スカウト!
試合終了後。
夕焼けが球場を赤く染めていた。
決勝進出を決めた鷹浜中は、まだ興奮の熱が冷めていない。
八川「決勝だぞ決勝!!」
沢田「騒ぎすぎだって!」
田中「でもマジで勝ったんだな……」
ベンチの奥。
嶋口は静かにスパイクの紐を結び直していた。
中尾はその横でスポーツドリンクを一気に飲み干す。
中尾「……疲れた」
嶋口「お前ずっと喋ってたからな」
中尾「キャッチャーは頭も使うんだよ」
その時だった。
伊能「勝、銀」
二人が顔を上げる。
伊能の後ろ。
見慣れない男が二人立っていた。
紺色のシャツ。
胸には小さく、“安条”の文字。
空気が少し変わる。
中尾「……安条高校?」
男の一人が静かに頭を下げた。
安条スカウト「試合、見させてもらいました」
嶋口と中尾が顔を見合わせる。
安条。
全国常連。
伊能監督の母校でもある名門。
その名前だけで、周囲の空気が張り詰める。
安条スカウト「まずは率直に言います」
スカウトの視線が嶋口へ向く。
安条スカウト「嶋口くん」
安条スカウト「君の右は、中学生じゃない」
少し間。
安条スカウト「そして左は異質だ」
嶋口「……」
スカウト「完成していないからこそ、伸び幅が見えない」
次に、中尾を見る。
安条スカウト「中尾くん」
安条スカウト「君は面白い捕手だ」
中尾「面白い?」
スカウト「普通、あの投手は成立しません」
スカウト「だが君は、右と左を完全に別物として扱えている」
中尾は少しだけ笑った。
中尾「まあ、相棒なんで」
スカウトが小さく笑う。
安条スカウト「なるほど」
周囲の部員たちがざわつく。
八川「うわ、マジのスカウトじゃん……」
沢田「すげぇ……」
安条スカウトは真剣な表情に戻る。
安条スカウト「まだ正式な話ではありません」
安条スカウト「ですが」
視線が二人に向く。
安条スカウト「安条高校は、君たちを高く評価しています」
空気が止まる。
中尾「……っ」
嶋口は静かに拳を握った。
全国。
甲子園。
夢みたいだった場所が、少しだけ現実に近づく。
だが。
嶋口の頭に浮かんだのは
あの日。
143km/hを打たれた瞬間。
嶋口(まだ足りない)
スカウトは続ける。
安条スカウト「決勝も見に来ます」
安条スカウト「楽しみにしていますよ」
二人は去っていく。
静寂。
そして
八川「うおおおお!!」
ベンチが爆発した。
田中「安条だぞ!?」
沢田「ヤバすぎるって!」
中尾が嶋口の肩を叩く。
中尾「聞いたか、勝」
嶋口「ああ」
中尾「甲子園、近づいてきたな」
嶋口は空を見上げる。
夕焼けの向こう。
まだ見えない場所。
でも。
確かに繋がっていた。
嶋口「……行くぞ」
右でも。
左でも。
全部で。




