五十話 創造神、鍛冶してみる
「らっしゃい」
「あなたがゴンツさんですか?」
「そうだが、オーダーメイドの注文か? 俺は俺の決めたやつしか作んねぇ。武器が欲しいなら、向こうの武具を見て来い」
「いえ、別に欲しい物はないのですが、この依頼を受けた者です」
「ほぅ、欲しい物がねぇ、か。言うじゃねぇ―の」
あ、つい本音が。でも、そっちに引っかかんのか?
「お前、魔術師か?」
少し残念そうに言われてしまった。魔術師は鍛冶屋に来るなってことか?
純度の高い魔術師だって短剣くらいは忍ばせておくし、魔術を補助するような武具もある。
「魔術も多少は出来るぞ」
「武器が欲しくなったら、俺に言え。剣ならもっといい」
え、どうしよう。ご厚意に甘えていればいいのかな?
「で、依頼の内容に魔剣とあったのですが、何をどうすればいいのでしょう?」
「おう、やっと来たか! いつ来るのかと心配したぞ! だが、お前、本当に魔剣が使えんのか? だってまだ子供だよな、魔剣だって触ったことねぇだろ。まさかエルフとかか?」
「ヒューマンだ。あんたはドワーフか」
ドワーフは何故だかエルフとは仲違いしている。鍛冶神と植物神の仲が悪かったから、彼らにもそれがうつったのかもしれない。
「おうよ。依頼の内容なんだが、俺の作った魔剣を見てもらいたくてな。それに来た剣士がすげぇ奴だったら俺の魔剣を使って欲しいんだ」
宣伝の意味があるのか。
「じゃあ、早速その魔剣を見せてくれないか?」
「いや、まだできてないんだ」
「は? 出来たから評価してほしいんじゃないのか?」
「そうじゃねぇ。魔剣を作れるところまでは行ったんだ。だが、納得のいく剣にはなってねぇ。だから、魔剣が使えるやつを呼んで見てもらおうと思ってな」
ゴンツは俺を押して工房に連れていかれる。
ゴンツさんがメインで使ってる鍛冶場、他の職人達が使う鍛冶場が幾つか、大量に仕事が入った場合に使う予備の鍛冶場も幾つの部屋がある。他にも材料となる鉱物保管庫、出来上がったものを保管する倉庫等々、色々な部屋があった。
そして、ゴンツは剣を打ち始めた。
だいたい二時間が経過した頃。
「うーん、我ながら中々いい出来だ」
ゴンツは数本の魔剣を打っていた。彼には、鍛冶のスキルがなく、下位スキルの武器作成、精錬、鍛造と中位スキルの武器強化、加工ぐらいのスキルしか持っていない。
生産系スキル以外では魔力操作、属性付与だけだった。これだけのスキルを持つことはすごいのだが、どれもスキルレベルが低い。
「どうよ、この出来は今までよりもいい感じなんだが」
「正直に言っていいのか?」
「ん? もちろんだ。そうでなきゃ意味がねぇよ」
「まず、魔剣への魔力の通りが悪い」
「ぐはっ」
俺の率直な意見でゴンツの精神にダメージが入る。
「能力が少なすぎる。なんだよ、火属性の付与とスタミナ上昇しか付いてないじゃん。最低でも5つは付けられないと何の役にも立たないぞ」
「ぐほっ。で、でも、5つ以上なんて国宝になっちまうだろ」
「それから……」
その後も俺はゴンツにダメ出しをした。
「けっこう言ってくれるな。ここまでコケにされたのなんざ俺の弟子時代以来だぜ。じゃあ、お前が作ってみろや。そしたら、俺の苦労も分かる」
「構わないぞ。ちゃっちゃと作ろう。金属は俺が選んでいいか?」
「おう。見せてもらおうじゃねーの。話は剣を一本鍛えてからだ」
シオンはゴンツの持つ鉱石を見せてもらうことになった。
「おい! こいつに鉄のインゴットを出してやれ」
「うっす、師匠」
さっさと話しを進めていく、ゴンツ。
もらったインゴットを金床に置いて、鍛冶師の小槌で叩く。
キーン。
ん。なんか違和感が。
首を傾げていると、ゴンツが別の小槌を持ってきて同じように叩く。一回叩いたところでお弟子さんを呼び、彼の頭にゴンツの拳骨が落ちる。
「馬鹿野郎が! 何年鍛冶やってんだ、鉱石を溶かしてインゴットを作るところから鍛冶は始まってるっていつも言ってんだろうが!」
「うっす、すみません、師匠」
インゴットの違和感は彼の不手際だった様子。
「すまんが、インゴットから作ってくれや」
「構わないとも」
「それで何を選ぶつもりだ? 言っとくが、ミスリルなんて代物は使うんじゃねーぞ。滅多に手に入らないもんなんだからよ」
「わかってる。俺はこの鉄で十分あれ以上が作れる」
「ん? それまだインゴットになってねぇ奴じゃねーか。貸してみ、インゴットにしてやるから」
「自分で出来る。任せておけ」
【スキル 錬成】でシオンの手にある鉄の塊が形を変えていく。
「は? 何それ?」
「鉄のインゴット」
「そっちじゃなくて、今のそれ」
「スキルの方か?」
「そう」
「錬成ってスキル」
「錬金術とかのスキルか? でも、俺が知ってる【スキル 錬成】とは違った気がする。こんなだったか?」
「? 同じものだと思うぞ?」
「はぁ、しっかし、見事なインゴットだな。世の中は広いってか。師匠でも出来んのかな?」
「そのさっきから言ってる師匠って誰なの?」
「聞いて驚け、俺の師匠は、世界でも珍しい上位スキルである【スキル 鍛冶】を手に入れた男、ガンツ師匠だ」
ああ、あの人ね。俺には、あまりすごい人物には見えなかったんだけどな。素材出したら、気絶しちゃったし。
「あれ、驚かねぇの? なんだよ、もっと驚けよ! すごいんだぞ、うちの師匠は!」
前にもあまり驚かなかったってことで本人に怒られてたな、俺。この人、ガンツさんの弟子だったんだ。
「はいはい、ガンツさんなら俺も知ってるから。王都で冒険者のライオスさんていうAランク冒険者に連れて行ってもらったから」
「なにぃー! ライオスだと! お前、あの竜殺しのライオスと知り合いだったのか!」
「そんなに有名?」
「そりゃそうだろ、なんせ竜殺しだからな。で、そのライオスの剣を作ったのが、うちの師匠なんだからよ。今や、ライオスに武器を買ってもらえれば、その武器屋はそれなりに有名になれんだから、すげぇよな」
俺にとっては身近のゴリラなだけなんだよな。
「ふーん。まぁ、いいや。とにかく剣作っちゃおう」
まだ話し続けるゴンツをお弟子さんに引き渡してシオンは鍛冶場に行く。
・・・
さて、それでは早速どんな物作ってみようか。どんな能力を剣に施すか。【固有スキル 宝物殿】からかつて使っていた鍛冶道具一式を取り出し、準備。
特殊な鍛冶道具もあるのだが、今回はごく普通な道具を使って剣を作る。
とは言えこの鍛冶道具、当然重い。だが、俺のステータスであれば、持ち上げることは可能だったりする。
とりあえずインゴットを炉に入れて鍛冶スタート。
で、開始から二時間経過。
「こんなもんでいいかな」
この二時間で剣が五本できた。俺も【スキル 鍛冶】を持っているので鍛冶にかかる時間短縮と剣の仕上がりが良くなる。俺のステータスに【炎の神 ヴァジェ】の加護があるからそれも加わっているのだろう。鍛冶は金属を加工したりで大地かと思いきや火を使うため炎の神の管轄になっており、鍛冶神は炎神の配下にいる。
熱い。ずっと世の近くにいたせいで汗まみれだ。
一先ず作業場の後片付けをして、作った剣は【空間魔術 格納庫】に収納する。
鍛冶が終わったことをゴンツに伝えに彼の家に行くと、ゴンツの奥さんに風呂場へ連れていかれた。
他の若い男性職人や見習いの目に毒だそうで。
劇物扱いですわ、俺。ひ、ひどい。なんて思ってみたり。
天使や悪魔に例えられたことはよくあるのだが、劇物は無かったんじゃないかな?
汗を流して、着ていた黒の和服とは違う別の服を【固有スキル 宝物殿】から取り出す。フードの深い魔術師のような格好の服だ。前の服は、水魔術で洗い、火魔術で乾かす。
着替えてリビングに戻ると他の人たちは既に食事を終えて、それぞれの部屋や残りの仕事に戻ったらしく、奥さんと見習いの少年と弟子の男と女だけしか居なかった。
「ほへぇー、またすごい服だね」
「一般的な魔術師の装いを選んだつもりなのだが?」
「いやいや、その服って結構上質な感じじゃない?」
「どうだろうな。そういうのもわかるのか?」
「まぁ、服も装備品の一部みたいなものだからね」
女性の職人さんに話しかけられている間、見習いの少年に睨まれてたんだけど。また俺がなんかやってしまったようだ。
「あの子ね、まだ剣を打たせてもらえないの。でも、同じ歳ぐらいのあなたが鍛冶場を一つ使っていたでしょ。だかた、嫉妬しちゃってるのよ」
逆恨みみたいなものか。とは言え変に絡まれても困るな。
「あ、俺はそろそろ帰ります。この後も用事があるので。剣のほうは、明日にでも見せに来ます。まだ全てに付与し終わっていませんから。一応終わった何本かは、置いていきますね」
「おう。見ておくから、鍛冶場に置いてくれ。じゃあ、また明日な」
「はい。では、また」
鍛冶で時間が過ぎ、シオンは越後屋商会に戻る。
「お帰りなさいませ、主様。もうじきエチゴヤ商会の終業時間となります。仕事が終わり次第、一階に集まるように言ってあります」
「わかった。ヘルメスで適当に挨拶して終わりにしよう。長く話しても迷惑だろうし」
「そんなことはないかと。それよりも主様、服が変わっているように見受けられるのですが?」
「時間つぶしに鍛冶をしたのでな」
「鍛冶ですか。それはゴンツという者の所でですか?」
「よくわかったな。その通りだ。ギルドで魔剣の依頼があってな、それがゴンツの依頼だったというわけだ」
「そうでしたか。私は彼に魔剣の製造を商会として依頼したのです。はじめは、主様の魔剣をエチゴヤ商会で売っていたのですが、突如ゴンツがエチゴヤ商会に突入してきまして、『この魔剣は誰が作っている!?』と言ってきたのです。当然私は主様のことを話してはおりません。ただ話はそこで終わらず、彼は『俺も魔剣は打てる』と豪語していたので依頼してみました」
「そんなことがあったのか。彼、少し悩んでいたぞ。あまり納得のいく作品が出来ずにいたらしい。だから、魔剣を知っている冒険者に依頼を出していたのであろう」
「それでも主様の武器には、到底及びませんが。そろそろ従業員たちが集まってきています」




