第10話:クロスオーバー「タコライス、コンクリート、そしてごぼう」
金曜日の12時15分。オフィス街の広場は、ランチを求める人々でごった返していた。
そこへ、健太のキッチンカー(タコライス屋)が滑り込む。
「いらっしゃいませ!」と叫ぶ健太の前には、すでに大行列。
その行列の最後尾に並んだのは、クライアントの無理難題で徹夜明け、フラフラのデザイナー・城ヶ崎だ。
「……赤……令和の赤……タコライスのトマトの赤……」とブツブツ呟いており、完全に不審者である。
その城ヶ崎の様子を、広場の警備を担当していた夜間(から日勤に回された)警備員・松坂が鋭い目で見守る。
「あの男、目が血走っている。不審者か、あるいはタヌキの化身か……警戒せよ」
広場のすぐ横では、建設会社営業・猪狩が、大理石の件で機嫌を損ねた施主の社長を連れて歩いていた。
「社長! あちらのキッチンカー、今大人気なんですよ。ちょっとランチに並びましょう!」
社長をご機嫌にするため、猪狩も行列に加わる。
その時、広場のステージで、地域の物産展イベントが始まった。
「さあ、みんな集まれー!」
現れたのは、市役所観光課・実充が中に入った「ごぼう君」だ。今日こそは名誉挽回と、ごぼう君は大人しく手を振っている。
そこへ、買い出しにきていたアパレル店員・レイナが通りかかった。
ごぼう君を見た瞬間、レイナの職業病が爆発する。
「待って、あのごぼう君のフォルム……あの茶色のストレート感。うちの売れ残りの『紫のスカジャン』を着せたら、絶対にアバンギャルドで流行る……!」
レイナはごぼう君に突撃し、「あの! これ着てみてください!」とスカジャンを無理やり着せようとし始めた。
「わっ、ちょっと、何するんですか!」と中で焦る実充(ごぼう君)。
もみ合う二人。その拍子に、ごぼう君の手が、たまたま横を通った専業主婦・恵子のベビーカーに当たりそうになる。
「ちょっと! うちの refused(安眠)を妨害しないで!!」
特殊部隊と化した恵子が、凄まじい眼力でごぼう君を睨みつける。
さらに、ごぼう君はよろめき、タコライスの列に並んでいた城ヶ崎に激突。
城ヶ崎は押し出され、キッチンカーのカウンターに突っ込んだ。
「うわっと!」と驚く健太。城ヶ崎の衝撃で、カウンターに置いてあった「ソースのボトル(赤)」が激しく飛び散った!
ピシャッ!!!
飛び散った激辛ソースは、たまたま近くにいたコールセンターの美濃部の白いブラウスと、プログラマーの佐藤が持っていたバグだらけのノートPCの画面に、見事な「赤」を描いて付着した。
美濃部は一瞬でプロの笑顔になり、般若のような目で健太を睨んだ。
「さようでございますか。お客様の大切なお洋服を損ねていただき、誠にありがとうございます(怒)」
佐藤はPC画面のソースを見て絶叫した。
「うわあああ! 画面が真っ赤だ! バグじゃなくて物理的に真っ赤だ! ☆テヘペロ☆が消えた!!」
一方、ソースの直撃を免れた城ヶ崎は、自分の服についたソースの色を見て、狂喜乱舞した。
「これだ……! これが令和でも昭和でもない、エモーショナルな『タコライスの赤』だァァァ!!」
猪狩は、この大混乱を見て唖然とする施主の社長を必死にフォローしていた。
「社、社長! これが我が社の誇る『ダイナミック・ライブ・エンターテインメント』です! 建築にもこのくらいの活気が……!」
社長はなぜか大爆笑している。「おもしろい! 君の会社にビル一棟任せるよ!」
警備員の松坂は、無線機を握りしめた。
「こちら松坂! 広場にて、デザイナーとアパレルと主婦とごぼうが入り乱れる未曾有の事態が発生! 繰り返す、ごぼうが暴れています!!」
混沌に包まれる金曜日の昼下がり。
職種は違えど、みんなそれぞれの場所で、一生懸命に(そしてちょっとズレながら)戦っている。
街の騒がしい日常は、今日もこうして回っていくのだった。




