五十六話 創造神、妬みや嫉みに場所はあまり関係ないと知る
シオンは森を走り続けている。
拠点に戻る道の所々でうろついている魔物をシオンは、倒しながら進む。
「そろそろかな」
――キィィィン!
木々の陰から人影が姿を現し、俺の首を狙って短剣を振るう。
しかし、人影のナイフを目にして、シオンは相手を真正面に捉えるため身体を捻って身体から生やした剣で弾く。
同時に足から出した複数の剣で身体に傷を付けていく。
人影は俺の動きに対応できるようにバックステップを踏んで後ろに飛ぶ。
「何かな? 俺に用事か?」
完全に奇襲に成功したと思い、短剣で狙った人影は、シオンに躱されて態勢が崩し、顔を隠していたフードが外れてその容姿が露わになった。
少女の頭に狐の耳が生えているのを確認する。
「ふむ。獣人種か」
すると、残りの出てきた人影も首に隷属の首輪を付けた獣人の子たちだった。ちょうど俺が大会前に指導をした獣人の子と同じ位の子だ。
色々と混沌としているな、この国は。クラスにいた獣人の子は予想では獣王国からの留学なのだろう。しかし、今目の前にいる獣人は鎖に縛られている。
獣人の少女たちの短剣には、毒が塗られていることに気づく。
襲ってきた少女は、シオンの状態が悪くなる様子がなく、自分が殺されかけたにもかかわらず武器を抜かずに動かないシオンに一抹の不安を覚え、勢い良く足を踏み出して走り出す。
接近にしながらも彼女はナイフをローブの中から三本ほど取り出し、俺に向かって投げつけた。
シオンは、そのナイフを手で掴み取る。同時にナイフに付けられた毒を解毒し、新たに付与魔術で麻痺の効果を付けて投げ返す。
少女は、投げ返された三本のナイフに反応できずに腕や足に掠り、麻痺の効果を受ける。身体が動かなくなり、少女は地面に倒れて身体を引きずる。
目の前の少女が無力化されたことで後ろにいた獣人の少女たちが暗殺に動く。【スキル 鑑定】によればさっき倒れた少女が一番強く、リーダーだったようだ。
少女たちは後方からの投擲ではなく、接近戦に来た。先程ナイフが掴まれ、リーダーが無力化されたことで投擲の選択肢は消えた。
やはり獣人族は身体能力がヒューマン族よりも高いな。
シオンは獣人の少女らの攻撃を全て捌きながら闘い、彼女らの能力を観察していた。
だが、種族スキルである獣身化をしてこないのか? 敵わない相手に接近戦だからこそ使うスキルなんだが。それに動きの一々が雑だな。
本能的に最適化されていない? つまり、戦闘の経験に乏しいのか。
少女たちが打ち込む攻撃を受け流すことに軽いカウンターを追加してから少女たちは押され始めていた。
シオンは殺傷系の攻撃を極力使わないようにしている。
今、ルーファスの父親である現国王は、獣人族の国に赴いている。それにイスタールには、色々としてもらっている。ここで奴隷にされている彼女らを引き渡せば、それなりに恩を返せる。
だが、いつまでもゆったりしているわけにもいかない。【固有スキル マップ探査】によれば、魔物の大移動の方向に学園の拠点が存在する。この森の魔物は弱いとはいえ、数が多すぎる。ミノタウロスとハザードライガーで少しはレベルが上がっているため、多少の時間は稼げると思われるが。
摩耶たちがいれば、まず問題がない。しかし、多方面から襲われれば、守り切れない。ついでにライオスたちも。
まだ出していたゴーレムを先に拠点に向かわせる。摩耶宛に手紙を持たせて。
少女たちもそろそろ本当にシオンに敵わないことを理解してきた。焦ったようにシオンの心臓に目掛けて少女たちの一人が突きを放つ。
「がはっ!」
シオンにやはり躱され、右手で腹に掌底を打ち込まれて口から鈍い声が出る。そして、意識を失った。
他の者も気絶させて最初の少女のように無力化させていく。
シオンは彼女たちの装備を見て、まだ持っていた武器を抜き取る。
「これのせいで獣身化が使えなかったのか」
彼女たちの首輪を視て、首輪の効果を調べる。内容は、主人に対して絶対の服従。反逆の阻止。種族スキルの使用不可。特定の魔術の使用不可。
使用できないようにしている魔術は、神聖魔術。奴隷が神聖魔術を使えなくとも、念には念を入れて一応使用不可ということにしているようだ。種族スキルの禁止は、首輪を付けた側がその力を恐れているということだろう。
ここで彼女らを放置していく訳にもいかない。しかし、【空間魔術 格納庫】には、生物は入れることができない。だからと言って、【固有スキル 宝物殿】に入れたくは無い。
【空間魔術 異界作成】で森と平原の世界を創り、【森魔術 植物操作】で木を家に変える。その中に放り込む。尋問は後でいいだろう。ここまで離れていれば、彼女たちの主の命令は届くはずもない。
異界作成の魔術は、空間の神の権能に近い魔術である。
完璧な世界化はできないが、草木を配置したりすることはできる。小規模で完全な世界の劣化版を権能ではなく、魔術で可能とする。
ただその分魔力はかなり取られる。俺には大した量ではないからデメリットは無いに等しい。
・・・
拠点に向かって走る。もう襲撃者はいない。闇ギルドの者は、足を追って動けないまま今も放置状態。
乱戦になっている拠点に着いた。
まだ完全には侵入されておらず、拠点の外で魔物と戦闘を繰り広げ、多少の魔物が脇から入り込んでいる様子。
俺が始めにすることは、囲まれないように拠点の周りに外壁を作ること。
「【地魔術 土流壁】」
【魔の神 タナトス】の加護の力を使って地魔術の効果を五割上げる。土流壁は拠点を囲み、戦闘が起こっているのは大量に魔物のいる拠点入り口のみとなった。
拠点の周りから侵入しようとしていた魔物は突如出来た石の壁によって阻まれる。
「摩耶、状況は?」
「あ、シオン様! ゴーレムの援軍ありがとうございます。敵が弱くても数が多くて面倒だったんです」
「ゼノビアたちは?」
「個々で迎撃に当たっています。一か所に集まっていても抜けられるので。この壁は、シオン様が?」
「ああ。じゃあ、俺も迎撃に加わろうかな」
「それならすぐに終わりそうですね。しかし、こんなことがあっては、もう遠足は終わりですかね?」
「まぁ、そうなるだろうな」
加護の力をまた封じ、【スキル 限定】を使う。
「じゃ、早速。【火魔術 追炎鳥】」
上級魔術で一掃は、後々面倒になる。ここは、中級魔術で殲滅する。
この魔術は、炎に鳥の形を与え、鷲並みの速さで敵に飛んでいく。全20羽でそれぞれ魔物に突っ込んでいき、その身を焼いていく。
ちなみに操作は自由。ターゲット設定も自由。
それを連続で使い、学生を避けて魔物だけを焼いていく。
「誰の魔術かは知らねぇが、ありがたい。確実に魔物共は減っている。あと少しだ、気合入れろ!」
・・・
「負傷者はこちらへ!」
教職員の指示で魔物との戦闘の負傷者が一か所に移動させられる。
拠点に戻って粗方魔物を狩り、残りを摩耶たちに任せたシオンは、負傷者の治療の支援に行く。
「聖女様、お願いします」
「ええ、お任せください」
怪我をした学生や冒険者、職員を聖女であるリンが治療していく。ここに怪我を治せる者は、リンしかいない。あまりに酷使している。神聖魔術を聖女という称号で強化していても魔力に限度がある。魔物が多く、その分負傷者も多い。幸い、軽傷で済んでいるが。
「【神聖魔術 治癒】」
癒しの光に照らされて患者の一人の怪我が治っていき、輝いて見えるリンの姿に見惚れている。
「ああ……痛みがなくなってきた……」
「これで傷口は塞がりました。魔物の毒もなくなりましたのでもう大丈夫ですよ」
「ありがとうございました」
「では、次の負傷者さんを」
リンの粛々と治療を行う姿はまさに聖女と呼ぶに相応しい姿だとこの場にいる者に思わせる。
「さて、俺も負傷者の治療をするとしよう。すまない、リン。交代だ」
「え? シオン? あなた、神聖魔術が使えるの? 神官しか使えないはずなのに?」
「大丈夫だ。神聖魔術以外にも人を治す方法はある。教えは出来ないがな」
シオンの他者の回復方法、シオンの現在のスキル欄には全魔術のスキルがある。が、神聖魔術をシオンとしてはまだ見せていない。
だから、公衆の面前で使うことはできない。この時代で属性の多数所持は明らかにまずい。
よって、シオンの取れる策は、越後屋の回復薬を渡す、もしくは、【特殊スキル 能力贈与】と【固有スキル 再生】での回復。
越後屋の回復薬は、流石にもう使えない。ホイホイと次々に渡していたら、俺に圧力をかけて奪おうとする者が出てくるだろうし、大量に持ち過ぎていることでヘルメスの横領と言われたり、シオンとしても怪しまれる。
残された手段は、なんか治っているように見えるが、何をしたのかわからない、だ。ここに鑑定持ちはいないし、俺の固有スキルで行っていることだ。通常スキルでは固有スキルに適うはずがない。
「じゃあ、皆さんの治療を開始します」
シオンは一人に【固有スキル 能力贈与】で【固有スキル 再生】を渡して、再生の能力で一瞬でその一人の傷が無くなっていき、スキルを剥がしてまた別の負傷者にくっつけ治していく。
消費するのは、シオンの【固有スキル 能力贈与】の時にかかる魔力だけ。再生の能力は元々、代償なく使うことができる。まさに固有とされなければならないスキルである。
しかも、能力贈与は、シオンとすべてのスキルに精通している黙示録であるエルが創ったものだ。魔力の消費リスクは極限まで減らされている。
「おお、傷が治っていくぞ!」
「おいおい、これだけ離れている俺たちの傷まで治っちまったぞ!?」
傷が治った冒険者や教員たちが興奮した様子で声を上げる。
【固有スキル マップ探査】も併用してポンポンと作業でやったのだ。恐らく、今も魔物と闘っている者たちまで治っているかもしれない。
固有スキルを併せ持つシオンならではの回復手段。一般スキルで同じことをしようと思っても絶対にできないだろう。
「え? 何? どういうこと!?」
少し離れた場所で負傷者を治療しているリンが驚きの声を上げる。
「どうかしたんですか、聖女様?」
「突然目の前の患者さんの傷が治っちゃったのよ! まだ神聖魔術を掛けていないのに!?」
やべ、人数が多かったから作業チックになっちゃって場所とか気にしてなかった。
ていうか、まだ治療していたのか、リン。もう魔力の限界に近いだろうに。その行動は、聖女に近いのかもしれないな。
「シオンね。こんなことが出来るのは、シオンが何かしたに決まってる。どうやってあの数の負傷者を治したの? まさか、あなたも聖女なの?」
「は? いや、俺、聖女女じゃないし。神聖魔術は使ってないぞ。言っただろ、神聖魔術じゃなくたって怪我を治すことはできるって」
「ううん。あなたのその容姿、実は、女性なんてこともあり得る。性別誤魔化してるじゃないの? それでなくとも、古傷まで治るなんて聖女以上の存在ということね。ねぇ、一度聖法国に行ってみない? 聖女以上の存在である貴方が先例に向かえば、神もお喜びになると思うのだけれど」
「お断りします。聖法国は嫌いなので」
「そこは私も同意見よ。だけど、あそこ以上に神聖な霊峰は他にないし」
「聖女がそんなこと言ったらダメなんじゃないか」
「いいのよ。せっかくあのうざったい神官たちから離れることが出来たんだし」
「では、教会の烈々な信徒ではないのだな」
「ええ」
「そうか。なら、改めて。越後屋商会にようこそ、聖女リン」
リンが教会の狂信者ではなく、あの宗教やべぇな側になった。
「こちらこそ」




