表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/17

馬鹿とは

今回は少し真面目な話が多くなってしまいました。

ソフィーはその日、頭痛に悩まされていた。

原因ははっきりとしている。


ソファーにふんぞり返って座るこいつのせいだ。



先日、つい口が滑って喧嘩を売ってしまった相手。

そう、セドリックだ。


あぁ、お父様ごめんなさい。

まさかあんなこと言われた相手の屋敷に直接乗り込んでくる程の鋼のメンタルの持ち主だったとは思ってなかったの。



つい先日ぼやいていたお父様の姿が目に浮かぶ。


「どちらにするか、セドリック様は絶対にないがアレク様についても面倒だし、かといって中立も中立で面倒なんだよな。貴族って面倒くさいな、もうやめようかな」


と、オレンジ色に染まった空を眺めながら呟いていたお父様。


過去に思いを馳せていたソフィーを現実に引き戻す声が聞こえる。


「で?どうなんだ」

「どう、と申しますと?」

「何度も言わせるな。この僕のどこが馬鹿なのかと聞いている。僕は全てのテストで満点を取り、剣術の試合でも優勝をしている」


………。


まぁ、そこだけ見れば才能の塊で誰も馬鹿とは言わないだろうなぁ。


これは私個人の意見になってしまうけど、人の気持ちを考えられない発言を平気でするのは馬鹿だと思ったからつい言っちゃったけど、それを言っていいのかどうか。

考えの押し付けになるのではないか。


前世のクソ上司みたいに自分の意見を押し付ける人間にはなりたくないが、相手が聞いてきているなら自分の意見を言っても良い気がする。


ソフィーは言葉を考えながら口を開く。


「そうですね……。セドリック様は言葉とはどういうものだと思いますか?」

「は?質問をしているのは僕だぞ?」

「えぇ、ですからその質問にお答えするために必要なので聞いているのです」


ソフィーにそう言われ、セドリックは少し考えた。


「……、意思疎通をするための道具」

「それも、正解です」

「それも?」

「はい、ここからは私個人の意見となりますがよろしいですか?」

「僕は心が広いからな、許してやる」


ソフィーはニッコリと笑うと「ありがとうございます」といった。


「では、僭越ながら。言葉とは、【時に世界一強い武器となり、時に世界一強い防具になる】と、私は思うのです」


そこでセドリックの顔を見ると、少し難しい顔をしていた。


「では、頑張って分かりやすくしてみますね。」


そう言ってソフィーは紙に何かを書きだした。



●嫌い、死ね、クズ、ブス、つまらない。


●好き、凄い、カッコいい、頼りになる、面白い。


「これは、全て【言葉】です。

ですが、死ねと言われたら、傷つきますよね?

凄い!と言われたら、なんだか頑張れる気がしませんか?」


「あぁ、だがそんなこと言われたくらいで武器にも防具にもならないだろう?」


「では、ずっとこの傷つく言葉を言われ続けたら?絶対に言われたくないことを信じていた人から言われたら?」

「………、辛いな」

「そう、辛いんです。下手したら死んでしまう人もいます。人殺しも出来ちゃうんです」

「………」


黙り込んでしまったセドリックにソフィーは微笑みかける。


「ですが、好きと言われたら?嬉しいですよね?一番信じている人にもう死にそうなくらい辛いときに一番欲しい言葉を言われたら?生きようって思えませんか?」

「あぁ」

「でも、この言葉を上手に使うには人の心を、気持ちを考える必要もあるのです」

「心?」

「はい、今これを言われたら相手はどう思うのかということですね。例えば、一生懸命頑張って頑張って来た人に「もう、役に立たないから要らないよ。」とか言うと効果は抜群ですね」

「お前、経験したことでもあるのか?」

「さぁ、どうでしょうね」


セドリックの質問にソフィーは笑顔を浮かべるばかりだ。


「少し、難しい話になってしまいましたが、結局、人の気持ちを考えて、適切な言葉をつかえる。そんな人が私は頭のいい人だと、思います。もちろん、勉強が出来ることも剣術が出来ることも大切な事だとは思いますよ」

「どうしたらその、頭のいい人になれる?」


ソフィーは首を傾げて数秒考えた。


「自分の殻に閉じこもってないで色んな人と触れ合ったり、色んな経験をすることが近道な気がします。あくまで私個人の意見ですが」

「フッ、また個人の意見か」

「はい」


鼻で笑いながらもどこかスッキリしたような顔のセドリックにソフィーは笑顔で返事をした。


「なら、その経験をお前がさせろ」

「………はい?」


おっと、今綺麗に終わりそうだったのに、何か言ったわよね?


「だから、僕に偉そうに説教したんだ。お前が責任もってその経験に付き合え」

「えぇー」


セドリックはソフィーに強引に町へ行く約束を取り付けると、さっさと部屋を出て行った。その背中は少し楽しそうだった。


残されたソフィーは大きく息を吐きながらソファーにどさりと沈み込んだ。


「やっぱり、馬鹿ね」


そう呟いたソフィーの口元は少し上がっていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ