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第12話 a traitor

警視庁警備部部長黒羽知道は初めから道を踏み外していたわけではない。

彼も若き頃は人並み以上に誰かの役に立とうと青き志に燃える優秀な警官だった。

そんな彼を直属の上司はよく可愛がり時には厳しく叱ってくれた。彼はそんな上司を手本とし、その背を追い続けた。家族ぐるみの付き合いでもあった。

だが、そんなある日、彼の状況を一変させる事件がおこる。

彼は身に覚えのない積立金横領の容疑で逮捕されたのだ。

もちろん、彼は必死で無実を訴えた。

だが、端末からのデータや銀行口座、金の流れなど後から出てくるありとあらゆる証拠が全て彼を犯人だと指し示していた。


彼の横領の容疑が晴れたのは半年後。

なんと横領の犯人はあろうことか彼の尊敬する上司だった。

上司は彼との親しい関係を利用し、罪を全て彼になすりつけようとしていたのだった。

後に裁判で全ての容疑について黙秘を貫く上司の姿を見て、彼は自分の心が死んでいくのを感じた。

初めての手柄を上げたとき、「よくやった」と肩を叩き、喜んでくれた。その時から自分を嵌めることを考えていたのか?

上司が彼の子供の遊び相手になってくれたこともあった。俺が捕まっている間、ちっとも良心の呵責はなかったのか?

特捜検察に取り調べられている間の接見の際、「俺は信じている」と励ましてくれた言葉は本当だった。そりゃそうだあんたが犯人なんだから。

心が荒んだ彼は妻と離婚し、子供も手放すこととなった。


家族を手放した彼は更に坂を転がり堕ちていく。

彼は堕ちることで、自分をこんなにした「何か」への復讐を果たそうとしていた。

人の弱みを握ることでしか、人は本当に動かせない、彼はそう考えるようになった。

汚職や不正の揉み消しの仕事は彼の出世への近道となった。

何か困ったことがあれば、上司も部下も、政治家も彼の元にやってくる。所謂フィクサーである。

もはや上も下も、少しでも脛に傷持つものは彼に何も言えなかった。

45歳の若さで彼がここまで昇進できたのは、金田とのコネクションのおかげだけではない。

元来の生真面目な性格と地獄の半年が黒羽知道という怪物を創り上げたのだった。



「今回は自分のためだ。あんたに言われたからじゃない・・・」

ボソリと彼は呟く。

「何かおっしゃりましたか?」

WAT隊長岩田は訝しげに黒羽に問うた。

「いや、なんでもない。」

日付も変わり現在は午前1時。今最も熱い都心の官邸前。

報道規制を敷き、マスコミと野次馬を強制的に立ち退かせたので昼間の喧騒が嘘のように静かである。

だが、それも束の間だろう。これから、未知のテロリストとの大捕物が始まる。

黒羽にとって、直属の機関であるWATを動かすことはもはや難しいことではなかった。

「全員配置に着いたか?」

黒羽は隊長の岩田に確認する。

「はい、いつでも突入できます。」

「そうか・・・」

一呼吸おいた後、黒羽はペットボトルの水を一口飲むと鋭い声で命令した。

「突入しろ」

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