セラフィーナの選んだ道
自分の身体が妊娠して既にキャパオーバーの私だったけれど…セラフィーナから聞かされた事実はキャパという名の堤防を決壊させるレベルの衝撃だった。
だって…プロポーズって、女同士だよ?あ、いや、身体は男と女だけど…
「プ、プロポージュって…」
思わず変な言葉になったのは目を瞑って欲しい。これを驚かずにどうしろというのだ?元から私のキャパは大きくないって言うのに…
「ええ、先日、クローディア様がマクニール侯爵家にいらっしゃった時に…」
「で、でも…お、女の子同士…だよね?」
「そうなんですけれど…今のクローディア様のお身体はフレデリク殿下ですし…」
いや、そうなんだけど、確かに身体は男と女で、ついでに何年も前からの婚約者同士だけど…王子の中身はクローディアで、元は女の子なんだよ?しかもプロポーズした相手は自分の身体だよ?ちょっとどういう事よ…
(それって…クローディアが自分大好きナルシ―の百合…だったって事?)
ちょ…随分詰め込み過ぎじゃない、その設定?いや、クローディアがずっと、自分が男だったら…って思っていたのは知っている。けどそれは、マクニール侯爵家の跡取りとしての意味で、女の子と恋愛したいとか、そういうんじゃなかったと思うんだけど…
「元の身体に戻る可能性もほぼない状況ですし、婚約は王命で解消も難しいお二人でしょう?クローディア様はこのままマクニール侯爵家に婿として入って、当主になりたいとご希望なんです」
「うん、まぁ、クローディアならそう言うだろうね。実家を大切に思っていたし」
「ええ、当主としての教育も受けていらっしゃいましたから」
「そうかもしれないけど…セラフィは?クローディアの事、苦手だったんじゃない?」
そう、私の知っている限り、セラフィーナはクローディアに苦手意識を持っていたように見えた。才色兼備で完璧主義の令嬢、我が国の気高きばら、それがクローディアだ。そんな彼女は、下位貴族の教育しか受けていないセラフィーナに厳しく、セラフィーナが元の身体に戻りたがっていたのも、そこら辺が関係していたと私は記憶していたんだけど…
「元の身体に戻れないと分ってから、色々お話ししてきました。それで…その、ゆっくりでいいからいずれは夫婦としていい関係を築いていきたいと仰られて…」
「でも…」
「それに私、以前、ずっと考えていたんです」
何を…と思う私に、セラフィーナは初めて自分の気持ちを素直に話してくれた。
アイザック様に以前、クローディアが中に入った王子はセラフィーナにとって最高の相手ではないかと言われ、それがずっと気になっていたと言う。確かにアイザック様の言う通り、男性が苦手な彼女には、見た目が女性的で中身がクローディアの王子は、恐怖を感じることなく接する事が出来る希少な男性だった。
一方で、元に戻ってアイザック様と婚約解消しても、いずれは誰かに嫁がなきゃいけないし、その時にセラフィーナに選択権はない。下位貴族であっても、貴族の娘の結婚は家のための義務だからだ。もし主家や上位貴族に望まれたら、意に添わぬ相手でも断るなど出来ない。それが現実だ。
「元に戻って意に染まぬ結婚をするよりも、クローディア様の方がずっと安心です。クローディア様の変わりは大変ですけれど、クローディア様は自分が当主になったら、無理に表に出なくてもいいと言って下さって…」
「クローディアが…」
クローディアがそんな事を言うのが意外に感じたけれど、一方で納得でもあった。あの二人は私と出会うずっと前から、この状況の中で協力し合っていたのだ。友情が芽生えてもおかしくないし、ある意味秘密の共有者として特別な仲間意識が芽生えるのは想像に難くない。
それにクローディアは実家のマクニール侯爵家への思い入れが強いから、王子として婿入りし、自身が当主として手腕を振るいたいと思うのも納得だ。
それに…クローディアもあの王子を夫にするくらいなら、男としてセラフィーナを妻にした方がマシだと思ったのかもしれない。私も王子とセラフィーナを比べたら、セラフィーナを選ぶだろう。王子が女でも妻にするのはちょっと…不安が大き過ぎる。それを夫に…は、うん、無理…
「確かにそうだけど…じゃ、ご家族は?」
「どうせ結婚したら会う機会も減りますから…それにセイナ様がローウェル侯爵様と結婚するのは確定でしょう?それなら両親に心配をかける事もありません」
むしろアイザック様と婚約解消したら傷者と言われ、ロクな縁談が来ないだろう。そうなると余計な心配をかけてしまうから、とセラフィーナは笑みを浮かべた。
「クローディア様でいた方が、影から両親の助けは出来ると思うんです」
「まぁ、そうだけど…」
「ですから、セイナ様が気にする必要はありませんわ。私、慣れてきたのもあってか、今の生活の方が楽しいんです。こうしてセイナ様やクローディア様というお友達も出来ましたし」
そう言ってセラフィーナはにっこり笑みを浮かべたけど、その笑みには無理をしているような雰囲気はなく、嘘はないように感じた。
「でも…さすがに私の前でキスとかは…控えて欲しいですけど」
「あ、当り前よ!そんな人前でなんて恥ずかしい事…!」
「だったら構いませんわ。どうかその身体をよろしくお願いします」
「本当に…いいの?」
「ええ、勿論ですわ」
そう言って花のように笑ったセラフィーナは、とっても綺麗だった。
私の知らない間に、彼女たちは現状を受け入れて前に向かって進んでいた。私だけが取り残されいるような気がした。




