするなんて」

マフユの顔からは表情が消えていた。

女戦士は男に向かってゆっくりと歩き出す。最後の制裁を加える為に。

怪物が来る――数々の修羅場を乗り越えてきた鮫島が青ざめ歯の根をガチガチと鳴らし目の前のたった1人の女に完全に怯えきっていた。

「何の罪もない人間を踏みつけ痛みつけ自らの糧とする。あなたも始めからそんな人間じゃなかったはずでしょう?どうして自分がそうなってしまったのか少しでも考えたことはありますか?」

この女は何を言ってるんだ?クソがクソがクソが!

「あなたの過去に何があったかは知りません。しかし何があろうとも関係のない無辜の人間に暴力を振るうことに免罪符などありませんよ?」

マフユが地面に倒れこむ鮫島の目の前に立つ。王手チェックメイトだ。

「あなたの生み出す悲しみや憎しみ。今ここで私が断ち切ります」

マフユは鮫島の襟をガシリと掴み軽々と担ぎ上げる。そして溜めをつくると上空に向かって鋭く投げ放った。

「ウアアアアァァァァァァァァァァ!!!!!」

声にならない声が小さく空に響く。

6回転、7回転、8回転・・・・

鋭角に跳ね上げられた鮫島の体がまるでゴム鞠のように空中で回転している。

鮫島の腐った脳が揺れる。気分が悪い。吐きそうだ。これ以上ないくらいの地獄だった。

鮫島にとっては無限のように思える刻はしかし、終わりが来る。

やがて慣性の法則に従って男の体は地面に向かって思い切り音を立てて着地する。

着地点を確認すると間抜けな顔を晒し白目を剥いた汚物がそこには横たわっていた。

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