五十五話 創造神、包囲される
ある暗殺者は森の中で、目の前の街道を学生たちが通るのを待ち構えていた。
彼らは一週間前、ある人物から一人の学生を襲えと依頼されたのである。懇意にして貰っている貴族からのものであった。
依頼内容はある商会の一員である学生を殺す事でそれ以外は好きにして良いと指示が下りている。
当日は班行動のようなので、他のガキは自由ってことだ。
そして、殺す対象はエチゴヤ商会という今や大手の商会に在籍している人物だ。うまく対象を利用すれば、多くの金が手に入る。その後に殺すでも依頼を達成することができる。
ただその対象には、問題がある。それは恐ろしく強いということ。依頼主は、依頼を出す時にも散々注意していたらしい。
対象の名前を聞いたときは、俺もすぐに理解した。一筋縄ではいかねぇと。それでも所詮は学生レベルだ。俺たちに敵うような奴じゃないな。だが、あのエチゴヤ商会に在籍するということは、何らかの才能があることに直結する。
あの商会は、才能に溢れる者だけが入れるという噂があった。
闇ギルドにも悪事から手を切り、あそこで働いている奴もいる。
情報部というところで楽しく働けてるようだ。あいつは元々情報屋としてスペシャリストだった。今は、時々一緒に飲みに行っている。俺も暗殺の才能があると自負している。だが、俺はこっちの方が性に合っている。それに今更そっち側には行けない。
「リーダー、対象が来たぜ。それと俺たちの他にみすぼらしい格好の獣人族を発見した。おそらくは奴隷だな。こちらに気づいている様子はねぇ」
「よし、獣人は無視してかまわない。弓を準備だ。まずは戦闘の冒険者二人を優先に始末しろ」
「あと、こいつは監視していたやつが言ってたことだ。なんでも対象がこっちを見て笑っていたのだとさ」
「気のせいだろう。こっちから結構な距離空いてんだぞ。俺たちでも遠見鏡を使わないと見れないんだ。対象がいくら強くたって補助無しに俺たちを見ることはできねぇよ」
「そうだぜ、気にすんな。へへへ、終わったら、多少の女は攫っていいんだよな。ガキでもいいから楽しませて貰いやしょうや」
「おいおい、お前、ロリコンかよ。俺は冒険者の方だな」
「構わん。依頼主からは許可をもらってる」
暗殺者たちに年齢差は存在しない。
性欲の捌け口があるなら、幼い少女でも構わないのだ。今回の巻き込まれる少女たちは運が悪かっただけ。
「なんだ? 光が……」
「GUuooooooo!!」
「うわぁぁ、ミノタウロス!!」
「なんでこんな怪物がこんな時に現れるんだ! 総員、作戦は中断、魔物を先に倒す!」
「「応!!」」
「で、まだ眩しいんだが。誰だ! いい加減、やめろ!」
「リーダー、まだ何か出て来ます!」
「げっ、ハザードライガー!! ミノタウロスと同じBランクの魔じぇねぇか!!」
―――どんっ!! ゴゥ!!
突如として発生した打撃音に、暗殺者は一瞬声が出なかった。
気づけば、隣にいたはずの仲間が空を飛んでいる。否、吹き飛ばされていた。他にも、すでに喰われて死んでいる奴もいる。
そして、ミノタウロス共は移動を始めた。
短時間なのだが、彼らからすれば長く感じる間怪物が自分の目の前を闊歩している。
「さ、作戦は中止! 作戦は中止! か、各自撤退せよ!」
後退の指示を出し、自分もこの森から脱出しようとする。が、急に足に力が入らなくなる。身体の状況は、足が折れている。周りの仲間たちも同じように動けなくなっていた。足が折れた原因は不明だ。
何をされたのか、全く分からない。
そうして、闇ギルドの者たちは、移動できないようにして森の中で放置されている。
・・・
夜は交代で野営して、翌日から森に入り込むことになる。
魔物を見つけては倒すだけだが、学生にとってみれば初めての実戦である。これから四日間は森で野営訓練となる。
全員で一気に森へ行くわけではなく、拠点防衛と狩りに分かれて行動する。
野営訓練初日は、俺の属する班も狩り側になった。
獲物を冒険者の陰に隠れて狙い撃ちにしていたパーティは、集まる魔物を倒し続けて大分レベルアップを果たしていたが、周りに魔物が溢れ返り逃げられない状況になっていた。
血の匂いに誘われ溢れ返った魔物に囲まれ、帰るに帰れない有様だ。しかし、元を言えば、俺のせいでもある。この森の魔物とは雲泥の差がある魔物を俺が出したためにこの森の魔物たちが大移動をしていた。
でも、こうしてレベルが速く上がるこの環境は、いいんじゃないか? と思い始めている。
「お、おい、これでは陣地に戻れぬではないか! どうするんだ!」
エドワード君が辺りに喚いている。
「このまま魔物を倒し続ければ?」
「無理に決まっているだろう、そんなこと!?」
「いや、ここの魔物はそんなに強くないし、いけるんじゃないか?」
冒険者二人が俺の意見に賛同してくれる。
「では、俺以外の学生は後ろで魔術支援。あなたは前衛をお願いします」
戦士の冒険者に盾役、後衛の冒険者に魔術を放つ学生のリーダーを任せた。
「それはいいんだが、俺とお前の武器は、あの大群を止めることはできないんじゃないのか?」
「それは俺の方で用意があるので、それを使います」
「用意?」
「はい。越後屋商会の魔道具です。能力は、ゴーレムを呼び出すという物です」
「? 何も持っていないけど?」
「はい、これ。ゴーレムの数は、最大30体までなら出すことができます。これで壁代わりにして進みます」
【空間魔術 格納庫】からゴーレムの時と同じように意味ありげな魔道具を取り出す。
「空間魔術か! それにこれってあれだろ、失われた技術の魔道具――ロストアイテムってやつだろ」
「はい、そうです。ロストアイテムです」
新ワードがいきなり出てきて少し焦るが、話に乗っかる。
どうやらロストアイテムというのは、それは大昔に滅んだ古代文明によって生み出された恐るべき力を秘めた魔道具の事のようだ。
極々稀、本当に世にも珍しい程に遺跡などから発掘される真道具の価値は計り知れず、金貨数千、物によっては金貨数万枚の価値があるとされている。
そして中には金に換えられない程の価値がある品すらあると言う話だ。
俺の周りじゃ、聞いてない言葉だ。過去に誰かが国宝級だなんだと喚いていた気がする。魔道具一つで様々な呼び方があるのだな。
しかし、便利だな、ロストアイテム。過剰な力を使ったとしてもロストアイテムと言って魔道具っぽい物を見せれば、それで怪しまれない。
「流石は越後屋商会で働いてることだけはあるな」
あまり価値を知らないような戦士の冒険者はそれで流すが、魔術師の冒険者はあごが外れそうな位に驚きの顔をしている。
「よく知ってますね」
俺もそんな魔術師の顔の感想を流す。
「有名だぞ」
「そうでしたか。役割も決まったことですし、開始しましょうか」
「ええ、そんなあっさりと」
「さっさと突破しないと拠点の方も大変になりますよ」
「やべぇじゃねーか! 早くこのことを伝えねぇと拠点が潰れるぞ!」
・・・
「【風魔術 ウインドボール】」
「「【火魔術 ファイアボール】」」
「「【水魔術 アクアアロー】」」
魔術師の冒険者の風魔術を皮切りに子供たちが使える下級の火と水の魔術をゴーレムと魔物が混戦している所に放つ。俺の出したゴーレムとこの魔物の耐久力は全く違うため、魔物だけが倒れ、ゴーレムは悠然と立って周りを警戒する。
シオンの【地魔術 クリエイトゴーレム】で作った騎士型のゴーレムたちには、同じく地魔術で地面からできたデカい盾と槍を持たせている。これも頑丈でミノタウロスの攻撃なら強靭な攻撃を一撃くらいは耐えられる。
中級の魔術が使えるであろう魔術師の冒険者がわざわざ下級の魔術で魔物を倒しているのは、この先長期戦が見込まれるからだ。
「やっぱすげぇな、このゴーレムたち! だけど俺も負けないぜ! おらっ!」
強力な盾を持ち、森の魔物を一撃で屠れるゴーレム。その横で弱った魔物を斧で攻撃する冒険者と後方から冒険者を筆頭に魔術を撃つ子供たち。
その状況は、パワーレベリングにしか見えない。でも、これで世界の質が本当に一部分だけ上がった気がする。1%もいってないじゃないかな。
しかし、そのおかげで少しずつ効率が良くなっていく。もう少しでここの魔物は片付く。後は、拠点に移動した魔物たち。
「よっしゃー! 助かったぞ!」
子供たちは戦闘が終わり次第に疲れて膝を付き始めた。
戦闘の緊張感もあるだろうが、これはレベルアップ酔いだろう。急激にレベルが上がったことにより、身体がその変化に付いていけず、酔いのような状態異常に陥る。
「で、どうします? 彼らには、しばらく休憩が必要でしょう。そのためにあなた方もここに留まらないと危ないでしょうし」
シオンは冒険者の不たちに声をかけ、次の行動を決めようとする。
「そうだですね。シオンくんってあの【撃滅者】でしょ? 君なら一人でも十分いけるんじゃないかな? 依頼を受けたこちら側としては情けない事なんですがね」
「【撃滅者】? なんだ、それ?」
「あなたはなんでそうズボラなんですか! 街中で話題になってる少年ですよ! 我々冒険者や騎士たちが集まってようやく倒したあの化け物を一人で怪我もなく倒した少年の話が!」
「じゃあ、俺はここから単独行動ということで」
「すまないな」




