【前世】第14章4話 紫 資格
――三日後
気がついたとき
世界は
すでに色を変えていた
紫の天井
薄い薬草の匂い
沈んだ朝の光
「目が覚めましたか」
聞き慣れた声
ジンだった
修行の地へ向かう途上
月の加護で歪みを察知し
立ち寄った剣士
その銀の瞳は
冷徹に揺るがない
ヴィヴィが
ゆっくり顔を向ける
「死にかけていました」
一拍
「無駄死には
秩序に反します」
ヴィヴィは
小さく息を吐く
窓際のユジャが
紫の気配をくゆらせる
何も言わず
ジンを
一瞬だけ見る
剣を軽く掲げると
淡い月光の魔法が
スゥ……と流れた
ヴィヴィの呼吸が
少しだけ整う
「……まだ止まれないな」
ヴィヴィが
乾いた笑みを浮かべる
ジンは
静かに首を振った
「優劣ではない」
ジンの視線が
鋭く射抜く
「進み方が
違うだけです」
それだけだった
「あなたも
立ち止まる男ではないはずだ」
双子の兄――
まだ消えていない
ヴィヴィは
小さく笑った
その笑いには
敗北感より
悔しさが残っている
「なら
俺は置いていかない」
一拍
「誰も」
視線を
ユジャへ向ける
「正式に頼む」
一拍
「王族の魔女として
共に戦ってほしい」
ユジャは
少しだけ目を細めた
「今さら確認するの?」
肩をすくめる
「あなたがどこまで成長するか」
一拍
「見極める価値はあるわ」
スッ
視線が
ヴィヴィの右手へ落ちる
「この三日間で
ガントレットを整えておいたわ」
ヴィヴィの眉が動く
「整えた?」
ユジャが
ゆっくり目を細める
「勘違いしないことね」
「使うんじゃない」
一拍
「――選ばれるの」
空気が沈む
ヴィヴィの喉が鳴る
「龍神に……?」
ユジャは
短く頷いた
「応えなければ
ただの器よ」
ゴゴゴ……
空気が
静かに重くなる
力ではない
選ばれる可能性だけが
残された
その裏で――
別の歪みが
静かに育っていた
未完成の龍神が
空を引っ掻いた
あの瞬間
層は
わずかに裂けた
閉じるはずの境界が
ほんの一瞬だけ
――閉じきらなかった
細い通り道が残る
目には見えない
だが
確かにある
深い層へ落ちる傷
――消えなかった
ピシィ……
どこか遠くで
まだ
膜が鳴り続けていた




