錬金術師と魔法使い
私情で投稿が遅れました。
申し訳ありません。
「初戦は負けたけど、今回はこの僕が華麗に勝利させてもら」
「あっそ。じゃあがんばってね。」
佐倉の蝿退治の翌日。俺、山名はジャングルのような森を対戦相手の男とギルドマスターと一緒に歩いている。俺の依頼内容はダイオウカズラ、野口の解説によるとでっかいウツボカズラとのこと。そいつの討伐だ。ただのでかいウツボカズラなら動かないから楽なんだがダイオウカズラはツルを腕のように扱って獲物を捕食するらしい。俺が歩きながら対策方法を考えていると
「それで、次にこの僕の華麗な火炎魔法で襲い来る猛獣を」
男が自分の武勇伝を頼んでもいないのに勝手にしゃべりだしてかれこれ1時間、めちゃくちゃウザイ。
しかも、顔がイケメンだからよけいにウザイ。魔法使いなのかしらんが装飾が施された高そうな杖をわざと見せびらかすようにして喋っている。
「ギルドマスター、討伐対象こいつに変えてもいいですか?」
「フィオナと私の仕事が増えるから却下だ。」
「討伐そのものは大丈夫なんだ…。」
そんなことを話していると俺は何かの気配を察して立ち止まる。
「ん?ようやくこの僕の話を聞くつもりになったのかい?」
男の話を無視して俺は意識を気配を放っている方向に向ける。
「………見つけた!」
少しはなれた場所に広場のように開けてる場所があり、そこの中央の岩にダイオウの名にふさわしく玉座に腰掛ける王のように鎮座しているダイオウカズラがいた。しかもその場所だけ木々の間からスポットライトのように日光が照らされて、神秘的な美しさを持っていた。
もし人畜無害ならこのまま日が暮れるまで眺めていたいほどだ。
「現れたな化け物め!この僕が貴様を華麗なる魔法で炭にしてくれよう!!」
男がミュージカルの役者のような台詞を放ち、杖を相手に向けて唯一の女性であるギルドマスターに笑顔を送る。腹立たしいことこの上なく、舞台なら女性が黄色い悲鳴をあげるのだが彼女は
「さっさと戦え。」
と、気にも留めずに俺たちから離れる。
男は何を勘違いしたのか自慢の長髪をフサァと掻き分けてギルドマスターにウインクをしてダイオウカズラに向き直る。
「ならばお見せしよう!!僕の華麗なる魔法をおおおおおおおおおお!?」
「………。馬鹿かあいつ?」
男が決めポーズらしきものをした瞬間、それが御気に召さなかったのかツルを伸ばして男の足を掴むと逆さにつるし上げ、そのまま振り回した後近くの巨木に向かって投げつけた。
「ガハッッ!!」
木に盛大な音を立てて叩き付けられた男はそのまま動かなくなった。しかし、死んではいないようだ。
「さてと、やるとするか。」
三流役者が退場し、前座の幕は閉じた。
さあ、役者はそろった。寡黙な王と異世界冒険者の共演舞台の幕開けだ。
俺は能力を発動し一対の魔方陣が描かれた白い手袋を出して手に着ける。その手を相手に向けて
「燃え尽きろ!」
と叫び指を鳴らす。
パチンと軽い音が鳴ると手袋から火炎放射器のような巨大な炎が発射されてダイオウカズラが炎に包まれた。
呼び出したのは「炎」の二つ名を持つ錬金術師の大佐が愛用する錬成陣が描かれた手袋だ。
「馬鹿な!?詠唱もせずにあんな高威力魔法だと!?」
ギルドマスターが声を上げる。どうやらこの世界の魔法使いは詠唱、つまり呪文を唱えないと魔法が使えないらしい。
そのため、正規軍に所属する魔法使いは戦国時代の火縄銃のように撃ったらさっさと下がるか、高威力魔法でいっきに吹き飛ばすのが常識らしい。
「あんな芸当ができるようには数十年の修行が必要なはず。それをあの若さで……。」
ギルドマスターが感嘆の声を上げて燃え行くダイオウカズラに視線を移す。
ダイオウカズラは既に動かず、巨大な葉やツルを落としながら火の粉を巻き上げて燃えていく。
まるで落城する城や、沈み行く戦艦のような悲壮美を持ち俺は少し罪悪感に苛まれた。
「………許しは請わん、怨めよ。」
俺は心の中で手を合わせる。
「………。行きましょうか。」
「ああ、そうしようか。」
俺は真顔でギルドマスターに歩み寄り、帰路に着く。
彼女もゆっくりと頷き俺の隣を歩く。
いまだ燃え続け、灰になろうとしている雄大な王を背にして
「ふはははははははは!!!!見たか、僕の華麗なる魔法を!!!!」
本気で灰にしてやろうか、あの馬鹿。
ダイオウカズラ
体長7~8mほどの巨大なウツボカズラで主に日当たりのよい森林の奥に生息する。基本雑食だが、人間を好んで食べるため周辺地域では常に警戒されている。
素材として有用な部位はないが数年に一度に咲く花は美術品や上質な魔法武器の素材としての価値が高く、市場に出た場合は高額で取引される。