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閑話 従業員、エチゴヤを知る

 私はエチゴヤ商会で働くカルナという者です。前は、とある領地の令嬢で、今はメネア様の補佐をさせてもらっています。


 兄弟たちによって奴隷にさせられて売り飛ばされそうなところを助けていただきました。


 あの汚い男どもを安易に倒していたあの強さ、闘いで髪も乱れそうなものなのに服や髪は崩れずに美しいまま。

 胸も大きくて顔も美しくて女としての自身が無くなっちゃって嫉妬するかもだったけど、それ以上に綺麗でした。

 私の身体は、……これから大きくなっていく予定です。きっと大きくなるはずよね。ね!


 メネア様は人員を欲している様子。なんでも商会を新しく建てるようだ。

 そこで私は、いえ、私たちは、自分たちをメネア様に売り込んでいた。みんな、メネア様の姿に魅了されたのね。


「そう。じゃあ、接客と経理なんですが、出来ますか? 大変ですよ、きっと」


 大変? どう大変なんでしょうか?

 しかし、大変でもメネア様のお役に立てるのであれば、恩をお返しできるのであれば、構いません。


 あ、でも、お給料はちゃんともらえるのですよね?


 メネア様は当然だと頷いてくれます。

 ただ、当面は見習いだから多くは払えないと。

 それはそうよね。がんばって働くつもりだけど、いきなり一人前の分はもらえないのは普通です。

 でも、食費や家は負担してくれると。

 ありがとうございます。


 連れてこられたのは、エチゴヤ商会というところ。名前はまだ広まっていない小さな商店だそうです。大丈夫です。私が、私たちがこの商会を大きくしてみせます。


 商会の中に入り、棚の商品を見させていただきました。私は良くはわかりませんが、それでもこの商会の品が凄い物だとわかります。こんな品質の物は、お父様の所でも見たことがありません。


 私たちがメネアさんに最初に言われたことは、身体を洗う事。

 確かに接客業じゃ、汚いと商会にまで影響が出かねない。


 お風呂から出て、着替えた服はメネアさんが用意して下さっていました。私たちのよりも綺麗な服の感じがするのですが?


 店員なら頑丈な装備が必要?

 接客業なのですよね? 別に冒険者のように魔物と闘う訳じゃないと思うのですが?

 まだ気にしないでいい?

 わかりました、メネアさんがそういうのであれば、気にしません。


 仕事は明日から、今日はあと食事だけだそうです。

 メネアさんは料理もできるみたい。あれが俗に言う完璧超人というやつですね。さすがメネアさんです。


 美味しかった。

 世の中には、こんなにも美味しい物があるのかと驚きました。私だって貴族の娘、今まで平民以上の味の料理を食べてきました。もう貴族じゃなくなりましたが。

 気づいたら、お皿が空になっていました。

 誰かが私の分を食べた?

 違うわね。

 ただ私があまりにも夢中で食べちゃっただけ。

 もっとゆっくり味わって食べればよかった。


 翌日、仕事が始まった。

 ここ、小さな商店ですよね?

 金貨、金貨、金貨、……、銀貨、金貨。

 これだけ売れているのです、銅貨が多いのは当たり前。銀貨も交じってはいますが、大部分が金貨ばかりです。あの品質の商品であれば、当たり前のはずですが、これはいくら何でも……。


 え、防衛は問題無い、ですか。それはあまり気にしていませんでした。でも、確かにあれほどの商品なら盗まれる可能性がありそうですからね。


「「「ギャー!!」」」


 今の叫び声は? え、防衛の結果ですか? なんか逆にこっち側が襲っているような音がするのですが? そうですね、盗みに来た者に容赦はありません。


 私の仕事は一日中頑張っても終わりませんでした。不甲斐ないです。何故なら、我らがメネアさんは、私たちの10倍近く書類がありましたが、その全てを正確にこなしていました。

 途中、如何にもこの商会より大きい商会のオーナーであるはずのお客様がメネアさんと対等であるかのように話していました。


 他にも色々とお客様がいらしていましたが、その全てがエチゴヤ商会のプラスに繋がるようなものでした。


 次の日、エチゴヤ商会は大通りの大きな建物に引っ越しすることが決まりました。


 あれ? もう商会が大きくなりました。私たち、特に何もした記憶がないのですが? メネアさん、何したんですか!?

 メネアさんが私たちをエチゴヤ商会に入れてくれた最初の日に言っていた『大変』の意味がよくわかりました。王都の大通りは人が朝から混雑しています。そこにどの商品も品質が高く、素晴らしい性能の物ばかり。当然、お客様が大量に入店してきました。ただ、そのお客様が想定を遥かに超えていらしたのです。嬉しい悲鳴ですね。


 その後日、メネアさんは私たちと同じような境遇の者や奴隷を持ち帰り、エチゴヤ商会に加えようとしていた。

 文字が読めない子もいるけど、そこはメネアさんがじっくりちゃんと教えていくそうです。

 私たちもありましたよ。文字が書けるのか、文字が読めるのか、計算は出来るか、挨拶は出来るか、買い物は出来るのか。

 私たちもできないことはあったけど、見捨てられたりはしないから安心して働きなさい。だからと言って怠けることは許しませんよ。


 さらに言えば、メネアさんがくれたこの見た目はひらひらのフリルでわからないけどナイフも通らない頑丈な服のようです。役に立ちますので、必ず着るようにしてください。見習いを終わると、今の私たちのように可愛い服が貰えるようになるんですよ。

 ふふ、驚いています。余程、あまり贅沢の出来ない環境で育ったのでしょうか?


 貴方たちの前に来た従業員もこの可愛い服を着たくて頑張っている人もいる。私もその一人であったの。ちょっとした優越感ね。

 でも、七日に一度、その優越感が無くなる日があるの。

 もっとメネアさんのために働きたいのにそれをメネアさんは認めてくれない。


 え、何故ナイフが刺しても身体まで通らないと知っている訳ですか? 実際に私たちを襲うようなことがあったのですよ。


 あと、ここで働くには、ある程度の護身術も学ぶことになりますので。さっき話した襲撃者はこの護身術でボコボコにしました。


 あ、何を引いているのですか? 命を取ろうとしたのです。その襲撃者は返り討ちにした私たちに殺されなかったのです。私たちは十分優しいのですよ。


 あと、何か質問はありますか?

 はい、そうですね。メネアさんは先代国王様の許可証を得ているという噂ですか。事実です。メネアさんは、先代国王様から商業許可証を受け取っています。


 他は? ああ、魔剣ですか。ありますね、たくさん。

 何故、多くエチゴヤが所持して、しかも、自分たちで使うのではなく、売り出すのか、という質問ですね。

 それは私もわかりません。メネアさんには、それ以上の武具をお持ちということなのでしょうか? これは私の推測の一つです。

 このエチゴヤには、様々な不思議があるのです。一々気にしてられませんよ。ここでは、知らない事を次々に教えられ、驚く暇なんてありませんよ。


 え? お金に触れていいのか、ですか。ええ、大丈夫ですよ。会計もしてもらうことになると思いますし。

 盗むかもしれない? そんな小銭を盗んで追い出されたい人がいるのかしら?

 ええ、そうですね。

 誰一人として頷く人はいません。当然です。


 エチゴヤの寮のことも説明しましたし、私からはもう言うことはありません。食堂の料理は、楽しみにしていてくださいね。

 こういうのを丁稚奉公と制度があるようです。

 従業員はお店に住み込みや通いで入り、働きながら仕事を覚えていくのです。

 賃金が払われるのは、一人前と認められるようになってから。ただ従業員の生活はその店の店主が責任を持つので、飢えることはない。


 しばらくして、王都だけでなく、各地にエチゴヤの支店が出来ました。


 メネアさんは当然という顔をしていますが、これは明らかに早すぎます。支店を各地に出すのに一年もかかっていないなんてことは普通あり得ないことなのですが。一年で大商会にするなんてことも不可能だと考えられていたんですけどね。


 私は新しく出した学園都市アヴァントヘルムの支店に来ています。

 たまに本店に来るメネアさんもここに来ているらしい。あのメネアさんを従えている少年がいるそうです。私は認めません。メネアさんに主なんていないのです。あの人は、全てにおいて完璧で誰かの下になんかいないのです。その人を縛り付ける人なんて私が……。


 今度メネアさんがその人物を連れてくるそうです。

 ついでにこの商会の本当のオーナーが挨拶に来るそうです。今まで私はそのオーナーにあったことがありません。

 もちろん私が休んでいた日に来たなどありません。私は休日以外はしっかりとここで朝から晩まで働いているのですから。時々、私の知らない人物が来ますが、全員女性なのでそれとは違います。彼女たちは冒険者だそうで、私と同じエチゴヤ商会の幹部のようです。


 でも、まぁ、そんな後から来た人物が今更何をしに来たのかと、憤慨しています。それは従業員一同同じ気持ちのようです。そうですよね、碌に仕事もせずにいきなり来てこの私たちが積み上げてきた商会のオーナーなんて言われても好感が持てるはずがありません。


 まぁ、ほとんどこの商会を大きくしたのは、メネアさんなんですがね。


 今日も今日とてエチゴヤ商会は繁盛しています。どの階も人でいっぱいの混雑状態です。

「すみません。通してください」

 メネアさんが会議もないのに珍しく商会に来ていました。何か重大なことがあったでしょうか?


「メネアさん、お帰りなさいませ。本日は会議の予定は入っていなかったと思いますが? それにそちらの少年は誰でしょうか?」

 まさかですね、まさか、その少年が……。


「この方はシオン様で私がお仕えさせていただいている方です。主様、こちらはカルナ。エチゴヤ商会で秘書をしています」

 嘘…でしょ…。こんな幼い子供が、メネアさんの上司。くぅ、今は耐えなさい、カルナ。子供が主人ということは、その親も主人ということ。きっとその方がよっぽど優秀な方でメネアさんが認められるほどの人なのでしょう。


「シオンだ。よろしく」


「……カルナです。よろしくお願いします」

 ちっ、こんな子供がメネアさんの主人なのか。


「メネアさん、本日はどうしてこちらに?」


「私が来てはいけませんか?」


「いえ、そういう訳ではなく、会議やどうしても来なければならない日以外はめったに来ないので……」


「まぁ、そうですね。今日は主様にこの商会を見ていただきたく来ました」


「はぁ、この少年にですか。わかりました。くれぐれも重要な物には触れないでくださいね! では、メネアさん、私はここで失礼させていただきます」

 その後、メネアさんは少年を連れて執務室に行き、仕事をするそうです。なぜあの少年なのでしょう、ムカつきます。


 少し時間がしたら、少年はどこかへ行っていきました。同時にメネアさんが従業員全員に就業時間後、集まってほしいという指示が出ました。これがオーナーの紹介の話でしょうか?

 執務室に寄った時、メネアさんの普段使う机の上の書類が無くなっていました。あれほどの書類なら今日中でも終わらないと思うのですが。


 それにこの大量の回復薬や魔剣が部屋にごろごろしてるんですが、これはいったい?

 あ、もうそんな時間ですか。わかりました。そろそろ集合時間ですものね。これが終わったら、私も行こうと思います。


「皆さん! これから重要事項のお話があります」

 メネアさんの声で従業員たちのざわざわがピタリと止みます。


「まず、このエチゴヤ商会のオーナーであるヘルメス様が来ました。では、紹介を」


「了解。私の名はヘルメス。この商会の一通りのことはメネアに任せている。姿を見せたのなんて化け物騒動の時くらいなものかな。今まで私がここでした仕事は、特には、ないかな」

 軽蔑します。よくもまぁ、そんなことを堂々を言えますね、メネアさんの庇護を受けて商会のオーナーという称号を得ている屑が。


「主様は、自身を過小評価していらっしゃいます。主様がいるからこそこの商会は上手くいっているのです」


「そうは言うが、実際に私は商会で何もしていないわけでもあるし」

 そうです。何もしていない者が偉そうに居座るんじゃねーぞ。

 なぜメネアさんは、彼をフォローしているのでしょう。疑問だらけです。というか、前に来た少年のことを主様と呼び、今来ているヘルメスのことも主様と呼んでいますね。家族なのでしょうね。似てはいませんが。似ているところと言えば、どちらも綺麗な人物ということです。少年もヘルメスも女性受けがあるのはわかります。


「主様はそうやって毎回利益を生んできております」


「わかったから。従業員たちも俺に聞きたいことがあるだろうし、その話はこのくらいで」


「はい。では、質問のある者は挙手を」

 全員が手を挙げます。


 メネアさんは茶髪の青年を指さす。

「あなたは、何故メネア様の主なのですか? あなたのような仕事もせずに金だけを貪るような方はメネア様に不釣り合いです」

 誰もが疑問に思っていたことを聞いてくれます。


「いや、ちゃんと仕事はしてるのだが。 で、その質問は、私がメネアには相応しくないということでいいのかな?」


「はい」


「私の仕事は、商品を手に入れることかな。宝石や魔剣、回復薬などの仕入れをしてるね。それをメネアに渡している。あとは、経理とかだね。人事はメネアに任せてる。この位の仕事では不満かな?」

 質問をした従業員もそれを聞いていた従業員たちもヘルメスの仕事内容に驚きます。

 それをしていたのは、メネアさんじゃないんですか!?


 ずっと疑問だったことですね。魔剣の仕入れなどどれほど苦労することか。それに加えて回復薬にしても上質な回復薬を手に入れるには、相当な錬金術師が必要です。その人物を引き入れることも大変なことです。腕のいい錬金術師はどこでも重宝される人材だからです。それをどうやって引き入れたのか。それに先王陛下の商業許可証を貰ってきたのは、彼の行いだったということも明らかになりました。それでも、不思議が解決された訳ではないのですがね。


「次の質問は誰だろうか?」


「いいですか?」

 今度は茶髪の少女が手を挙げます。彼女もメネアさんが拾ってきた人材です


「どうぞ」


「メネア様はシオン君の従者なのですか? メネア様が代表の傍にもいると思うのですが?」

 私も気になっていたことが出ました。


「そうだね。彼女は元々私の家でメイドをしていた身で、シオンくんも親類だからね。どっちにも仕えているということなのだよ」


「つまりは、メネア様はあなたの家に仕えているということですか」


「まぁ、もう家はないし、他の家族もいないから、私と彼にだけ仕えているということになるけどね」


「そうですか。それは失礼を」

 確かにそう言われたらさらに深く聞き出すことはできませんね。家族を失った気持ちはわかりませんが、家族に裏切られたことのある私には似たようなものならわかります。


「他に質問は?」

 メネアさんに再度聞かれますが、誰も手を挙げません。知りたかったことはもう聞けたので私としても十分です。まさか私たちの思い違いだったのは、申し訳ないと思っております。ヘルメスさんがそこまですごい方だったとは。


「無いようなのでこれで私の自己紹介を終わるとしよう。それと従業員の皆に信頼してもらえるように私もこれからはここでも作業をするとしよう」


「主様、ありがとうございました。では、次の重要事項です。このエチゴヤ商会学園都市支店に聖女が働きに来ることが決定しました」

 聖女ですか、またメネアさんは厄介なものを拾ってきたようです。神殿が大人しく聖女を手放すとは思えません。何か仕掛けて来るかもしれませんね。部下たちの訓練も少し厳しめにしましょう。


「相手は聖女ですが、ここでは新入りです。気を遣わずにしっかりと仕事の指導をしてください」


「「「はい!」」」

 聖女をどのように取り扱っていいのかわからない人も多いでしょうね。その心配を排除したわけですね。


「これで話は以上です。お疲れさまでした」


「「「お疲れ様でした!!」」」

 今日も楽しいお仕事の時間がこれで終わってしまいました。














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