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破滅した世界にて~銃とゾンビと邪神 ~  作者: ルルエル=テン
第一章
5/21

幕間 王と呼ばれるプレイヤー達

 大都市マリア。

 王都より西にある第二の都市。

 その都市の領主館の一室にて話し合いが行われていた。


「あれから3日しか経っておらず、レギオンが落ち着いていない状況の中、集まってもらいありがとうございます」


 そう言って深々と頭を下げるのは、都市マリアを拠点とする最大規模のレギオン「慈悲の心」のリーダーにして「慈悲王」という王の名を冠するプレイヤーであるマリー。

 

 仲間のプレイヤーから聖女と呼ばれる彼女は、聖女という名を表すかのように藍色を基調にした修道服を着ており、うなじにかかるほど長い金髪は緩やかなカーブを描いている。


「まぁまぁマリーちゃん。堅苦しいのは無しにしましょ」

「そうですぞマリー殿! 慈悲王ともあろうお方がそう簡単に頭を下げるものではない」

「マリーの方が大変な立場なんだから、俺らの前でくらいもっと気楽にいきなよ」


 気安い感じでマリアを気遣うのは、レギオン「戦乙女」のリーダーマチル。

 逆に仰々しい態度で頭を上げるように促すのは、レギオン「武士道」のリーダーマサムネ。

 そして軽い調子で言葉を返したのは、レギオン「獅子神楽」のリーダーアベル。


 彼らは「慈悲の心」から許可をもらい、マリアに拠点を置いているプレイヤー達であった。


 部屋に集まっている他の面々も三人に同意するように、首を上下させる。


「そう言って頂けると助かります。それではまずは初日の被害についてジークから報告させて頂きます。ジークお願いします」


 マリーの後ろに控えていたジークと呼ばれた男は淡々とした調子で報告を読み上げる。


「はっ。まず3日前、私達がマリアの門の前に転移した際、周囲にポーン、コマンダーと思われるゾンビに加え、この近辺には見られなかった変異型阿修羅とも呼ぶべきゾンビが確認されました。

 転移したばかりで混乱していたこともあり私達『慈悲の心』のみならず、他のレギオンにも甚大な被害が出ました。

 被害は『慈悲の心』が52名。他レギオンでも計82名。壊滅状態に落ちいったレギオンもあります。もしマリー様が駆け付けるのが遅れていれば更に被害は拡大していたでしょう」


 ジークは報告を終えると、再度マリーの後ろに着く。

 ジークの報告に苦虫を噛み潰したような表情になる面々。その面々を見渡しながらマリーが話し出す。


「ここで皆さんにお願いしたいことがあります。レギオンが壊滅状態になったとはいえ、生き残った方達はいます。全ての方を『慈悲の心』で受け入れても良いのですが、レギオンによって空気感だったり、雰囲気だったりが違うと思いますし、その方達にとって『慈悲の心』が合わない可能性もあります。目の前で仲間が殺された彼らには出来る限り気を楽に休める場所を提供したい。だからもし、その方達が皆さんのレギオンに行きたいと言われたら、受け入れてもらえないでしょうか?」


 再度頭を深々と下げるマリー。これに慌てて返事をしたのはマサムネであった。


「マリー殿! だから頭を下げてくれ! 我ら『武士道』はどのような者でも受け入れる準備は出来ておる」

「はっはっは! 『武士道』にわざわざ入りたいなんて奇特な奴がいればの話だけどな」

「何を! そういう『獅子神楽』こそ、アベル殿を筆頭に軽薄そうな者しかおらんではないか!」

「こらこら二人とも。マリーちゃんの話はまだ終わってないんだから静かにしなさい」


 マサムネとアベルが互いに席を立ち、睨み合うが、マチルの制止によって渋々席に着く。


「マリーちゃん。あたし達は大丈夫だよ。マサムネもああいってるし、アベルがマリーちゃんの申し出を断ることは無いしね」


 茶目っ気のある笑顔を見せながらマチルは受け入れを約束する。


「ありがとうございますマチル」

「それぐらいどうってことないわ。それで話ってのはこれでおしまいかしら? そんな訳ないわよね?」


 それまでの明るい雰囲気から一転し、目を細めながら本題を促すマチル。


「それについては私から」


 すると背後に立っていたジークが再び一歩前に進み出る。


「マリー様はこれから貿易都市ソーラに向かうことになりました。ここにいる皆さんにはマリン様不在中、マリアの治安維持や、マリアにいる住民と私達プレイヤーの間に変な軋轢が生まれないように協力願いたい。ただでさえ限られた食糧が取られるのではないかと住民の一部は警戒していますので」

「ちょっと待って! なんでマリーちゃんがソーラなんかに行く必要があるの!」

「今のマリアにマリー殿が必要な事は考えるべくもなし。納得行く説明が欲しいところであるな」

「マリーをわざわざ危険な場所に連れていくとか・・・あぁそうかジーク。お前死にたいのか」


 マチルやマサムネだけでなく、それまで軽い口調で喋っていたアベルまで剣呑な雰囲気でジークを睨みつける。


「そう熱くならないでください。ここは会議の場ですよ。もちろん説明はさせて頂きます。まず理由ですが、「慈悲の心」の幹部にアロスというプレイヤーがいます。アロスには少し年の離れた妹がいまして。その妹とアロスはアップデートを機に一緒にZWをプレイしようと、朝6時のアップデート完了後に合流する予定だったそうです。しかしあんなことがあり、アロスはその後マリア中を探すも妹の姿はなかった」

「もしかして・・・」

「そうです。マチルさんの想像通り、ZWを始めて最初に行く場所は貿易都市ソーラ。恐らく、アロスの妹はソーラに転移している。マリー様は自身のレギオンメンバーの妹を助ける為にソーラに向かうつもりなのです」


 ジークは表情を何一つ変えること無く、業務連絡をこなす兵士のように理由を話した。


「マリーちゃん。ジークの話は本当か?」

「・・・本当です」

「マリーちゃん・・・他レギオンのあたしが言うことではないけど、ここはゲームじゃないんだよ? 死んでもリスポーンする訳じゃない。死んだらそれで終わりの世界なんだよ?」

「・・・それは重々理解しています」

「それに既に3日目だ。ソーラ方面にわざわざポータルを設置している奴はいない。仮に運良くポータルを設置している奴がいても、そこから移動兵器を使っても1日以上はかかる。あのソーラで4日、いや5日間も新人が生き残れているとは考えにくいがな」


 アベルは苦言を呈するように、新人達の生存確率をマリーに告げるが、ジークがそれに横槍を入れるよう捕捉説明を始める。


「今『慈悲の心』のプレイヤーがコロン村にポータルを設置しに行っています。予定では明日にはコロン村までは向かえます」

「だからそれでも最短で5日だぞ! 誰も生きていない可能性の方が高い!」


 まるで決定事項のように語るジークに、苛立ちをあらわにするアベル。

 

「私は・・・可能性が僅かしかなくても・・・アロスは私の腹心です。助けに行きたいと思っています」


しかしマリーの意思は固いらしく、心苦しそうに自身の意思を告げる。

 その後も、マチルとアベルが思い留まるように説得を繰り返すが、マリーが首を縦に振ることはなかった。



「明日にはポータルを設置出来るでしょう。私達は明日コロン村に到着後、ソーラに向かいます。マリー様がいない間、マリアの事をよろしくお願いします」


 最後はジークが締め、会議は終わった。


 ぞろぞろとマリーを含めたプレイヤー達が部屋を出ていく中、マチル、マサムネ、アベルだけは未だに納得の行かない様子で席に着いていた。


「どう思う?」

「どうと言われても・・・ただマリー殿は何処か辛そうにも見えた」

「そうだな。まるで無理してゲームと同じように行動しているようだったな」


 三人は先ほどのマリーの姿を思い浮かべる。

 確固たる意思を持って助けに行くと言っているのに、本人は辛そうに終始口元を歪めていた。


「何事も無ければ良いのだけど」

「『慈悲の心』の幹部メンバー含めた10人で行くのだ。余程の事が無ければ大丈夫だろう」

「俺達はとにかくマリーが帰ってくるこの場所を守るだけだ」


 漠然とした不安を抱えながら三人は席を経った。



ーーーーーーーーーー



「ピット! またマリアから逃げてきたプレイヤーが渓谷まで来てたらしい。お前の機械人形が拾って来てるぞ」

「ちっ・・・またか。『慈悲の心』はどうしちまったんだ。カルベロ、すぐに援護兵を回せ。食事がとれていないようなら用意してやれ」


 都市バール。大都市マリアより更に西に存在する背を海にした都市。

 昔、海を渡って侵略戦争を仕掛けてくる他国に備えて作られた城塞都市では、ピットと呼ばれた男が、苛立ちを露わにしながら腹心であるカルベロに指示を出していた。


 ピット。レギオン「童心」のリーダーで、またの名を「絡繰王」。

 身長は145センチ程度、茶髪の髪に研究者のような白衣を羽織り、いたずら好きそうな茶目っ気のある顔をしている。

 城塞都市バールを拠点にしており、ゲームの時は幾度にも「慈悲の心」からマリアを奪取しようと、何度も攻勢をしかけていた人物でもある。

 

 ピット達が転移してから3日が経った頃、マリアからの逃亡者がバールに何人も来ていた。

 逃亡者に訳を聞くと、全員が口をそろえてこう答える。


 マリアは「慈悲の心」に支配された。他のレギオンは隷属か追放かを選ばされたと。


 ピットはそれを聞いて憤怒。放っておけば今すぐにでもマリアに進軍しそうだったところをカルベロが必死に抑えていた。


「しかし一体マリアはどうなったんだ」

「さぁな。『慈悲王』であるマリーがそんな事をするとは思えないが。こんな世界にいきなり喚ばれたんだ。とち狂っても不思議じゃない」

「それでどうする?」

「正直どうにもならん。『慈悲の心』は規模だけでいえば最大。悔しいが俺達だけでは厳しい。あっちには『聖なる盾』共もいるんだ」


 執務室のような部屋に備え付けられたソファに座り、歯噛みしながら窓の外を見るピット。


「とにかく逃げてきた奴らは丁重に扱ってやれ。俺は防備を固めてくるついでに、少しマリアを探ってみる」


 (何より大事なのは正しい情報を正しく扱うことだったな)


 カルベロに後の事を任せたピットは、バールの領主館から出ると渓谷へと向かった。

 

 

ーーーーーーーーーー



 学術都市ステイル。

 王都の北に位置し、ガリステア王国の叡智が集まっていた場所。

 そこには魔法、政治、産業とあらゆるものが学べる学院が存在していた。

 そしてその学院の隣に建設されている図書館には、これまでの魔法実験のレポートや、ガリステアの歴史から、与える肥料の違いによる作物の色の変化に関する考察など、ありとあらゆる情報が詰まっている。


 そんな図書館のに机の上に本を山積みしながら読書をしている人物が一人。

 彼の名前はシン。「謀略王」という王の名を冠するプレイヤーの一人。

 藍色の髪に銀縁のスクエア型の眼鏡をかけ、所々に金色の刺繍の入った真っ白な軍服を着ている。


 彼の率いるレギオン「袋小路」は、人数こそ他の有名レギオンに比べ少ないものの、一人一人の技量はトップクラスと言われており、実際に全てのメンバーがレベルをカンストしている。


「シン。まだここにいたのか」

「やぁガードル。ここは凄いよ。今までは単なるオブジェクトに過ぎない場所だと思っていたが、いやはやここは叡智の固まりだ」

 

 本の虫になっているシンの姿を見て、額に手を当てるガードル。

 シンはこの世界に転移して丸3日、ほとんどの時間を図書館で過ごしていた。

 

「はぁ。知識を貪るのも結構だが、こちらの事も気にしてくれ。お前は俺らのリーダーだろう」

「それはすまなかった。それでどうなんだい?」

「あぁ。今のところ順調だよ。引き続き定期的に連絡をくれるだとさ」

「そうかそれは何より。じゃあ僕はこのまま本を読んでいても良いということだね」

「はぁ。もう勝手にしてくれ」


 ガードルの返事を聞く前に既に本の虫と化したシンは、知的な笑みを浮かべながら呟いた。


「この世界に来れて本当に良かった」

 


ーーーーーーーーーー



「くそ何がどうなってやがる!」



 王都の東に位置する農業都市バイエルにある一室では「狙撃王」と呼ばれる男が嘆きのような怒声をあげていた。

 

「落ち着けシュート! 妹の事が心配なのはわかるが取り乱しすぎだ!」

「うるせぇ! もう3日だぞ! もういい俺自ら行ってくる!」

「馬鹿か! はいそうですかって俺らが言うとでも思ったか!」

「バレットそこを退けぇぇぇ!」

「おいお前らリーダーがご乱心だ! 全員で止めるぞ!」


 両手足に4人、胴体に2人、計6人に掴まれながらも、「狙撃王」ことシュートは、片目が隠れるほど長い赤色の前髪をしならせながら、必死の形相で部屋から出ようとする。

 転移してから3日。この光景は今では都市バイエルの風物詩のようになっていた。

 しばらくして、力尽きたシュートはゼェゼェと激しく肩で息をしながらへたりこむ。

 相当シュートが暴れたのだろう。シュートを止めていた6人も額に汗を垂らしながら、ハァハァと荒い呼吸をしている。


「シュート。お前がエイバルから離れられないのはわかってるだろ」

「わかってるよ・・・」


 疲れから立ち上がることが出来ないシュートは四つ足の状態で小さく呟く。

 

 農業都市エイバルにはマリアと同じように住民がいた。

 住民は何故かシュート達を快く迎えてくれたが、ここで大きな問題が発生した。


 シュートが率いるレギオン「不可視の矢」は「慈悲の心」ほどではないにしろ、大所帯のレギオンである。

 それゆえに必要な食糧は尋常な量ではない。

 プレイヤー全てが多分に食糧を持っている訳でもなく。余分に持っているプレイヤーが足りないプレイヤーに分けることでこれまでは何とか凌いでいた。

 しかし昨日、遂に「不可視の矢」が保有する食糧が全て無くなってしまった。


 シュート達が困っていると、エイバルの住民代表である人が、ある条件の元でなら食糧を工面出来ると提案してきた。

 それは田畑までの住民の護衛。

 

 エイバルは農業都市というだけあり、その領地面積が異様に広く、そのほとんどが田畑である。

 その分都市自体は小さく、主要な田畑は全て都市外にある。

 その為、作物の豆撒きから収穫まで、全ての作業をゾンビと出くわす危険がある中で行わなければならなかった。

 実際にこれまで農作業中にゾンビに襲われた者も多く、エイバルの代表はそういった現状をなんとか出来るならと、農作業中の住民の護衛と引き換えに食糧の提供を申し出たのであった。

 

 ある意味命の綱を握られた状態の「不可視の矢」は、是が非でも住民達の安全を守らなくてはならなくなり、そこで白羽の矢が立ったのがシュートであった。

 索敵という分野ではZWで最も高いと言われているシュート。

 「不可視の矢」のメンバーは、代表からの、もし住民を守れない場合は食糧は渡せない、という脅しにも似た発言を聞き、シュートに護衛についてもらうことを懇願。

 シュートも食糧という必要不可欠な部分を握られている以上断ることが出来ず、それを引き受けていた。

 

「あの野郎。最初は話のわかる人かと思ってたが、とんだ狸親父だったな」

「今更それを言っても仕方ない。別の奴をいかせているんだから、報告があるまでは我慢しかないさ」

「そうだな」


 落ち着きを取り戻したシュートは椅子に座り、両手組んで強く握りしめる。


 なんとか無事であってくれ。


 祈ることしか出来ない自分の腹立たしさにシュートの唇の端が赤く滲んだ。


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