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第1話:限界デザイナーと「ゲシュタルト崩壊」
グラフィックデザイナーの城ヶ崎(29)は、午前3時のオフィスでMacBookの画面を睨みつけていた。
クライアントからの修正指示は、悪魔の呪文だ。
『もう少し、パッと見で「あ、いいな」と思えて、かつ重厚感がありつつも透明感のある、令和っぽいけど昭和レトロな赤にしてください』
「……令和っぽいけど昭和レトロな赤って、何?」
城ヶ崎の目は完全に血走っている。画面には、微妙に色調の違う200種類の「赤」が並んでいた。
彼はついにカラーパレットの迷宮に迷い込み、色という概念そのものがゲシュタルト崩壊を起こし始めていた。
「おい、城ヶ崎。差し入れだ」
先輩が買ってきた缶コーヒーをデスクに置く。そのパッケージを見た瞬間、城ヶ崎は絶叫した。
「先輩! このコーヒーのロゴの赤! これは令和ですか!? 昭和ですか!? それとも大正ですか!?」
「ただの微糖だよ。早く寝ろ」
翌朝、提出した「もうヤケクソで自分の血の色に一番近い赤」で作ったデザインが、『これです! このエモーショナルな赤を探していました!』と大絶賛されたことを、城ヶ崎はまだ知らない。




