最終話 恋人である隣のOLに
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紆余曲折あって、俺と詩乃さんは晴れて恋人同士になった。
まさか、本当にこんなことが起こるなんて。……そんな気持ちが頭の中を駆け巡り、夢ではないのかという気持ちさえ生まれてくる。
けれど……
「夢じゃない、よな」
一度は告白して、フラレて……せめて気持ちだけでも確かめようと思ったら、逆に詩乃さんから告白されて。
たった一日で、濃すぎる……俺の人生、ぎゅぎゅっと凝縮されてしまったんじゃないかってレベルだ。
詩乃さんが出ていった後の部屋を、見る。いつも通りの光景……でも、かけがえのないものだと気づけた。
「さて、俺も準備するか」
――――――
学校では、これまたいつも通りの光景。教室に入れば先に登校していた空光が駆け寄ってきて、後から登校してきた築野さんと挨拶を交わす。
彼女には、俺の知らないところでもお世話になったみたいだ。詩乃さんと話し合い、気持ちを確かめさせてくれたらしい。
お礼を言うべきか……でも、文化祭での告白があったばかりで、いきなりそんな話題?
そもそも、なんて話そう……そう考えていると、築野さんの方から近寄ってきて……
「おはよう、白鳥」
「お……おはよう」
それから、なぜか俺の顔を覗き込むように見つめてきて……
「……ん、うまくいったんだね」
そう言って、軽く笑ったのだ。
「……うん、おかげさまで」
「私はなにもしてないよ。……あぁ、いや……してないってことはないかな。
宣戦布告、みたいな? いや、ちょっと違うかな」
「宣戦布告……なにを?」
「内緒」
顔見ただけで、わかられてしまった。やっぱり俺ってわかりやすいのだろうか。
最後に見た彼女の顔は、笑っていて……でも泣きそうな顔だった。今は、笑っている。
……俺からこれ以上なにかを言うのは、野暮かな。
「ま、一応言っておくよ。……おめでとう」
「……ありがとう」
こうして祝ってくれる、とてもありがたいことだ。
築野さんには、本当にいろいろお世話になった。彼女がいなければ、今の俺たちの関係はないだろう。
今度改めて、お礼をしないとな。
――――――
『わざわざ律儀ねぇ、あんたも』
「……まあ、姉ちゃんにもいろいろしてもらったしな」
学校終わり。スーパーに寄ってから帰った俺は、姉ちゃんに電話をしていた。
詩乃さんと付き合ったことを、報告するためだ。
本来なら、わざわざ伝える義務などないが……あの電話のおかげで俺ももう一度勇気を持てたわけだし、詩乃さんも姉ちゃんに後押ししてもらったらしい。
お世話になったのだから、教えるのは当然だろう。
『けど、そっかぁ。これでいずれ、詩乃が親戚になるわけだ』
「! 身内って……気が早いっての」
『でも、その気がなくはないんでしょ?』
「……まあ」
ったく、姉ちゃんはいつも直球なんだから。
だからこそ、救われるところもあるんだけどな。
報告し、少しの激励をもらって……電話を切る。
さて、やることはある。とりあえず宿題終わらせて、料理を作らないとな。
「……なんか、そわそわしてるな」
詩乃さんがご飯を食べに来るのは、いつものことなのに……どこか落ち着かない自分がいる。
やっぱり、お互いの関係性が変わったから意識しているんだろうか。
なんせ……これからは、隣人ではなく恋人が部屋にやって来るのだ。
「……っし」
……それから俺は、時間を気にしながらも爆速で宿題を終わらせ、風呂に入り、料理に取り掛かる。
もはや慣れたもの。それに、詩乃さんを出迎えるためとなれば諸々の作業が捗る。
それから料理に集中。今日はお肉と野菜を炒めたものに、卵焼きだ。それからインスタントの味噌汁。
詩乃さんは俺の作った味噌汁を毎日飲みたいと言ってくれたが、さすがに毎日は厳しい。
「……これでよし、と」
一通り出来上がったところで、図ったようにインターホンのチャイムが鳴る。
俺は足取り軽く、玄関に向かい……扉を開けた。
「! いらっしゃい、詩乃さん」
「こんばんは、甲斐くん」
扉の向こうには、すでに寝間着に着替えた詩乃さんの姿があった。仕事を終え、部屋で準備を済ませ、リラックスモードだ。
にこにこと笑みを浮かべ、手を振っている。それだけで、俺の心は温かくなる。
早速部屋に招き入れる……直前に、詩乃さんが「ぁ」と声を漏らした。
「どうしました?」
「ええとね……ただいま」
「! ……おかえりなさい」
ただそれだけのやり取りに、胸が高鳴る。
恥ずかしげに笑う詩乃さんは、部屋に入り……扉を閉めた。
お風呂上がりだからだろうか、シャンプーのいいにおいが鼻をくすぐる。
「うーん、いいにおい。お腹空いてきたー」
俺もいいにおいです……とはさすがに言えない。キモいよなそれは。
「ちょうどできたところです。準備、手伝ってくれますか?」
「もちろん!」
俺たちは、食器や飲み物を食卓に並べていく。
作り立ての料理も並べ……いつものように、対面して座る。
そして、手を合わせて……
「「いただきます」」
声を揃えて、食事に手を伸ばした。
俺は箸を手にご飯を、詩乃さんは缶ビールを手に……
「ぷはぁ!」
仕事終わりの一杯を、キメ込んでいた。
……初めは、近いようで遠かった憧れの人、詩乃さん。
まさか彼女と隣同士の部屋になったことがきっかけで、こんなにも生活が一変するなんて……思いもしなかった。
一緒にご飯を食べ、笑いながら話をして、お昼には弁当まで作って……今は、恋人の関係だ。
勇気が出なかった、手を伸ばせなかった……でも、一歩を踏み出した結果、こうして気持ちを通わせることができた。
ずっと片想いしていた相手と、付き合うことができた。きっと、この先楽しいことだらけではないだろうけど……彼女と一緒なら、乗り越えられるだろう。
だから、まずは……
「んんーっ、おいしぃー! やっぱり甲斐くんの料理は最高だなー!」
……この、俺の恋人である隣のOLに……明日も、とびきりご飯を作ろう。
あとがきへ続きます。
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