第29話 勇者選定会、三日目
ついに勇者選定会も最終日、激戦に激戦を重ねた戦いも今日でお終いとなります。
ミリアお姉ちゃん、地味だったな~。
“自由の翼”は基本レインを主体にしたパーティー編成を行っているので、攻撃の主体は当然レイン。そんで敵の攻撃を一身に受け味方を守るのは“鉄壁のエメラリア”こと盾役のエメラリアさん。
<挑発>のスキルとか言うのを使って敵の攻撃を自身に誘導するんだとか。それがかなり強力で、相手は強制的にエメラリアさんを攻撃してしまうとの事。
その隙に“瞬剣のリリー”こと剣士のリリーさんがレインと一緒に挟み撃ちにする、“自由の翼”の戦いは要約するとそんな感じでした。
ではミリアお姉ちゃんは何をやっていたのか?牽制と補助ですね。
全体の様子を見て敵にデバフ魔法を飛ばしたり絶妙な位置取りからの攻撃で敵の注意を引いたり。スタミナ管理や全体のヘイトコントロールも全部ミリアお姉ちゃんがやってたんじゃないかな。
ミリアお姉ちゃんの売りは強力無比な範囲魔法だからこの大会ではやることがないと思われてたけど、裏方としても一級品。
あの様子からするとむしろ普段はこういう立ち回りをしてたんじゃないんでしょうか。
でもな~、一般人はそんなの分からないからな~。観客の声はレインやリリーさん、それにエメラリアさんの活躍に集中。ミリアお姉ちゃんに対しては大会のルール上仕方がないよねと言ったどっか冷めたもの。
ミリアお姉ちゃんの立ち回りってめっちゃ玄人好みなんですよね~。エリーゼさんなんか「あの中で一番技量が高いのはミリア様ですね、流石は魔法の申し子、全体を見通す力も繊細な魔法の行使も群を抜いています」とか言って超べた褒め。
俺にはよく分からないんだけど何かすごい事なんだそうです。
そんで本日は昨日の大会結果を受け勝ち残った八組による準々決勝、その勝ち残りによる準決勝、そして最後の二組による決勝戦。
三日目のチケットがプラチナチケットと呼ばれる訳です。こんなの三日目だけを見ればいいんじゃねってくらい濃い内容となっております。
「ノッペリーノ、会場に来て直ぐ大量に屋台で買い込んでいたけどどうしたの?あなたそんなにお腹空いてたの?」
エリーゼさんはガレンドールコロシアムに到着するや次々に屋台飯を大人買いする俺の行動に訝しみの視線を送りますが、こちらにも事情というものがありましてね。
「いや、昨日は公爵様の一件で色々あったじゃないですか。結局事件は未遂と言う形で終わりましたけど、精霊様が食べ放題が出来なかったとかなりご機嫌斜めになられて。
その後屋台巡りをしたお陰で機嫌は治られましたけど、じっくり試合を見られなかったと言いますか。
今日は選ばれた精鋭による最終戦、泣いても笑ってもこれが最後とあっては各選手の本気度が違うかと。大本命の“金色の斧”のジークが来るのかそれとも“自由の翼”のレインが新たな力として台頭するのか、はたまた他のパーティーが前評判を覆すのか。
そんな大事な試合の時に精霊様から“お腹が空いた、ノッペリーノ、屋台に行くのだ!!”と言われたら俺泣いちゃいますから」
俺の言葉に「そうね~、それって十分あり得るわよね~」と乾いた笑いを浮かべるエリーゼさん。
エリーゼさんの所の妖精様は大変少食でいらっしゃるのに、ウチの精霊様と言いポーネリア様と言い、精霊様方の食事は何処に消えていくのやら。
そう言う訳で屋台飯はスキル<ポケット>という名の魔改造済み空間収納に仕舞い、お飲み物は腰のマジックポーチと見せ掛けたマジックバッグ冷蔵庫に保存。
準備万端で観覧席へと向かうのでした。
「お待ち申し上げておりました、ノッペリーノ様、エリーゼ様」
俺たちがチケットに書かれた観覧席へ向かうと、そこには何故か見知った人物が。確かこの方は公爵家の執事様、お名前はセバスとか言ったかな?
「旦那様より申し付かりまして、昨日の件でお二人をお屋敷迄ご案内するようにと。馬車の用意がございますのでご同行をお願いいたします」
そう言い慇懃に礼をする執事様。俺の隣ではエリーゼさんがこの世の終わりといった表情をなさっておられます。
そりゃそうですよね、こんな一大イベントを前にして会場まで来てお預けって、拷問以外の何ものでもないですもんね。
「え~っと、確かセバスさんでしたか。確認しますが、それって本当に公爵閣下からの申し付けって事でしょうか?
もしかしたら全く関係ない方からの又聞きでお迎えに来られたってことはありませんか?」
「大変申し訳ありませんが旦那様より直接申し付かっております」
そう言い再び頭を下げるセバスさん。その顔は本当に申し訳なさそうで、決して嘘をついている様には見えません。
この国は王侯貴族社会であり貴族の権限は絶大。絶対ではないにしても平民が貴族の願いを無下にすることは良しとされていません。しかも相手は公爵家、へたをすれば物理的に首が飛ぶような御方です。
「はぁ~、畏まりました。でも向かうのは俺だけってことにしてくれませんか?エリーゼさんは体調が思わしくなかったって事で」
「いえ、しかしそれでは・・・」
俺は言い渋るセバスさんに尚も言葉を続けます。
「今公爵家で何かが起きている事は分かりました、それと俺たちがどう関係するのかは分かりませんが、セバスさんを含め公爵家の方々が何らかの事態に巻き込まれていることは確実でしょう。
そんな所にのこのこ出掛けて行けば不幸な事故に遭うか不幸な事故を起こした張本人として罪を擦り付けられるかのどちらかかと。
その点俺でしたら誰にも気付かれる事なく抜け出す事も可能ですしね?
セバスさんも操られているとはいえ職務を放棄する訳にも行かないでしょうし」
俺の物言いに一体何の話をしてるんだと顔を覗き込んで来るエリーゼさんとセバスさん。
「ノッペリーノ、それって一体どういう事なの?セバスさんが操られているって」
口を開いたのは直ぐ隣に立つエリーゼさん。でもそうなるとこの術式は魔法の専門家でもあるエリーゼさんをして見抜けなかったって事?結構凄いな、おい。
まぁそういった類のものが効かない俺からしたら、間抜け過ぎて笑いを堪えるので必死だったんですが。
俺は<ポケット>を開いて中からスマホを取り出すと、セバスさんにカメラを向けてパシャリ。次いでエリーゼさんに向けてパシャリ。
席のテーブルにスマホを置き画面を見せながら話を続けるのでした。
「えっと、これはスマホと言ってその場の景色などを写し取る魔道具のようなものです。“スッ”このようにエリーゼさんの姿を写し取ることが出来ていますよね?
それでこれが今のセバスさんの様子です。“スッ”」
俺は画面をスワイプし、セバスさんを写した画像を二人に見える様にします。そこにはまるで前世で見た大陸の導師と呼ばれる術者たちが操るキョンシーの様に、額に御札を張られたセバスさんの姿が。
もうねシュールったらないの、執事姿のセバスさん、額に御札を張った状態で慇懃な態度って、腹筋を殺しに来てるとしか思えない。是非前倣えの姿勢で両足ジャンプをしていただきたい。御札を剝がしたら“キシャー”とか言いながら襲い掛かって来るんだろうか?
「はぁ!?何これ。でもどこかで見たことがあるような・・・あぁ、確か符術だわ、大陸中央の山岳民族に伝わる呪術の一種だったんじゃないかしら?
流石に私も詳しくは知らないんだけど、そうしたものがあるって先代店主から聞いた事があるわ。あの人趣味で世界中を放浪している様な人だから、興味が湧いた事は自分から首を突っ込んで調べたりしてたのよね」
お~、やっぱりそうだったんだ、懐かしい。符術の事は前世の世界で暮らしていた大和国って国でも術師たちが使ってたから知ってるんだよね。前世の俺はそうした術が全く効かないどころか術式自体を破壊しちゃう体質だったから結構恐れられたり嫌われたりしたんだけどね。
今世がどうかは知らんけど、それは今はいいでしょう。
「えっ、あっ、私は、私は「はいストップ~。大きく息を吸って~、吐いて~、吸って~、吐いて~。はい、落ち着いて下さいね」・・・」
俺の言葉に動揺しつつも一応の落ち着きを見せたセバスさん。それでも御札を剥がさない辺り、そうした事が出来ないような意識の刷り込みでもされているんでしょう。
「これでセバスさんにも状況が理解していただけたと思いますが、何かしろという訳ではありません。と言うか出来る事はありません。
恐らくですが公爵邸は既に術者の手に落ちているものかと。その目的は分かりませんが今すぐ公爵様をどうこうするつもりはないものかと思われます。
だって態々部外者である俺たちをセバスさんを使って呼び出すくらいですから、何らかの必要性が生じたって事なんでしょうしね。
正直言って俺が関わり合いになる必要性は全くないんですが、お嬢様にはオクトパスボールを腹一杯ご馳走になった恩もありますんで、お付き合いいたしましょう。
という訳でエリーゼさん、俺はちょっと出かけて来ますんで大会の方をお楽しみください」
「ダ~、そんな話を聞かされて放置なんて出来る訳ないでしょうが!!
行きますよ、行けばいいんでしょうが、行けば!!」
エリーゼさん、血の涙を流さんばかりの表情をなさって。そんなに辛いんなら別に無理する必要もな“キッ!!”・・・睨まなくってもいいのにね。
「それじゃセバスさん、行きましょうか。それと額の御札は剥がさないでくださいね?そうした術は大概破られた時に術者にそれが伝わる様になってますから。大勢の者を操る場合はそれほど複雑な命令を下せないってのも特徴かな?
ですんでセバスさんが俺たちに向かって行き成り襲い掛かって来るって事もないと思いますよ?」
セバスさんは何処か複雑な表情になりながらも、俺たちを目的地(セバスさんの中では公爵邸と思わされている)へ案内する為に、一緒にガレンドールコロシアムを後にするのでした。




