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【前世】第16章2話 橙 来襲 

その日


ラヴィは

鬼族へ料理を運んでいた


山菜

干し肉

香草のスープ

甘い根菜の煮込み


鍋の重みは

平和の重さだった


落としたくない


そう思った


鬼族の境界を越える


空気が変わる


土の匂いは同じ


だが

静けさの質が違う


張りつめている


それでいて

不思議と落ち着いていた


まるで

誰かがずっと

見張っているみたいな均衡だった


鬼族の訓練場――


そこで

ラヴィは足を止めた


ゴンッ!!


こん棒が空を割る


ガンッ!!


盾が受け止める


カイザーと

見慣れない男が向かい合っていた


男――いや

王族の空気がある


姿勢が良すぎる


視線が

戦場の外まで見ている


シュー


ラヴィは

その名を知っていた


噂は早い


特に

王族周辺の話は広がる


盾とこん棒がぶつかる


ゴゴ……


力と力が押し合い

空気が軋む


(……修行)


カイザーへ

願い出たのだろう


カイザーは断らない


必要だと思えば

与える


その在り方が

また胸をくすぐった


ラヴィは

鍋を抱えたまま

小さく息を吐く


――風が止まる


鳥の声が消えた


胸の奥が

チリ……と鳴る


その瞬間――


空が陰った


ラヴィの目が上を向く


ワイバーン


だが

普通じゃない


青黒いオーラが

滲みながら

空気を汚す


空気が冷える


太陽の色が

一瞬だけ鈍る


(……嫌な色)


戦闘派の勘が

チリ……と鳴った


次の瞬間――


ズドンッ!!


空が落ちた


圧と

重力と

衝撃


ラヴィは反射で

銃へ手を伸ばす


だが――


ガブッ!!


牙


熱い口腔


世界が反転する


(……ッ!?)


身体が浮く


地面が遠ざかる


鍋が落ちる


汁が散る


香草の匂いが

風へ裂けた


平和の匂いが

ズタリ……と壊れる


ラヴィは

ワイバーンの口の中で

歯の隙間から息を吸う


苦い


青黒くて

血みたいな味がした


下で――


カイザーが叫ぶ


「ラヴィを戻せッ」


地を走る咆哮


こん棒が飛ぶ


ブゥンッ!!


シューも動く


盾が空を裂く


ブゥンッ!!


だが――


届かない


ワイバーンは

さらに上へ昇る


青黒いオーラが

風を汚す


カイザーとシューが走る

地面を蹴る


呼吸が荒れる

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