五十二話 創造神、移動するだけでも
ただゴンツの店に行くだけなのに、俺は今、街中で襲われていた。
「◆ ◆◆……。【風魔術 風の矢】」
真横の路地から空気の矢が発射された。
シオンは、右腕に魔力を纏わせて腕を払うだけで矢を霧散させる。
「なっ、俺の風の矢が弾かれた!?」
「いやアニキ、相手は1人だ!」
「そうだぜアニキ、俺たちがまとめて掛かれば、楽勝、楽勝!」
真ん中に風魔術を打ったらしい奴が1人、その両脇に斧と剣を持った奴が2人。建物の陰からゾロゾロと出てきた。
「まったく、なんで俺はこんなにも襲われるのだろうか? 金か、力か、それとも、今の地位か? つまりは、嫉妬か。人は、強欲で理不尽な生き物だからな。まぁ、いい。とりあえず殺す……いや、殺したら後片付けが面倒だな……気絶で済ませてやるよ。感謝しながら墜ちていけ」
俺の声には、自然と威圧のスキルが乗せられて相手を怯えあがらせていた。
俺をイラつかせるなよ。もう俺に絡むというだけで俺の機嫌が悪くなるんだから。
「ごちゃごちゃうるせぇんだよ」
左端の斧持ちが斧を大きく振りかぶる。
シオンは斧持ちに向かって間合いまで一瞬で踏み込み、斧を魔力で覆った手刀で粉砕する。
そのまま斧持ちの首を蹴り上げる。
「はい、次」
身体を獲物――風属性の魔術師に向ける。
「お、おい、学園の生徒は、坊ちゃんばっかじゃなかったのかよ!?」
「何事にも例外はある」
「さっきは何で風の矢が弾かれたか知らないが、次はそうもいかないぜ! 食らえ、◆◆ ◆◆……。【風魔術 風刃】」
また魔力で覆った腕で払い消す。
「い、一体何が!?」
「単にお前の風魔術より強い強度で魔力を身体に纏っただけだ。一番雑で相手を馬鹿にする打消し方だよ」
風魔術使いの胸に拳を叩き込む。
魔術を防ぐには魔術又は魔道具しかない。戦士なら躱せばいいのだが、魔力を覆うだけで散らすのは流石に相手を格下と子馬鹿にするものだった。
「グホッ!!」
風魔法使いはあばら骨をへし折りながら飛んでいった。
「ま、こんなもんで許してやる。これ以上やったらお前ら死にそうだしな」
「…待て……よ……置い…てけ……寄越…せ……」
這いずって俺を追おうとする風魔術使い。
「しつこい。お前、何なんだ?」
「金を……寄越……!」
雄叫びを上げながら何かを言おうとした風魔術使いが再び魔法を放とうとするので、這いずる男の頭を構わず踏みつけて魔術を強制的に止める。
「ここは都市内、さすがに学生が殺人を起こさない。つまり、お前らは死なずに済む場。なんて思っているんだろ。経験を積んでみるのもいいことだろうさ、なんせ……蹂躙される側なんてめったに経験できることではないだろうしな」
「ぐはっ!」
間に入ろうとする斧持ちの男も足を蹴って転ばせ、背中を踏んで後頭部を蹴飛ばしてからさらに踏む。
「アニキ、もう辞めよう!」
「そうだぜアニキ、相手が悪すぎたんだ!!」
剣持ちと斧持ちが這いつくばりながら必死に風魔法使いを止める。
「……ダメだ。俺は、お前らみたいな必ず貴族をぶっ飛ばす! 必ずだ!!」
実力差は歴然としている。それでも俺に挑み掛かる姿勢の風魔術使い。
「必ず金を奪ってやる! その金でいつか必ず子供たちに飯を好きなだけ食わせてやって、必ず大人にしてやるんだ!! 俺が…いや、俺たちが!!」
「「ア、アニキ!!」」
「おう、そうか。ご苦労だな、正義の味方役」
立ち上がった薄ら寒い正義の味方にシオンは、蹴り飛ばす。
「ぐっ!」
地面に転がって仰向けに倒れる風魔法使い。
「誰かから力で物を奪う行動で正義面してんじゃねーよ。次、俺の領域に入り込もうとしたら、生きていることを後悔させてやる」
彼の言葉は、さらに俺をイラつかせる。
「なら、お前ら貴族が力で金を独占する行為は正義なのか!? それで飢えて死ぬガキが多く出るんだぞ!! それはお前たちの正義なのか!?」
「ちっ、正義とか(笑)」
善と悪か。世界のシステムは、他者の代わりに犠牲になる行動を何度も起こせば、世界のシステムがそれを認識して善系統のスキルを得ることができる。その頂点が熾天使の持つ美徳系固有スキルである。
逆に、悪の方は、他者に対して危害を加えるなどの行動をしたなら、悪魔の持つ大罪系統の固有スキルを得ることができる。
例えば、剣で脅されてはいたが傷一つ付かず、助けた側の者が脅していた者を殺した場合、助けた側が悪ということになる。
しかし、傷付けられた存在の近くに時長くいた者が傷つけた存在を殺すことは、善になる。
これは人質が傷を受けたかどうかで決まる。ちなみに人質を脅した側は悪になる。
このシステムを創るの大変だったなぁ。
「答えろ!!」
地面に転がりながらも、ギロリと俺を睨んで訴える風魔術使い。
「ふふ、独占? 正義ねぇ。
そもそも世界は不平等である。生を受けたその時から不公平は生まれる。才能を持って生まれる者もいれば持たざる者もいる。生まれる環境だってそうだ。裕福な家庭に貧困の家庭だってあるだろう。全ては最初から決められている事象なのだ」
そんなに正義と言われてもな。あえて正義と言うのであるなら、俺にとっての正義とは勝利。正確には、勝利した者こそが正義。生き残った者が未来を作る。
「なら、なら、俺たちはどうしたら良かったって言うんだ! 裕福な奴にちょっとくらい痛い目を見せたって良いじゃないか!」
「人には人それぞれ様々な不公平が存在する。お前が楽をしていると思う人物にだって苦悩があるかもしれない。
自分だけが不平等と勘違いするなよ! お前が勝手に自分の流儀を相手にまで押し付けるんじゃねーよ!」
「お、俺は……」
「金が欲しいなら、それこそお前が自分で奴隷落ちにでもなってその金を子に渡せばいいだろう。正義なんて所詮は、相対的で利己的な価値観だ。お前は自分の身可愛さに正義を気取っているにすぎないのだよ。最もらしい言い訳を述べてな。それにお前が他者から奪った金は、お前が独占していることにもなるんじゃないのか? だから、この世界に正義なんてものはない。正義は相対的で利己的な視点によって変化する不確定なものを掲げるな!!」
「くっ!」
それは何に対する悔し泣きか、風魔術使いはその場にうずくまって泣き始めた。
「うざってぇな。暴力で無理なら、次はお前の身内の話で同情の金をもらおうとしたか? くだらない。だが、俺は親切に情報をくれてやろう」
「ぐ、ぐす。じょ、情報?」
「越後屋商会がバイトを募集してるぞ! あそこなら賃金も他よりはマシだろう。行け!」
越後屋商会には、貧しい者を助けて国を変えていこう、というような企画を立てた。実際は、その中に才能のある者を探し出す狙いが含まれている。他には、『世界の水準を上げる』、俺の思いも入っている。
「「「は、はい! ありがとうございます」」」
話している最中に全員の身体を治しておいた。微かな威圧のスキルに反応して風魔術使いたちは、慌てて越後屋に走る。
ああ、こんなのが沢山いるのかな。嫌だなぁ、こんな雑魚相手、何度も何度も何度も何度も、面倒でストレスだ。
次からは一定の強さを持った相手以外は、即潰そう。幾分か強い奴は、半殺しで根性を改めさせて労働に回そ。
こんなちょっとした移動に一々絡まれてたらイライラする。こんな手合いは【固有スキル マップ探査】でも発見することができない。
どうしてこうも湧いてくるのか、ここはそんなに治安が悪いのかよ? 違うだろ、だったら、俺のことは放っておいてくれればいいんだよ。
仕事がないとかこんなことで俺に襲い掛かってこようとするんじゃねぇよ。いつか闇ギルドを利用してこうした輩を一網打尽にしようかな。
俺は、反省するべきと思い付いた。俺は、甘かったんだ。
こういうのは、一匹見つけたら、三十匹はいると思わないと。人とつけるのもおこがましい。匹で十分だ。
それになんだかんだと何回も殺してはいるが、結局は、生き返らせている。そうだな、俺は優しすぎたんだ。なら、ちょっとくらい暴れても構うまい。
でもなぁ、イラついてるとはいえ、すぐに殺害を考えるようになるとは。短気なスヴァルトたちの保護者として冷静な観点を持っていないとな。
そして、移動は全部転移にしようかな。それか、変装でもしたらいいかな。人は見た目が九割という、この身体が侮られる原因か。
今の世の中の子供は、こんなにも狙われることがあるのか!
そりゃ、親は過保護になるわな。これも衰退の原因の一つか。
過保護になり、子供を外に出さないようになって魔物を倒し、レベル上げをする機会が失われている。
・・・
「来ましたよっと」
「お、来たな。おい、お前ら来てくれ!」
ゴンツは奥に居る家事をしているであろう弟子たちを号令する。
「よし、全員来たな。紹介する、こいつが昨日からうちで鍛冶をすることになったシオンだ」
あれ、俺も魔剣の制作をすることになっちゃったの!?
「俺はシオンです。えっと、弟子ではないのですが、なんか一緒に鍛冶をすることになりました。よろしくお願いします」
横にいるゴンツを見ると、えっ!? という顔をしている。弟子になるんじゃないのか? とでも言いそうだ。
「弟子にはなりませんよ」
「そ、そうか。残念だ」
ゴンツの言葉に今度は弟子たちがえっ!? という顔をする。
「何ですか?」
「い、いやぁ、師匠が誰かに弟子になって欲しいって言ったことに驚いたというか。それを断ったあなたにも驚いたというか」
相当に気に入られたのだとしてもちょっと行き過ぎじゃないか? いきなり弟子になってほしいって。
「実はな、昨日置いていった剣、あれを軽く調べてみたんだが、どうやって鍛えたのかさっぱり分からん! 世の中は広いと思い知ったぞ! どんな修練を積んできたんだ!?」
なんでも、そんな自分でもわからないような鉄の精錬法を知ってる俺を丁重に扱うのは当然、と言うことらしい。自分の知らない製法を知りたいがために弟子にしたかったみたいだ。ゴンツとしては、師匠になって欲しかったようだが、立場があるためにそれは無理だったらしい。
「これがここの鍵だ。鍛造なり何なりするときにはここを使うといい。うちの馬鹿共が盗み見するかもしれんがな」
俺、現世の魔剣の状態を見たかっただけなのに、いつの間にか作る側に回ってしまった。
「今日は魔剣の評価を聞きに来ただけなので、俺はこれで」
「そうか。また来いよ! いつでも歓迎すっからよ」
ゴンツの工房を出て、今度は越後屋商会に行く。従業員に仕事姿を見せないといけないために。いけないってことはないのだが、示しがつかない。




