『山の雨と、ふたりの静けさ』
五郎:恵みの雨と、静かな雨宿り
アミガサタケを採って間もなく、山の空気がふっと変わった。
湿り気を帯び、音が吸い込まれるように静かになる。
見上げると、ブナの梢の向こうに重たい雲が広がっていた。
「たま、来るぞ」
言い終える前に、大粒の雨が葉を叩き始める。
私たちは足を速め、近くの岩の張り出しの下へと滑り込んだ。
岩は屋根のようにせり出し、ちょうど雨を遮ってくれる。
背負子を下ろし、岩肌に背を預けて息をつく。
ほどなくして、森は雨の音に満ちた。
土と葉の匂いが、いっそう濃く立ちのぼる。
「にゃお」
たまが、軽く跳ねて膝に乗ってきた。
「珍しいな」
濡れるのが嫌なのだろう。
いつもより距離が近い。
膝の上で小さく丸まり、外の様子をじっと見ている。
かすかな喉の振動が、布越しに伝わってくる。
山刀を手元に置き、ただ雨音に耳を預ける。
こういう時間も、悪くない。
たま:恵みの雨と、静かな雨宿り
お山の空気が、急に変わった。
ひんやりして、しっとりして、知らない匂いが混ざる。
そのあとすぐ、空から大きな雨粒が落ちてきた。
たまは濡れるのが苦手だ。
耳を伏せて、五郎のあとを追いかける。
五郎が見つけたのは、大きな岩の下。
雨が当たらない、安心できる場所。
五郎が座ると、たまは迷わず膝の上に飛び乗った。
外は、雨の音でいっぱいになる。
葉に当たる音。土にしみこむ音。
いろんな音が重なって、森がざわざわしている。
でも、ここは静かだ。
五郎の膝の上はあたたかくて、落ち着く匂いがする。
たまは目を細めて、小さく喉を鳴らす。
雨がやむまで――
もう少しだけ、この場所にいようと思った。




