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目覚めたらピンク頭の屑ヒロインだった件~罰は醜怪騎士団長との婚約だそうです  作者: 灰銀猫


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王子フラグの有効期限は?

 それから半月が過ぎて、私はアイザック様と一緒に国王陛下主催の夜会に来ていた。王宮はあの王子に出会う可能性が高いから来たくなかったのだけど…陛下から直々に招待状が届いてしまえば、しがない子爵家の私に断れるはずもなかった。

 そりゃあ、アイザック様の婚約者として、いつかは出なきゃいけないとは思っていたけど。その点に関しては特に問題はない。問題なのは、小説で私に恋して婚約破棄を目論む予定の王子なのだ。


 その王子はフレデリク第三王子で、セラフィーナと同じ十七歳。黄金の髪と空色の瞳の、中性的な美貌が眩しいと言われている。クローディアの婚約者で、幼い頃は共に育ち、非常に仲がよかったと言う設定だ。

 それが変わったのは思春期に入ってからで、優秀なクローディアに対して劣等感を感じ始め、思春期特有の諸々もあって徐々に距離が出来る…という状態だった。


 ぶっちゃけ、成績優秀な侯爵令嬢と比べられてプライドが傷つき、その上で美少女の彼女に対して劣情を抱いて…ってとこなんだろうと私は思っている。

 小説では王子とは四か月ほど前の春明祭で出会う事になっているけど、そこは意図的にスルーした。今更彼とどうこう…って事にはならないと思いたい。こっちは興味がないし、アイザック様と婚約しているのだ。それに、私とアイザック様の仲がいいと言う話は徐々に広まっているらしいから、今更横槍を入れてはこないだろう。


 そう思ったから私は、アイザック様の婚約者として夜会に出席したのだった。





 今日の夜会も、アイザック様からドレスを贈られた私だった。今日は若草色を基調としたドレスで、スカートの裾には黒と青の糸で刺繍が施されている物だった。うん、確実にこれはアイザック様の色だね。年若い婚約者にここまでしてくれるなんて、気遣いの出来る大人だなぁって思う。

 あ、ちなみにアイザック様はいつもの黒晶騎士団の正装だ。よくお似合いで惚れ惚れする、ほんとに。この世界のイケメンの定義が日本と違っていたのは、私にとって幸運だった。


 アイザック様と入場すると、やっぱり注目された。今まで陛下があの手この手を尽くしても婚約者が出来なかったのに、一回り下の小娘と婚約したともなれば、そりゃあ、周りも色々気になっちゃうだろう。一時は無理やりとか王命とか色々言われていたらしいけど、私が事ある毎にアイザック様との仲良しアピールを披露したせいか、近頃は私のアタックで婚約したと言われているらしい。お陰で私はゲテモノ好きの令嬢と揶揄する人もいるらしいが…アイザック様の素晴らしさが理解出来ない人に何を言われようと知ったこっちゃなかった。




「セラフィ、疲れていないか?」

「えっと…その、少しだけ…」


 うん、さすがにず~っと挨拶回りで疲れました。主に足が。高いヒールに長いスカートで歩きにくいんだよね。裾さばきで転ばないか神経使うし、履き慣れない高い靴は腰にきます…って、身体は十代だから問題ないか…

 そんな私を気遣って、アイザック様は会場に面した庭に案内してくれた。ここはライトアップされていて中々に明るいけど、会場よりは薄暗い。あちこちにベンチがあって、休憩できるようになっているのだという。中々に風情があってロマンチックと言えよう。


「飲み物を持って来よう」


 私をベンチに座らせたアイザック様は、そう言って会場に戻っていった。ちょうど喉も乾いていたから有難い。本当に気遣い上手な方よね。そんなところもとっても好ましいなぁと後姿を見送っていたら、誰かがその間に立った。


(え?邪魔なんだけど…)


 そう思って見上げたその先にいたのは…ライトに照らされて青みを帯びた金髪が目立つ男性―いや、少年だった。逆光だからはっきりはしないけど、細身の身体に女性のように細い線の整った顔立ち。ドクン…と心臓が跳ねるのを感じた。


「どうしたの?気分でも悪いの?」


 声を掛けられて…全身の鳥肌が立った気がした。その台詞は…小説で王子がセラフィーナにかける台詞だったからだ。


(う、嘘…まだフラグ、有効だった、の…?)


 嫌な汗が背中に流れた気がした。王子との出会いは春明祭で、お忍びで街に遊びに行った時の筈だ。あれから既に四か月余り、そんなフラグはとっくに無効になった筈。なのに…


「どうしたの?本当に気分が悪そうだけど?」

「…え、っ…いえ、大丈夫です…」


 何を動揺しているんだよ、私!と思うも、想定外の出来事に頭が真っ白になっていた。何か言い返さないと…問題ないと、大丈夫だと言わなきゃ…と思うのに、とっさの事に言葉が出ないし、出てきた声は…私らしからぬ掠れた声だった。


「具合が悪いなら休憩室に…」

「どうかなされたか?」


 王子の声に被さったのは、聞き慣れたアイザック様の声だった。


(アイザックさ―ん!!!た、助かったぁ…)


「…っ、ローウェル侯爵…」

「これは殿下、どうなさいましたか?」

「あ、いえ、そこのご令嬢が…気分が悪そうだったので…」

「そうですか。それはご配慮ありがとうございます。彼女は私の婚約者ですので、後は私が」

「え?あ、あの…」

「何か?」

「い、いや…じゃ、彼女を頼む」

「勿論です」


 すっごく、ものすご~く後ろ髪を引かれるように、王子が去っていった。私は彼が離れた事にホッとして、思わずため息が出てしまった。ああ、ビックリした…まだ動揺が収まらないわ…


「大丈夫か、セラフィ?」

「え?ええ。知らない方に急に話しかけられたので…驚いてしまって…」

「そうだったのか。彼はフレデリク第二王子殿下だ」

「そ、そうだったのですね」

「大丈夫か?気分が悪くなったのならそろそろ引き上げるか」

「え?でも…」

「必要な挨拶は終えているから問題ない。それよりもあなたの方が心配だ」

「…ありがとうございます」


 アイザック様の提案を、私は一も二もなく受け入れた。王子の出現に動揺してしまった今は、同じ空間にいたくなかったからだ。ああでも、アイザック様がいて下さってよかったとしみじみ思った。私は差し伸べられた手の温かさに、ほっと安堵感が広がるのを感じた。




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