「雨上がりの、ひと粒の甘さ」
五郎:通り雨のあとの、甘い褒美
三十分ほどで、雨雲は嘘のように去った。
ブナの隙間から、強い光が一気に差し込んでくる。
膝の上で眠っていたたまをそっと下ろし、背負子を担ぎ直す。
「よし、帰るか」
濡れた葉が光をはじき、森全体が細かく輝いていた。
雨上がりの、湿った土の匂いが立ちのぼる。
往路をたどりながら、ふと足を止める。
行きに目を留めていたエゾイチゴの切り株だ。
白い花の脇に、いくつかだけ、早く色づいた実が見える。
雨の重みで、少しうなだれている。
しゃがみ込み、指先でそっと摘み取る。
口に含むと、鋭い酸味のあとに、濃い甘さが追ってきた。
「……いいな」
小さく息をつき、もう一粒を掌にのせる。
「たま、お前も頑張ったからな」
差し出すと、たまは鼻先を寄せて匂いを確かめる。
それから、ざらりとした舌で手のひらをなぞり、実を口に運んだ。
満足そうに噛む様子を見て、思わず笑みがこぼれる。
悪くない帰り道だ。
たま:通り雨のあとの、甘い褒美
五郎の膝の上でうとうとしているうちに、雨の音が消えていた。
目を開けると、光が森の中に広がっている。
雨宿りは終わりらしい。
地面に降りて、また五郎のあとをついていく。
葉っぱはどれも濡れていて、光を受けてきらきらしている。
さっきとは、同じ山なのに少し違う。
歩いていると、五郎が立ち止まった。
白い花が咲いていた切り株のところだ。
その横に、小さくて赤い実がいくつかついている。
五郎がそれを口に入れると、やわらかく笑った。
いいものらしい。
「たま、お前も頑張ったからな」
差し出された実に、たまは鼻を近づける。
雨上がりの匂いに混じって、甘い気配がする。
ぺろりと口に入れると、酸っぱさのあとに、じんわり甘さが広がった。
たまは目を細める。
さっきまでの雨も、悪くなかった気がした。




