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隣のOLが、俺の部屋で宅飲みしている  作者: 白い彗星
第一章 憧れの初恋女性と、始まる甘い日常

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2/17

第2話 私も知らない人より、甲斐くんの方が安心できるしね



 ―――一年前の春



「おめでとーマイブラザー!」


「ありがとう姉ちゃん……でもなんだその異様なテンションは」


 俺は、約一ヶ月前まで中学三年生だった。この度見事高校に合格し、今日はその入学式。


 式を終え、姉である白鳥 楓(しらとり かえで)に連れられファミレスに来ていた。

 理由は『入学祝い』。大げさなとは思うが、嬉しい。


 ちなみに、『合格祝い』では姉ちゃんお手製の料理をごちそうになった。


「せっかくのめでたい日なんだから、テンションも上がるでしょーよ!」


「ちょっと声抑えて! 恥ずかしいんだよ!」


 平日とは言え、昼時だからそれなりにお客さんもいるんだよ! さっきから見られてるんだよ!


「ったく、おませさんなんだから」


 姉ちゃんは唇を尖らせ、タッチパネルを移動させる。

 俺が悪いのかこれ?


「ま、いいわ。とりあえずここはアタシの奢りだから。好きなもの選びな」


「うぅ、太っ腹だぁ……」


「誰の腹が太いって?」


「!?」


 差し出されたタッチパネルを眺め、俺はオムライス定食をドリンクバーとデザート付きで注文する。

 姉ちゃんは、ラーメンと半チャーハンセット、加えてヘルシーサラダだ。


 そろって注文するものが決まり……そのタイミングで、姉ちゃんは携帯を取り出した。


「お、詩乃がそろそろ着くってさ」


 その画面を見せてくれる。詩乃さんとのやり取りが書かれている。


 花野咲 詩乃(はなのさき しの)さん。姉ちゃんの親友である彼女は、がさつな姉とは正反対。

 おしとやかで、優しくて、礼儀正しくて。なによりきれいだ。



『甲斐くん、こんにちは』



 初めて詩乃さんを見た瞬間、その笑顔を見た瞬間……彼女は俺にとって、憧れの女性になった。


 大人っぽく、かと思えば同年代のような親しみやすさがある。そんな彼女に、惹かれていた。

 それが『恋』に変わったのはいつだったか、それとも出会ったときには既に?


「おやぁ? あからさまに顔緩んでんじゃないのー?」


「べ、別にそんなことないしっ」


 俺は自分の表情を引き締める。本当は合格祝いの日にも呼んでいたようだが、仕事が忙しく詩乃さんはいなかった。悔しがっていた、と姉ちゃんは言う。


 そんな中、店の扉が開いた合図を報せる音が、店内に鳴り響く。

 俺はなんとなく、視線を店の入口へと向けて……


「あ……」


「ん? 来たね。こっちこっちー」


 俺の動きに気づいた姉ちゃんもまた、そこに見知った人物がいることに気づいた。

 自分の居場所を知らせるため、姉ちゃんは手をブンブンと振る。相変わらず騒がしい。


 姉ちゃんに気づいた彼女は、くすっと笑い足を進め……


「お待たせ、楓ちゃん、甲斐くん」


 俺たちの前に立った詩乃さんは、やんわりと微笑んだ。

 相変わらず癒されるなぁ。


 仕事終わりに駆けつけてくれたのか、スーツを着用している。


「さ、とりあえず座りなって。ほら甲斐、詰めた詰めた」


「あぁ……え?」


 言われるがまま、俺は奥へと移動する。

 この席は、四人掛けのソファーだ。俺と姉ちゃんは対面に座っていて、もう一人が座るなら片方の隣に座るしかない。


 俺が席を詰めるということは、つまり……


「ありがとー甲斐くん。失礼しまーす」


「!」


 俺の隣に、詩乃さんが座るということだ。

 その考えに気付いた時には、すでに彼女は腰を下ろしていた。


 その事実に、俺の心臓は高鳴っていた。

 タッチパネルを覗き込む詩乃さんの横顔が……近い!


「うーん、どっちにしよう……悩む」


「甲斐はオムライス定食にしたわよ」


「そうなの? なら私は、ハンバーグ定食にしようかな

 甲斐くん、後で一口ちょうだい。私も一口あげるから」


 悩んだ結果、注文するものを決める。その際、シェアの提案が飛んでくるとは思わなかった。断る理由はないけど……

 なんか、ドキッとする。


 ……それからしばらく談笑し、その頃には料理が運ばれてきた。


「わ、おいしそー。いただきまーす」


 運ばれてきた料理を確認し、それぞれ手を合わせる。「いただきます」と続け、一口目を食べた。

 うん、おいしい。外食も久しぶりだなぁ。


 ……さて、隣から視線を感じる。


「えっと……ど、どうぞ」


「わーい、じゃあいただくね?」


 先ほどのシェアの約束を果たさなければ。もちろん視線に強制の意味はないが。

 オムライスをねだる目を向けてきていた。これが計算でなくて天然なのだから、恐ろしい。


 皿を詩乃さんの方へ寄せ、彼女はオムライスを新しいスプーンで掬い、食べた。

 そこまではよかったのだが……


「はい、あーん」


「!?」


 そのスプーンのまま、自分のハンバーグを乗せた詩乃さんは、俺の口元へと差し出してきた。

 これは……噂でしか聞いたことがない『あーん』というやつだ!? 口付けたスプーンそのままで!


 これ、間接キス……!?


「どうかした?」


「い、いえ……」


 当の詩乃さんは、気にしていないのだろうか。それとも、気にしている俺が変なのか?

 わざわざ指摘して、スプーンを変えるのも……それはそれで嫌味っぽいし。


 ええい、男は度胸! 間接キスがなんだ!


「い、いただきます……!」


 覚悟を決めて、スプーンを口に含む。ハンバーグを口の中へ迎え、口を離す。

 もぐもぐと咀嚼。肉が柔らかいことはわかるが……


「どう?」


「お、おいしいです……」


 飲み込んでも、正直味はよくわからなかった。


「……ごっくん。

 お二人さん、ちょっと話があるんだよね」


「! な、なにかな」


 あ、姉ちゃんが居たんだ。今のやり取りを見られていたの、恥ずかしすぎる!

 ただ本人は、特に気にした様子もなく水を飲んでいた。


「甲斐さ、この機会に……一人暮らししてみない?」


「一人……」


「暮らし?」


 俺と詩乃さんは、同じように疑問に思った。


「詩乃も知ってるでしょ。私たちは今、二人で暮らしてるの」


「えぇ」


 現在、両親は海外に出張に行っている。

 元々父さんは単身での出張が多かったが、数年前から海外出張に行っている。その際、母さんも着いていった。


 当時小学生の俺を連れて行くか迷ったが、大学生の姉ちゃんが自分が世話をする……と言ってくれたため、俺は残ることに。

 現在は、アパートの一室で二人暮らしをしている。


「でも、なんで突然……」


「興味あるんでしょ。お姉ちゃんは知ってるんだからね」


 にやりと笑う言葉が図星で、的確に俺の心を見抜いていた。

 実際、一人暮らしに憧れはあるのだ。


「詩乃にもこの話をしたのは……詩乃の部屋の隣が空いてるって話、思い出して。そこに住まわせるのはどうかなって思ったの」


「隣の部屋?」


「そ。アタシとしても、弟の気持ちは汲んであげたいけど、不安はあるの。

 だから、近くに詩乃が居てくれれば安心かなって」


 詩乃さんの部屋の隣に……? 隣に、初恋の人が住んでいる生活!?

 なにそれ、夢のような生活じゃん!


「甲斐くんが嫌じゃなければ、私は全然構わないよ。

 私も知らない人より、甲斐くんの方が安心できるしね」


 ……裏のないその言葉。こんなことで嬉しくなってしまう自分が、我ながらチョロいなと思う。


「ぜひ、住みたいです!」


 もちろん、まだ隣に住む人が決まってなければ……の話ではあるが。


「あ、彼氏から連絡来てる。そんじゃ、アタシ行くねー」


 話が一区切りしたところで、姉ちゃんは立ち上がり、お金を置いて店を出ていった。

 我が姉ながら嵐のようだ……って……


「か、彼氏!?」


「あれ、甲斐くんは知らなかった?」


「はい……」


 姉ちゃんに彼氏……か、ら詩乃さんは知ってたのね。


 ……まさか彼氏を部屋に呼びたいから、俺に一人暮らしを勧めてきたんじゃないだろうな? 体よく俺を追い出したんじゃないだろうな?


「とにかく、引っ越しの件は大家さんに確認してみるとして……食べよっか」


「はい」


 まだ話を進めただけだ。だが、うまく進めばこの春から俺は、詩乃さんの隣の部屋で生活を始めることができる!

 それを想像しただけで、ワクワクが止まらない!


 食事を再開しながら、これからの生活に胸を躍らせていた。


「……ぁ」


 ……ちなみに、俺のご飯代を奢るはずだった姉ちゃんは自分の分だけ置いていった。それに気づいたのは、食べ終わった後。

 奢りだと聞いていた俺は財布なんて持ってきておらず、結果として俺の分は詩乃さん持ちとなった。


 後に聞いた話だが、わざとではなく素で忘れてしまったらしい。めちゃくちゃ謝罪された。


「すみません、ウチのバカ姉が……」


「い、いいよー、気にしないで」


 なんともいたたまれない入学祝いとなった。



 ……そしてこの三ヶ月後。俺にとって人生が変わるほどの出来事が起こるとは、この時は思ってもいなかった。

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