第12話 魔導リュックと、無限の家電庫
俺のアパートは完全に限界を迎えていた。
床の半分、壁際、ベランダ、押し入れ……ありとあらゆる場所が家電と雑貨で埋め尽くされている。
コードレス掃除機、ロボット掃除機、小型冷蔵庫、電子レンジ、高圧洗浄機、電動ドライバー、折り紙の山、ヨーヨー、Bluetoothスピーカー……。
もう普通の生活スペースがほとんど残っていない。
「これ……さすがにヤバいな」
朝、鏡の前でため息をついた俺は、スマホで検索した。
【軍用 タクティカルリュック 50L 大容量】
大阪のアウトドアショップで実物を見て即決した。
迷彩柄の頑丈なリュック。容量50L以上、ポケットが無数についており、腰ベルトやチェストストラップも完備。
価格は2万8千円。フリーターの俺にとっては痛い出費だったが、今の状況を考えれば安いものだ。
「これに……魔力を流してみるか」
アパートに戻り、リュックを床に置いて両手で包み込むように魔力を注いだ。
……ズゥゥゥン
リュック全体が青白く輝き、内部に空間が広がる感覚があった。
恐る恐るジッパーを開けると、中から淡い光が溢れ出した。
「うおっ……!?」
試しに近くにあったドライヤーを放り込んでみた。
するともう片方の手でリュックを開けると、思考するだけでドライヤーがスッと浮かび上がって出てきた。
「マジかよ……これ、アイテムボックスじゃん!」
興奮が止まらなかった。
次々と家電を放り込んでいく。
掃除機、扇風機、手鏡、水差し、電子レンジ、高圧洗浄機、折り紙、ヨーヨー、Bluetoothスピーカー……。
全部入ってもリュックはパンパンにならない。
内部空間は明らかに200L以上、しかも整理整頓された状態で収納されている感覚があった。
「これで……いつでも最強の状態で戦える!」
さらに魔力を深く注ぐと、リュックに簡単な名前が浮かんだ。
【魔導タクティカルリュック】
容量:約280L(初期)
機能:瞬間取出・自動整理・魔力保護
俺はガッツポーズをした。
「これで荷物問題完全解決だ!」
その日の夕方、佐藤零から連絡が来た。
【今夜、大阪城公園周辺で再び大型反応。WAROも動く。お前も来れるか?】
「了解。準備して向かう」
夜9時。
大阪城公園はすでに戦場と化していた。
中型・大型シャドウが20体以上確認され、コロニー型も二体出現。
佐藤零、霧島凛、天野みう、神崎蒼馬がすでに戦闘中だった。
俺は魔導リュックを背負い、颯爽と現れた。
「遅れてすみません!」
神崎が驚いた顔をした。
「高橋……そのリュック、随分と大きくなったな?」
「新調したんです。見ててください」
俺は戦闘中に初めて本格的にリュックを使った。
「魔導リュック、展開!」
思考だけで次々と家電を取り出す。
まず掃除機を吸引全開。
ゴオオオオオオッ!!
中型シャドウをまとめて吸い込み、電子レンジを投げ込んで内部爆破。
次に冷蔵庫を取り出して地面に置き、ドア全開で冷気フィールド展開。
周囲の敵の動きを一気に鈍らせる。
「みう! 今だ!」
「了解! 光の加護!」
みうの癒しの光と冷気が同期し、広範囲凍結+回復フィールドが完成。
佐藤の剣と霧島の雷撃が一気に敵を蹴散らす。
さらに巨大なコロニー型が迫ってきた瞬間、俺は叫んだ。
「全触媒同時取出!」
リュックから光の粒子が溢れ、
扇風機、ドライヤー、手鏡、高圧洗浄機、スピーカー、ヨーヨー、折り紙の鶴の群れ、電動ドライバー……
十種類以上の家電が一気に宙に浮かび、俺を中心に回転しながら魔力回路を形成した。
「生活魔力・多重複合魔法!!」
ゴオオオオオオオオオオオオッ!!!
光の旋風+冷気凍結+水の奔流+土の回転ドリル+音波衝撃+熱波が融合した、過去最大級の魔法が炸裂。
コロニー型が一瞬で粉砕され、黒い粒子が夜空に舞い上がった。
周囲から歓声とどよめきが上がった。
「なんだあのリュック……家電が無限に出てくるぞ!」
「家電魔法使い、本気出し始めた……!」
戦闘終了後、佐藤が俺の肩を叩いた。
「そのリュック……新能力か?」
「ああ。魔力を流したらアイテムボックスみたいになった。
これでいつでもフル装備で戦える」
みうが目を輝かせてリュックに触ってきた。
「わあ! 中、広そう! 私も入れてもらっていい?」
「ダメだ。家電専用だ」
神崎蒼馬が感心した様子で言った。
「君の能力は本当に無限の可能性を秘めている。
WARO本部にも報告する。君を『触媒型Sランク』として扱う方向で進める」
その夜、遺跡の第4層で短い探索をした俺は、再び玄蔵の幻影と出会った。
「高橋悠真……汝の工夫は素晴らしい。
道具を活かし、日常を愛する心……それこそが我々が求めたものだ」
風ノ弟子・蒼一が笑った。
「リュックごと風を操れ! もっと自由に飛べ!」
光ノ弟子・凛華が優しく微笑んだ。
「鏡のように、己の可能性を映し続けなさい」
俺は魔導リュックを背負い直し、地上に戻った。
黒崎剣からのメッセージが届いていた。
【そのリュック、面白そうだな。
次はリュックごと切り裂いてやる】
俺は小さく笑った。
「来いよ。
俺の家電庫は、まだまだ拡張するから」
アパートに戻り、魔導リュックを丁寧に磨きながら、
俺は新しい実験ノートを開いた。
次はリュック内部に「自動魔力循環機能」を付けるか、
冷蔵庫と電子レンジを融合させた「魔導キッチン兵器」を作るか……。
荷物問題は解決した。
これからは、もっと大胆に、もっと派手に戦える。
大阪の夜風が、リュックから少しだけ漏れ出した風と混ざり合う。
俺の日常は、
ますます楽しく、
ますます強くなっていく。
第12話 終わり




