廃村1
「居たか?」
三人それぞれ背中を合わせるように茂みに隠れている。
「こっちは何も見えないわね」
「……」
「ちょっと?悠平、大丈夫?」
「え、あ、ごめんごめん。こっちにも居ないよ」
今は夕暮れ時、と言ってももうほとんど日は沈んでいるので、よく目を凝らさないと見つけられない。
何故こんな事になっているかと言えば、僕たちが扉から出てきてすぐの事、狼に襲撃されたからだ。出てきてすぐ、と言うのは本当にすぐの事だった。扉を開けたら目の前に狼の尻尾が見えたのだ。幸い、一匹だったので死に物狂いで扉の中に入れて、扉ごと消すことは出来た。ただ、安心していたのも束の間、別の狼の鳴き声が遠くから聞こえた。
「おいおい、一難去ってまた一難どころじゃねぇぞ」
元希がちょっとおどけて見せるが、現状と、先程の出来事でそれどころではない。
「……元希、あそこに民家があるわ」
「取り敢えず助けを求めてみるか」
周囲の物音に気を配りながら歩いて行く二人。僕は、何も気になんて出来なかった。なんで、何で二人は平気なのか、理解できなかった。
「無人……みたいだ」
「え、じゃあ助けもクソもないじゃない!」
まるで、何事もなかった様に今の状況を打破しようとしてる。表情は流石に陰りが見えるけれど、今を生きている。すごいなぁ、僕には無理だ。
「まぁ、無人って事は逆に使い放題って事だぜ」
もう、どうだっていいよ。最後には皆死ぬんだし、遅いか早いかの違いだけだ。なら、別にこんな所で頑張らなくても、いいじゃん。結局、頑張って頑張り抜いて元の世界に帰れても最後は死ぬじゃないか。
「使えそうなのは、包丁くらいね……。山奥だから鉈くらいあるかと思ったけど」
「まぁ、何もないよりは断然良いじゃん?ほら、悠平も」
元希が包丁を渡してくる。これで僕にも戦えって?あの狼と?そんな事して意味なんてあるのかな。しばらく差し出された包丁を見つめていたが、引っ込める気は無さそうなので受け取っておく。
「二人は、よく平気だね」
「そう見えるか?」
思わず、嫌味の様な事を言ってしまった。しかし、元希は怒るでもなく、ただ辛そうに笑った。
「気にしてないワケないじゃない。でも、だからこそ絶対生き延びてやんのよ」
真央はいつもの様に強気な事を言ってはいるが、目じりには涙を貯え握った拳は小刻みに震えている。二人とも、無理しているのだ。だが、それが解ったからと言って、僕も無理ができるかと言われればそんなわけがない。それでできるなら始めからやっている。
「……ごめん、僕はまだ時間かかりそうだ」
そう口にすると、二人は気にするなと言いたげな顔をする。だが、そんな表情が余計に僕の胸を苦しめる。
その日は結局、そのまま民家の中で寝る事となった。




