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スイッチ 〜前人未到の夢の道導〜  作者: つば


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13/13

スカウト!

試合終了後。


夕焼けが球場を赤く染めていた。


決勝進出を決めた鷹浜中は、まだ興奮の熱が冷めていない。


八川「決勝だぞ決勝!!」


沢田「騒ぎすぎだって!」


田中「でもマジで勝ったんだな……」


ベンチの奥。


嶋口は静かにスパイクの紐を結び直していた。


中尾はその横でスポーツドリンクを一気に飲み干す。


中尾「……疲れた」


嶋口「お前ずっと喋ってたからな」


中尾「キャッチャーは頭も使うんだよ」


その時だった。


伊能「勝、銀」


二人が顔を上げる。


伊能の後ろ。


見慣れない男が二人立っていた。


紺色のシャツ。


胸には小さく、“安条”の文字。


空気が少し変わる。


中尾「……安条高校?」


男の一人が静かに頭を下げた。


安条スカウト「試合、見させてもらいました」


嶋口と中尾が顔を見合わせる。


安条。


全国常連。


伊能監督の母校でもある名門。


その名前だけで、周囲の空気が張り詰める。


安条スカウト「まずは率直に言います」


スカウトの視線が嶋口へ向く。


安条スカウト「嶋口くん」


安条スカウト「君の右は、中学生じゃない」


少し間。


安条スカウト「そして左は異質だ」


嶋口「……」


スカウト「完成していないからこそ、伸び幅が見えない」


次に、中尾を見る。


安条スカウト「中尾くん」


安条スカウト「君は面白い捕手だ」


中尾「面白い?」


スカウト「普通、あの投手は成立しません」


スカウト「だが君は、右と左を完全に別物として扱えている」


中尾は少しだけ笑った。


中尾「まあ、相棒なんで」


スカウトが小さく笑う。


安条スカウト「なるほど」


周囲の部員たちがざわつく。


八川「うわ、マジのスカウトじゃん……」


沢田「すげぇ……」


安条スカウトは真剣な表情に戻る。


安条スカウト「まだ正式な話ではありません」


安条スカウト「ですが」


視線が二人に向く。


安条スカウト「安条高校は、君たちを高く評価しています」


空気が止まる。


中尾「……っ」


嶋口は静かに拳を握った。


全国。


甲子園。


夢みたいだった場所が、少しだけ現実に近づく。


だが。


嶋口の頭に浮かんだのは


あの日。


143km/hを打たれた瞬間。


嶋口(まだ足りない)


スカウトは続ける。


安条スカウト「決勝も見に来ます」


安条スカウト「楽しみにしていますよ」


二人は去っていく。


静寂。


そして


八川「うおおおお!!」


ベンチが爆発した。


田中「安条だぞ!?」


沢田「ヤバすぎるって!」


中尾が嶋口の肩を叩く。


中尾「聞いたか、勝」


嶋口「ああ」


中尾「甲子園、近づいてきたな」


嶋口は空を見上げる。


夕焼けの向こう。


まだ見えない場所。


でも。


確かに繋がっていた。


嶋口「……行くぞ」


右でも。


左でも。


全部で。

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